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コラム

女子ソフト・宇津木麗華監督の「細かすぎる」指導 甲子園記者が体感

かつて日本代表の強打者として打線を引っ張った宇津木麗華監督の前で、素振りを披露する記者
かつて日本代表の強打者として打線を引っ張った宇津木麗華監督の前で、素振りを披露する記者 出典: 朝日新聞社

目次

このたび2008年の北京五輪以来、東京五輪で3大会ぶりに復活する女子ソフトボールの担当になりました。高校は常総学院(茨城)の一員として、2003年夏の甲子園で優勝も経験しましたが、ソフトボールの知識はほとんどありません。特有のルールは、最近覚えたばかり。「競技の理解を深めるために、ここは身をもって体験しよう」と、日本代表の宇津木麗華監督が見る前で、選手と対戦させてもらったら、それ以降、監督からバットの振り方を教わるようになりました。「選手によって違う」と言われるスイングの方法をリポートします。(朝日新聞スポーツ部記者・井上翔太)

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「次世代のホープ」と対戦

それは昨年12月中旬、沖縄県読谷村で行われている強化合宿でのことでした。

取材後、チームとの懇親を兼ねて、報道陣と試合が行われたのです。

「相手は日本ソフトボール協会職員の皆さん」と聞いていたのに、いざ試合前のあいさつで向き合ったのは、選手たち……。エースの上野由岐子投手(ビックカメラ高崎)は合宿に参加していないため、出場しませんでしたが、来年の東京五輪で金メダルをめざすメンバーと対戦することになったのです。

2019年8~9月のジャパンカップに出場したソフトボール女子の日本代表選手たちと宇津木監督
2019年8~9月のジャパンカップに出場したソフトボール女子の日本代表選手たちと宇津木監督 出典: 朝日新聞社

「2番サード」で先発出場した記者が左打席に立ち、一回の第1打席で勝負したのは、トヨタ自動車の後藤希友(みう)投手。

日本人左腕最速と言われる110キロ台前半の速球が魅力的な、次世代のホープです。

投球練習をする後藤希友投手
投球練習をする後藤希友投手 出典: 朝日新聞社

打たれるわけにいかない後藤投手は、投球練習から本気モード。

初球は外角の速球に対して、「見極めたのか、手が出なかったのか」すら分からず、判定はボール。

2球目、まさかのチェンジアップが来ました。空振り。

3球目。おそらく再びチェンジアップだったと思います。

バットの芯に当てたけど、一塁手・洲鎌夏子選手(豊田自動織機)の逆シングルキャッチに阻まれ、一ゴロに終わりました。

結局、2打数無安打。試合後、グラウンド整備をしていると、「もっとこうやって振ってみたら?」と声をかけてくれた人物が……。

それが2000年シドニー五輪決勝のアメリカ戦で本塁打を放った、宇津木監督だったのです。

打撃練習を見つめる宇津木監督
打撃練習を見つめる宇津木監督 出典: 朝日新聞社

なんと実戦的な指導

翌日は、宇津木監督が見守る中で素振りでした。

「振った後に、体を反らしてみたら?」

「そのためには右足を突っ張らせないと」

「上半身は全力で振らなくていい」

「フォロースルーは高く」

「動体視力を鍛えるには、駅を通過する新幹線を目だけで追うといいよ」

宇津木監督の前で、スイングを披露する記者
宇津木監督の前で、スイングを披露する記者 出典: 朝日新聞社

様々なことを指導されました。どうやら178センチ、80キロ台の体に合った打撃フォームを探ってくれていたようです。

最終的に「スタンスを広く取り、最初から右足に重心を置くフォーム」に落ち着きました。下半身主導で、上半身はほとんど使わないイメージです。

「これで速球を待っていてチェンジアップが来ても、崩されながら対応できる」と宇津木監督。

なんと、実戦的な!

人それぞれ違う

宇津木監督は打撃練習中、じっと選手の姿を見つめ、その特徴に合わせた教え方をします。

取材を通じて、記者と同じようなフォームを教わっている選手を見つけました。捕手の我妻悠香選手(ビックカメラ高崎)です。

2019年の日本リーグ決勝トーナメントで本塁打を放つなど、打撃面で急成長を遂げています。

「以前は120%の力で振っていたんですけど、今はボールが来る方向に体を持っていって『伸ばすだけ』のイメージです。監督がアドバイスしてくれると、打てそうと思えるんです。打席では、監督の声が聞こえるイヤホンを耳につけたいぐらい。冗談ですけど」

我妻悠香選手。身長172センチの長身捕手だ
我妻悠香選手。身長172センチの長身捕手だ 出典: 朝日新聞社

一方で、練習への意識や高い打撃技術などから「女イチロー」と呼ばれる左打者・山田恵里選手(日立)は、まったく別のことを言います。

「重心は後ろの左足です。タイミングを取るときに右足を着地しても、右足に力を入れません。投手が球を離してから球種を判断して、球の軌道にバットの角度を合わせるんです」

野球と違い、球が浮き上がる「ライズ」という球種もあるソフトボール。

それには「自分は左投げなので、投げるようなイメージで振ります」。

金メダルを獲得した北京五輪決勝のアメリカ戦。東京での再戦も予想されるオスターマン投手から打った本塁打も、そんなスイングでした。

山田恵里選手の打撃フォーム。後ろの左足に重心を残している
山田恵里選手の打撃フォーム。後ろの左足に重心を残している 出典: 朝日新聞社

選手それぞれに合うスイングを探求する作業は、野球以上に奥深いかもしれません。

そしていつか後藤投手と再戦したいので、合宿地を離れても練習を続けることを宇津木監督と約束しました。ひとまず東京・大井町にあるソフトボール専用のバッティングセンターで、打ち込みたいと思います。最寄り駅のホームでは、通過する急行列車を目で追います。

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