連載
#5 #カミサマに満ちたセカイ
「包茎って悪いこと?」僧侶に届いたDM、たじろく質問にとった行動
目を見張る質問……僧侶の答えは?

「包茎は悪いことですか?」。僧侶の稲田ズイキさん(27)には、自身のツイッターアカウントで、そんなダイレクトメッセージ(DM)を受け取った経験があります。「キリスト新聞社」(東京都新宿区)社長の松谷信司さん(42)も、漫画の趣味や進路相談までされることがあるそうです。宗教とは関係ない、一瞬、たじろいでしまうような質問。実は、こうした苦悩に向き合うことにこそ、宗教者が考えるべき「救いの本質」が見いだせるのだと、二人は語ります。一人の人間として、誰かの悲しみに寄り添う上で、必要なこととは? 現代における伝統宗教の役割について、二人の対談から考えます。(構成・編集=withnews編集部・神戸郁人)
対談した二人の宗教者たち


対談では、稲田さんが送る「家出生活」が話題になりました。所属する寺を離れ、他人の家を転々としながら、自分の生き方を見つめ直すのが目的といいます。僧侶でありながら「自分探し」を続ける稲田さんの姿に触れ、松谷さんは、キリスト教徒が直面する現実について話し始めました。
牧師のツイッターに寄せられた質問
以前、教会を出て人々と交わる若手牧師を取材しました。彼に聞いた話なんですが、ツイッターのプロフィールに「牧師」と書いているだけで、DMが質問が届くようになったそうです。牧師はどうやって生計を立てているのか、何を考えているのか……。文面を読むと、そんな問いがあふれていた、と教えてくれました。本当は、みんな知りたがっているんですよね。
会社や学校で悩んでいても、相談相手がいない。苦しむ人の逃げ場所として、教会やお寺が、話を聞いてくれる人として、僧侶や牧師がいる。そう考えれば、人々の悲しみの受け皿になることは、出来るのではないでしょうか。

「ブッダやイエスは引退しない」
「ドルオタ(アイドルオタク)界隈(かいわい)は宗教コミュニティーと似ている。違うのは、アイドルが『卒業』すること。崇拝対象がいなくなると、ファンは気持ちの行き場を無くしてしまう」。その点、ブッダやキリストが引退することはありませんよね。
生きていると、誰かに評価されることがあります。テストの点数を他人と比べられたり、年収や子どもの有無などで、存在価値を値踏みされたりする場面は、少なくありません。
しかし宗教的価値観は、点数や物量では計れず、普遍的です。そうしたものを大事にする、ちょっと変わった人間が、俗世と全く違う「世界線」で生きている。そんな状況に救われる人たちもいるかもしれません。

同時に、僧侶や牧師は揺れ続けないといけない、とも感じますね。不変である宗教の教えと、自分なりの生き方を求める、人間らしさの間で。

「童貞」の質問が照らした存在意義
昔だったら、考えられないコミュニケーションですよね。そういう形で投げかけられる疑問に答えるのも、宗教者の役割かなと思っています。
そうやって引き寄せられた悩みと向き合うのも、宗教者的な生き方だと感じています。

「自分が属している宗教の戒律などを気にしながら関わることは、その人をおちょくることでもある」と。
2018年春に話題となった、大相撲春巡業中の出来事とも重なりますよね。女人禁制の土俵で倒れた市長を、女性が救命しようとして、降りるよう促された話です。人命がかかっているんだから、土俵に上がっても良いに決まっている。聖書の物語と、構図がすごく似ています。
その上で、自分が望む生き方をしていると、共鳴する人々が集まって来てくれます。いわば「バイブス」が合う人同士で、それぞれが信じている「物語」を共有出来る。今求められているのは、そういう存在なのではないでしょうか。
