連載
#40 #父親のモヤモヤ
ワークよりライフが「戦場」 子育ての大変さ、父親も発信していい


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育児と仕事に奔走していたら、ある日突発性難聴に。ワーク・ライフ・バランスなんて誰が言った? ライフはもはや「戦場」で、むしろ働いているほうが気が休まるという逆転現象……。
アスキーのウェブメディアで連載記事「ほぼほぼ育児」を担当する、編集者の盛田諒さん(36)。同じく編集者で共働きの妻と家事育児をシェアしながら、仕事をしています。記事には、育児のおもしろさとつらさがユーモラスに描かれています。どんな思いで記事を書いているのか。盛田さんが抱える「父親のモヤモヤ」を聞きました。
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
2カ月の育休。突然の失職経験が影響
妻は7歳年上。いわゆる高齢出産にあたり、妻の両親も高齢です。育児をめぐって頻繁に何かをお願いするのも難しい。そして盛田さん自身、新卒で入った会社が2年でつぶれる、という経験をしています。
「どっちかが働けなくなったり、会社がいきなりなくなったり。そのときにどっちかが子育ては自分はできません、となったらやっていけない。同じだけの子育てスキルが双方にあったほうがいい、というのが育休をとった直接のきっかけになりました」
育休中のできごと、初めての子育てを通して得た発見や驚き。「育児はすごい、地獄と幸せが同居している」「赤ちゃんがわたしを親にしてくれる」「うんこを冷凍してはどうか?」……。ユニークなタイトルとともに、記事は連載「男子育休に入る」にまとめられています。
男性の育休取得率は6%ほど。世の中全体でみれば珍しい存在で、当然のように発信も少ない。ならば自ら発信してみよう。それが記事を始めるきっかけでした。そして復職後、後継企画となる「ほぼほぼ育児」を始めました。

「ワンオペ育児」で突発性難聴に
記事のなかで「2歳児くん」と表現される長男は、イヤイヤ期を迎え元気いっぱい。そのエネルギーはすさまじい、と言います。
「子育てしながら働くことの大変さを、正直なめていました」
編集者の妻は週末の出勤も多く、そうなると一人で2歳児くんをみることになります。
記事のなかでは、日々の「戦場」ぶりを紹介しています。
朝は6時に起き、乾燥機にかけておいた洗濯物をたたみ、2歳児くんに朝食をとらせ、着替えをさせ、「保育園行かない」とダダをこねるところを説き伏せつつ、保育園へと送ります。
時間に追われるように仕事をし、帰宅はだいたい午後8時。保育園の迎えは妻の担当です。そこから協力してお風呂に入れ、寝かしつけるまで息をつくひまもありません。週末も全身全霊で向かってくる2歳児くんにヘトヘト。異常な疲れ具合。恐ろしいほどあっという間に流れていく時間。「エネルギーも時間も等しく吸い取っていく2歳児くんは、まるでブラックホールのようです」
昨年6月、ストレスから突発性難聴になりました。
ゴールデンウィークの10連休を乗り切った後の5月。40度近い高熱が出ました。妻の仕事の関係もあり、そのなかで「ワンオペ育児」をせねばならない事態に。そこはなんとか乗り切ったものの、今度は2歳児くんが風邪をひき、会社を休んで看病することに。突発性難聴になったのはその後のことでした。
医師の診断と治療を受け、2週間ほどで快方に向かいましたが、この経験を通して、盛田さんは「危うさを感じた」と言います。
「子育てをしているだけなのに、自分の身がボロボロになるという現実。自分自身の健康を保って育児にかかわらないと、家族全体が崩壊する危険がある、と実感しました」。一番弱い立場にあるのは、子どもである2歳児くん。そこにしわ寄せが行くことは避けなければいけません。「もっと誰かに頼るなり、助けを求めるなりしないといけない」と考えさせられたそうです。

ライフのつらさ、もっと発信していい
ワーク・ライフ・バランスでいうところのライフが「戦場」になってくると、むしろ働いているときのほうが気が休まるという「逆転現象」が起きてくる、と盛田さんは話します。
もちろん、子どもと過ごす時間は楽しい。幸せ以外のなにものでもない。それでも、「ライフがつらい」という現実がもっと社会のなかで共有されていいのではないか――。
男性の育休義務化も議論されていますが、盛田さんはこう指摘します。「その後の子育て家庭の大変さに目を向けずに、育休がすべての解決法であるかのように考えられてしまうと、何かが違うと感じてしまいます」
家計に余裕がなく、共働きせざるをえない家庭も多いはず。それなのに、子どもを持つことで抱える困難が「親の自己責任」であるかのように放置されているのではないか。そう盛田さんは考えます。
記事に対し、女性読者からは「男性からもこんな声があがる時代になったのか」と好意的な反響も届いているそうです。
「父親が『つらい』と発信することは少ないと思うんです。いまはまだ過渡期なのかもしれません」と盛田さんは話します。
終わりは決めず、可能なかぎり、徹底的に育児と仕事をするなかで直面するできごとや、揺れる気持ちも書いていきたいという盛田さん。発信を続ける理由を改めて聞きました。
「『親業界』のなかで、父親はまだマイナーな存在ですよね。それが将来、メジャーになったとき、『こんな発信が過去にあって、いまのような社会になってきた』みたいな、そこに至るまでの石ころのひとつ、にでもなってくれたらありがたい。そんな気持ちで記事を続けています」

取材を終えて
深刻になりすぎず、軽いタッチでユーモアを含みながら、育児家事と仕事をするなかで抱えるモヤモヤを的確に描く盛田さんに共感をおぼえました。
男性優位の社会のなかで、育児家事と仕事の両立に悩んでいるのは圧倒的に女性です。その現実を生きている女性を前に、男性がモヤモヤを発信するのをためらってしまう気持ちが湧くのもまた事実。でも、女性だから、男性だから、ということでなく、生きづらいと感じる社会のしくみは、一緒に変えていきたいと考えます。
年が明けて2020年。「#父親のモヤモヤ」を通し、積極的に発信を続けていければ、と思います。
父親のモヤモヤ、お寄せください
記事に関する感想をお寄せください。「転勤」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。会社都合の転勤は、保育園の転園を迫られ、パートナーが退社を余儀なくされるなど、家庭に大きな影響を与えます。仕事と家庭とのバランスに葛藤するなか、みなさんはどう向き合っていますか?
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。
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