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海洋堂が挑んだ「超高難度フィギュア」1300年の「古さ」どう表現?

完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)
完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)

目次

像高2mを越える国宝・百済観音が、手のひらサイズの仏像フィギュアになりました。古代彫刻の傑作に挑んだのは、数々の精巧なフィギュアを手がけてきた海洋堂です。製作陣の前に立ちはだかったのが、1300年という「古さの表現」です。熟練の塗装師が編み出したのは、なんと、あえて傷をつけるという技法。「長い年月の重み」に向き合ったフィギュアの製作秘話を聞きました。

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大阪府門真市にある海洋堂本社
大阪府門真市にある海洋堂本社
テイラノサウルス(左)とトリケラトプス(右)が飾られた海洋堂の社屋
テイラノサウルス(左)とトリケラトプス(右)が飾られた海洋堂の社屋

きっかけは「阿修羅像フィギュア」

大阪の小さな模型店からスタートした海洋堂は、今年で創業56年目。アメリカ自然史博物館の恐竜模型を手掛けるなど、国内外でその高い技術が評価されています。

「阿修羅像フィギュア」を手掛けた2009年をきっかけに、新聞社などが主催する展覧会に合わせて様々な仏像フィギュアを製作しています。

2009年に製作された「阿修羅像フィギュア」(提供=海洋堂)
2009年に製作された「阿修羅像フィギュア」(提供=海洋堂)

そんな海洋堂が、法隆寺が所蔵する国宝・観音菩薩立像(百済観音)のフィギュア化に挑みました。

国宝・観音菩薩立像(百済観音) 飛鳥時代・7世紀 法隆寺蔵  写真=飛鳥園
国宝・観音菩薩立像(百済観音) 飛鳥時代・7世紀 法隆寺蔵  写真=飛鳥園

7世紀に制作されたとされる飛鳥時代を代表する仏像は、2メートルを超える像高に8等身でスラリとした像容、やさしいお顔と水瓶を軽くつまんだ左手に特徴があり、その異国的なイメージから「百済観音」という愛称が一般化しています。

原型製作→複製→塗装→量産

「フィギュアで世界征服する」をスローガンに、森羅万象のフィギュア化に挑戦しているという海洋堂。その製作工程は、「原型製作→複製→塗装→量産」の四つに分けられます。

百済観音フィギュアの原型製作を担当したのは、元海洋堂社員で現在はフリーランスの造形師、加藤哲朗さん。写実的な原型製作が得意といいます。

法隆寺での入念な現地調査をもとに、像高約210センチの百済観音を、およそ16センチの大きさで再現。破損の危険がある部分などには一部アレンジを加え、完成したフォルムをデータとして納品します。すると、昨年社内に導入されたという3Dプリンタから、原型が出力されます。

3Dプリンタ。2019年から本格的に導入したという。
3Dプリンタ。2019年から本格的に導入したという。

複製の工程は、3Dプリンタから出力された原型を、塗装に適した素材に置き換えるための作業です。

シリコンゴムで原型を形取って「型」を製作すると、そこにレジンキャストと呼ばれるプラスチック素材などを流し込み、像を複製します。

塗装師は日本画専攻で爬虫類好き

塗装師の清水ゆう子さん。工房にて撮影。
塗装師の清水ゆう子さん。工房にて撮影。

塗装の工程では、ペイントマスターと呼ばれる着色見本を塗装師が製作します。この色見本を元に、量産の工程では、手作業で着色がおこなわれます。

百済観音フィギュアのペイントマスターを担当したのは、海洋堂入社22年目のベテラン、清水ゆう子さん(47)。

新卒で海洋堂に入社すると、生き物の塗装やアクションフィギュアの塗装を経験し、現在では社内に3人いるという塗装師の中で、ガチャガチャのキャラクターなど「かわいいもの担当」をすることが多いといいます。

大学では日本画を専攻していたそうですが、「爬虫類ばかり描いていた」と振り返り、海洋堂への入社の動機を「とかげが作りたくて」と話します。

業務時間外には、趣味で爬虫類のフィギュアを製作するそうで、この「ちょっとやばい」爬虫類への愛情が生み出す精巧なフィギュアで、ファンから絶大な人気を集めています。

爬虫類から仏像まで、リアルなもののミニチュア作りが好きだという清水さん。阿修羅像や帝釈天騎象像など、過去にも仏像フィギュアの塗装を経験されており、実績は十分です。

法隆寺での現地調査。百済観音を前に特徴をメモする。(※許可を得て撮影しています)
法隆寺での現地調査。百済観音を前に特徴をメモする。(※許可を得て撮影しています)
調査時に記したメモ。現場で感じたことを、スケッチとともに記録するようにしているという。
調査時に記したメモ。現場で感じたことを、スケッチとともに記録するようにしているという。

苦心した「古さの表現」

塗装担当に決まり、百済観音を初めて写真でみた時の印象を「神秘的で異国情緒が漂う不思議な感じ」と振り返り、法隆寺での現地調査では「想像していたよりもずっと大きくて、圧倒的な存在感があった」と話します。

現地調査で感じたことのメモを元に、塗装作業が始まりました。

苦心したのは「古さの表現」でした。かつては極彩色で塗られていたとされる百済観音は、これまで大切に守り継がれてきましたが、1300年の歴史の中で色みの剝落やひび割れが生じています。

百済観音の比類ない魅力は、この古さにも宿っているのであって、塗装師としての力量が試されました。

剝落やひび割れを塗装でどのように表現するのか、清水さんは原型に傷をいれるというこれまでにない提案をします。

完成した原型の上に、リューターと呼ばれる切削工具であえて傷をいれることで、フィギュアの表面に凹凸をつくります。そこに細筆で塗装をすることで、「凹凸のある、古い感じ」の表現が可能になりました。

塗装を終えた清水さんは、百済観音の魅力を「像のもつ穏やかな眼差しや温かさ、全身にゆっくりと時間をかけて刻まれた長い年月の重みにある」とし、「その魅力を塗装によって伝えられていれば」と話しています。

完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)
完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)
完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)
完成した百済観音フィギュア(提供=海洋堂)

「1300年の、その先へ」

原型と塗装のそれぞれで監修を受けた百済観音フィギュアは、法隆寺公認の初めての仏像フィギュアです。何度も修正を繰り返して完成した、こだわりが詰まった作品です。

法隆寺の国宝・観音菩薩立像(百済観音)は、1300年以上前につくられたとされる古代彫刻の傑作です。海洋堂が製作した百済観音フィギュアは、そんな貴重な文化財を後世に伝えていく一助となりそうです。

フィギュアは、2020年春から東京国立博物館で開催される特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」(朝日新聞社など主催、2020年3月13日から5月10日)を記念して製作されました。フィギュアは会期中、会場にて数量限定で販売されます。入場券とフィギュアがセットになったお得な前売券も枚数限定で販売。詳細は公式サイトまで。
https://horyujikondo2020.jp/
 

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