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#32 #となりの外国人

災害情報を「自動翻訳」に頼った結果……おかしな多言語に外国人は?

10月の台風19号では、日系ブラジル人らが多く住む街で、ポルトガル語の文の文法が不正確に訳され、「川へ避難するように」とも読める内容で送られました。外国人住民や観光客に向けての多言語での情報発信は大切なもの。どうやったら間違いが起きないか、考えました。

台風などの緊急時に、誰でも分かる多言語の情報をどう発信するか考えます
台風などの緊急時に、誰でも分かる多言語の情報をどう発信するか考えます 出典: 写真はイメージ=PIXTA

目次

10月の台風19号では、日系ブラジル人らが多く住む街で、自動翻訳された避難勧告のうちポルトガル語の部分が「川へ避難するように」とも読める内容で送られていたことが明らかになりました。幸いこの地区では川の氾濫の被害はありませんでしたが、外国人住民や観光客に向けて多言語で情報発信する大切さが広まっているだけに、注目されました。やさしい日本語にしながら、外国人と専門家と考えました。
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台風なのに「川に逃げて」 メールの中の間違い【やさしい日本語】

80以上の国から来ている市民のため、急いだ呼び掛け

問題になったのは、浜松市が提供する「防災ホッとメール」の緊急情報でした。なぜそんなことが起きてしまったのでしょうか。当時の記事を元に、市に話を聞きました。

10月12日夕方に、市は高塚川周辺などに避難勧告が発令されたことを知らせるメールを2通流しました。

日本語の文はこのような内容だったそうです。

浜松市からのお知らせです。今、大きくて、非常に強い、台風19号が近づいています。高塚川周辺に避難勧告が出ました。対象地域、○○地区、○○地区。

浜松市には80以上の国籍の人が暮らしています。
急いで翻訳しようとこの日本語を自動翻訳ソフトにかけました。すべての言語は網羅できないため、まず英語に。そして特に多い日系ブラジル人のために、その英語の文をポルトガル語に訳しました。また、日本語を勉強した人が分かりやすい「やさしい日本語」でも文を急いで作り、流したそうです。

この配信をフェイスブックに引用して掲載した浜松国際交流協会が、数日後、文が正しくないことに気づいて、指摘しました。
ポルトガル語の文を無理やり日本語にすると以下のようになっていたそうです。

発信されました。お知らせが。あなたが避難するために。高塚川。○○地区、○○地区。

一見すると「川に避難するように呼び掛けているとも読める」として、問題になりました。

使い慣れない自動翻訳、時間的な焦りも

市の担当者によると、使ったのはGoogle翻訳でした。「翻訳ソフトを使うのはイレギュラーな対応でした」と言います。

担当者は「非常に恐ろしいと言われていた台風で、避難勧告が出たことで、必要なメッセージを日本語以外でも出さなければと思いました」。とっさの対応だったと言います。

浜松市は全国でも、ブラジル国籍の人が多い地域です。情報発信として、ポルトガル語を普段から重視していました。

普段はバイリンガルの非常勤職員がいました。でも当時は休み。「非常勤職員なので24時間365日の対応を求めるのは難しい。やれる範囲でやるしかないと思っていました」と話します。

担当者は自動翻訳について使い方を心得ていなかった反省も口にしました。
「自動翻訳を使うことに慣れていませんでした。自動翻訳は精度も上がっていて、有効な手段だとは思います。もう少し私たちがきちんと訳にかける原文を熟慮して翻訳にかければ、よかったのかもしれません。時間的な焦りもありました」

浜松市には「誤っている可能性があるなら、情報自体出すべきではない」との指摘も寄せられました。しかし今後も大切な情報を伝える手段として、多言語発信を止めることは考えていません。

対策を考えています。「24時間365日、確認できるバイリンガルとの契約ができればベストですが」と前置きし、「今すぐできることとしては、日頃から緊急時に流せる多言語のテンプレート集を用意しておきたいです」

「浜松市の経験を生かしてもらいたい」と他の自治体担当者からの問い合わせにも答えています。

多言語発信をどうしていくべきか
多言語発信をどうしていくべきか 出典: イラストはイメージ=PIXTA

自動翻訳は「逆翻訳」で確認を

今回の台風時に、多言語通訳センター「ランゲージワン」は24時間365日の翻訳サービスを無料で受けました。担当のカブレホス・セサルさんによると、一番多かった依頼は、自治体からのメールなどの案内文の翻訳だったそうです。

一方で、人的な翻訳体制を整えるのは通常は大変なコストがかかります。

セサルさんは「自動翻訳でも一度原文を翻訳した後に、その文章をもう一度翻訳にかけて日本語にする『逆翻訳』をすれば、間違いがないかどうかチェックすることができます。医療現場でも患者とのコミュニケーションで逆翻訳をして自動翻訳の精度を高める模索もしています」と紹介しました。

「人の通訳、機械の翻訳、さまざまなツールを使って、多言語での情報発信が当たり前になれば良いと思います」と話しました。

「ランゲージワン」のセサルさんは「人の通訳、機械の翻訳、さまざまなツールを使って、多言語での情報発信が当たり前になれば良いと思います」と話してくれました
「ランゲージワン」のセサルさんは「人の通訳、機械の翻訳、さまざまなツールを使って、多言語での情報発信が当たり前になれば良いと思います」と話してくれました

ただやさしく言い換えるのは「やさしさ」ですか?

多言語でできればベストですが、緊急時にはなかなか難しいです。今回の台風でも注目された「やさしい日本語」で、この記事を分かりやすく書いてみました。

中国人の章蓉記者に確認してもらいました。

「川の増水」という表現について、私は「川の水がとても増えた」と訳しました。外国の方から「熟語よりも訓読みの方が分かりやすい」と聞いていたためです。

ところが章記者は「『水がとても増える』って、普段使う表現ですか?」と指摘しました。「分かりやすい表現にするのは大切ですが、緊急時によく使われる『増水』という表現も勉強できる方が良いですよ」

確かに災害時は、ニュースや役場の情報など「増水」「氾らん」といった日常的に使われない災害用語があふれます。ただやさしい日本語に置き換えるだけでなく、外国人が他の情報に触れるときに助けになるようことも考えて、「水がとても増える(増水)」などのように、説明を加える方が「やさしい」のかもしれないと感じました。

自動翻訳について取材したこともある章記者は「街なかには思わず笑ってしまう自動翻訳があふれています。ある程度、日本語が分かる人だったら笑い話になるけど、本当に大切な情報だったら大変です。母国語にしてもらえるのは親切でとても有り難いことですが、観光地や役所などの情報が間違えているとイメージダウンにもつながるので、もったいないと思います」と話しました。
やさしさのポイント


災害時には多言語での情報提供が特に重要になります。
しかし、自動翻訳にはまだ問題が多く、完全に自動翻訳に頼るのは危険です。
一方、翻訳を全て人手で行うと、翻訳できる言語や量が制限されます。
自動翻訳の長所を活かすには原文の日本語をできるだけわかりやすいものにしておく必要があります。例えば、「○○川周辺に(避難勧告が出ました)」を「○○川の近くに住んでいる人に」のように言い換えてから自動翻訳を利用すれば、今回のような誤訳は防げただろうと思います。
自動翻訳を過信せず、適切な形で利用することで、外国人への情報提供の手段が増えると考えられます。

庵功雄(いおり・いさお)さん:一橋大学国際教育交流センター教授。日本語教育の専門家。主な著書に『やさしい日本語――多文化共生社会へ』(岩波新書)、『<やさしい日本語>と多文化共生』(ココ出版・共編著)など。

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