ネットの話題
ステロイド塗り薬は怖い? 「ストロング」でも真ん中クラス
「以前は『脱ステ』をして、オーガニックに走ってしまった」。SNSで発信する医師たちを集めたイベントで、参加者から投げかけられた言葉。登壇した医師の一人は「まず、話してくれてありがとうございます」と答えました。医療情報がネットにあふれる現在、アトピー性皮膚炎などの治療では「ステロイドは怖い薬」といった誤ったネット情報が拡散されがちです。ネットの情報とどう向き合えばいいのか。医師たちの言葉から考えます。
アトピー性皮膚炎はどんな風に発症して、悪化するのでしょうか。
環境や、本人の乾燥しやすい体質などもありますが、堀向さんは「簡単に言うと、乾燥体質になって、皮膚のバリアが弱くなって湿疹ができ、その皮膚の湿疹からシグナルが出てかゆみをよりひどくする……このサイクルが回っていると考えてください」と言います。
この皮膚のバリアが弱ってしまったところに塗るのが「保湿剤」です。保護のための武器になります。
一方で、できてしまった湿疹を治療するのはステロイドなどの「抗炎症薬」。この二つがアトピー性皮膚炎の治療の柱となっています。
堀向さんも、「つらさは分かります」と話します。
アトピー治療の研究は進んでいます。赤ちゃんの頃から1日1回以上、保湿剤を全身に塗っていると、乾燥したところに塗る子よりも、発症リスクが3割減るという報告もあります(J Allergy Clin Immunol 2014; 134:824-30.)。
抗炎症薬で湿疹を治したあとに保湿剤をぬると、ふたたび症状が出る「再燃率」を減らすこともわかっています(Adv Ther 2017; 34:2601-11.)。
【書きました】「ステロイドは怖い薬」と信じ、 #脱ステ で子どものアトピーを治療しようとした…。なぜ怖いと思ってしまったのでしょうか?
— 水野 梓 (@mizunoazusa11) April 24, 2019
今は「親のエゴだった」と振り返るお母さん。同じ思いをしてほしくないとインタビューを受けてくださいました。ぜひご覧ください。https://t.co/ohcbmNZooB
SNSの「ステロイドは毒」といった情報を信じて、ステロイドを使わないクリニックに通い、「脱ステ」「脱保湿」といったハッシュタグで情報収集していました。
もともとステロイドは、体の中でつくられるホルモンを薬にしたものです。
さらに堀向さんは「ステロイドの外用薬(塗りぐすり)と飲み薬は別のお薬と考えてほしい」と言います。塗り薬に含まれているステロイドは0.1%ほどと濃度が薄く、ネットで「怖い」とされている副作用の情報が、飲み薬のものだったということもあります。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2018)によると、ステロイド軟膏はストロンゲストからウィークまで、5段階に分かれています。
「ストロング」と聞くと、かなり強い軟膏なのでは?と感じてしまいますが、堀向さんは「ストロングといっても真ん中(普通)クラス。ちょっとネーミングが悪いので、最近は『真ん中のクラスを出しておきますね』と伝えるようにしています」と話します。
最も強いⅠ群(ストロンゲスト)は副作用のリスクが懸念されるため(Endocrine 2010; 38(3): 328-34.)、Ⅴ群(ウィーク)は弱すぎて保湿剤とあまり差がないため、ほとんど使われません。ただ、ステロイドの吸収率の高い、目の周りや陰部にはウィークを使うことがあります。
ステロイドは怖い薬ではないけれど、堀向さんは「副作用がないと言うつもりはありません」と言います。
ステロイドの塗り薬をだらだらと塗っていると、皮膚を支える「柱」がだんだん弱くなって、皮膚が薄くなる副作用が出ることもあります。
そこで、現在の中等度以上のアトピー性皮膚炎に対する治療は、ステロイドを使った「プロアクティブ療法」が主流になっています。
堀向さんは「中等症以上の子どもには、薬物療法からスキンケアを中心にランディングさせていく、ステロイドを『減らす』『止める』を目標にします。早めの治療で、早めに治しましょう」と呼びかけます。
分かりやすい医療情報を届けようと、日本アレルギー学会は「アレルギーポータル」で情報を発信しています。堀向さんのように医師たちが情報発信することも増えてきました。
堀向さんは「エビデンス(科学的根拠)ってすごく分かりづらくて伝えにくい。その間の行間をどう埋めるかを考えながら情報発信しています」と語ります。
イベントの質問の時間には、4歳の娘がひどいアトピーだったことから「脱ステ」へ向かった女性が思いを打ち明けました。
「以前は脱ステをして、オーガニックに走ってしまった。今は、医療を拒否しているわけではありませんが、添加物を避けてシンプルな食材を使うようにしています。でも、『自然派』が叩かれて傷ついています。そんな中、『自然派』と書かれている保湿剤や化粧品を使い続けてもいいのでしょうか」
堀向さんは「外来でも決して少なくないお話です。まず僕は『話してくれてありがとうございます』と伝えます」と話します。
「使っているものが把握できない方が困ってしまうからです。保湿剤やサプリも含めて話してくれたことにまず感謝します。そして、使っていてその人に合っているならいいと考えています。そもそも保湿剤それぞれを直接比べた研究はほとんどなく、『これがおすすめ』というのは難しいんです。ただ、あまりにも高価だと全身に塗れません。毎日のことですからお値段のことも考えながら続けてほしいです」
「自然派を否定はしませんが、食物成分が含まれていてアレルギーになる人がいることもあって(N Engl J Med 2003; 348:977-85.)、通常の保湿剤をお勧めすることもあります。でも、食事も保湿も含めて、その子が身長・体重などの面でも健康に成長するのであれば、道筋はどれでもいいのではと考えるようにしています」
「オーガニックのものを使いたい」と言ったら医師に否定されるんじゃないか……そんな質問者の不安感がとてもよく分かりました。専門家側にありがちなのが「自然派なんて」「トンデモなんて」と一蹴してしまう反応なのではないでしょうか。
ネットは手軽に情報が得られる反面、偏った意見がぶつかることで不安な人を混乱させてしまうこともあります。異なる考えであっても、まず受け止めて話を聞くことから始まることがあるのかもしれない、そう感じました。
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