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連載

#4 #カミサマに満ちたセカイ

宗教っているの?自分探し中の僧侶と、サブカルなキリスト教徒が激論

仏教とキリスト教。それぞれのフィールドで、独自の取り組みを続ける二人がいます。対談から見えてきたのは、ネット全盛の社会における伝統宗教の役割でした。
仏教とキリスト教。それぞれのフィールドで、独自の取り組みを続ける二人がいます。対談から見えてきたのは、ネット全盛の社会における伝統宗教の役割でした。 出典: (c)Takami Kizu

目次

様々な価値観が入り乱れ、人々の悩みがネット上にあふれる現代社会。伝統宗教は、どんな「幸せ」の形を示せるのでしょうか? 実家のお寺を継いだ今も「自分探し」をしている僧侶と、教会関連のニュースを扱う専門紙を発行しながら、サブカルを活用した情報も発信するキリスト教徒。不安定な時代に、伝統宗教にしかできないことを、伝統宗教の「中の人」が本気で考えました。(編集・構成=withnews編集部・神戸郁人)

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カミサマに満ちたセカイ

斬新な切り口に定評がある二人

今回対談したのは、僧侶の稲田ズイキさん(27)と、キリスト教徒で、教会についてのニュース媒体を発行する「キリスト新聞社」(東京都新宿区)社長・松谷信司さん(42)です。2人とも、宗教に関する斬新な語り口が注目されています。

稲田さんは、「月仲山称名寺(げっちゅうざんしょうみょうじ)」(京都府久御山町)の副住職です。大学卒業後は、デジタルマーケティング会社勤務を経て、ライターとしても活動。仏教カルチャーを伝えるメディア「フリースタイルな僧侶たち」のWeb版編集長を務めたり、人気アーティストの歌詞を仏教的視点から解釈したりと、独自性の高い取り組みを続けてきました。
僧侶の稲田ズイキさん=神戸郁人撮影
僧侶の稲田ズイキさん=神戸郁人撮影
一方の松谷さんは、これまでに聖書がテーマのカードゲーム「バイブルハンター」や、各教派を擬人化した漫画「ピューリたん」を発案・製作。キリスト教と社会との、新たな接点をつくっています。

現代の日本では、人々が宗教に親しみを覚える機会が少ないと言われています。伝統宗教に、何が出来るのか? 自らの存在意義を考え続けてきた立場から、それぞれの意見を交わしてもらいました。

「キリスト新聞社」社長の松谷信司さん=神戸郁人撮影
「キリスト新聞社」社長の松谷信司さん=神戸郁人撮影

「BUMP OF CHICKEN」を仏教で読み解いてみた

――お二人は、どうして今の活動を始めたのでしょう

稲田さん僕はお寺出身で次男なのですが、両親からは「長男より、お前の方が向いている。やった方がいい」と言われてきたんですよ。それを真に受けて、小学校の卒業文集には「立派で面白いお坊さんになりたい」と書いていました。そして大学院1年生の頃、修業を経て僧侶の資格を得ました。
松谷さん僕は伯父が牧師をやっていて、彼が所属する教会に通っていました。両親が熱心な信者で、生活指導が厳しかったですね。一日30分しかテレビを見せてもらえず、テレビゲームは友達の家でやっていました。早く親元から抜け出したくて、仕方なかった。

 その後、テレビの制作会社勤務や教員を経験して、2006年、たまたま今の仕事に就いたんです。すると、信者以外の人にとっては、教会に行くことの敷居がすごく高い、と気付きました。そうした経緯から、個人的に「絶対必要だ」と思ったことを、独断で続けています。
――それぞれ、独特の切り口で、宗教を解釈されています。稲田さんは以前、ロックバンド「BUMP OF CHICKEN(バンプ・オブ・チキン)」の歌詞を、仏教的に解釈するという記事を書かれていました。「若者層に仏教を届けたい」という思いがきっかけだったんでしょうか?
稲田さん:よく聞かれますが、そういう思いは、あまりありません。自分が見ている世界を理解したい、という気持ちだけですね。バンプの歌詞は深遠すぎて理解しづらい。読み解く手段を考えたら、仏教しかなかった。僕にとっては言語であり、概念をつくってくれるものですから。
松谷さん:仏教の方が、よく分からなくないですか……?
稲田さん:歌詞の方が難しいです(笑)。世の中には、意味づけ出来ない現象や出来事ってあるじゃないですか。僕にとっての仏教は、それらを説明するための「ストーリー」を提示するもの。根拠がない物事について、納得するための理由を示してくれると思っています。

――なるほど。キリスト教にも、そうした側面がありますか?

松谷さん:ちょっと違いますが、聖書が様々な文化のルーツになっている、ということは言えますね。天使と悪魔の対決、十字架など、いわゆる「中二病」的なモチーフも少なくないですから。著名なアニメや漫画に、関連要素が盛り込まれる傾向はあると思います。
 
 たとえば、「ドラえもん」に「モーゼステッキ」という秘密道具が出てきます。作者の藤子・F・不二雄さんが、旧約聖書の世界を描いた映画「十戒」を見て、劇中に登場する預言者・モーゼから着想を得たとも言われているんです。
稲田さん:なるほど! キリスト教も仏教も、2千年以上前から、ずっと続く世界観であり、かつ体系化されている。創造意欲をかき立てるような面白さはあると思います。

僧侶が「自分らしさ教」を信じる理由

――こうして振り返ると、宗教的なモチーフって、身の周りに見いだせるものなんですね。一方で、そこから興味を持って「寺や教会に行こう」とはなりづらい。こうした距離というのは、なぜ生まれてしまうのでしょうか?

稲田さん:僕は「それはそれでいいんじゃないか」と思うんです。幸せなことだとも感じますし。
松谷さん:実家がなくなっても大丈夫なんですか?(笑)
稲田さん:「寺は僕の代で終わるかも」「もしお寺を続けることが、関係者にとって幸せではないなら、それは仕方ないかな」と、親と話しています(笑)。

 今ってSNSを始め、「インフルエンサー」と呼ばれる人たちが、様々な価値観について発信しているじゃないですか。それに従って生きよう、と思っている人も少なくない。彼ら・彼女らがハッピーなら、無理に仏教を伝えることって、そんなに優先されないとも思います。
松谷さん:ならば、稲田さんも僧侶でいる必要はないんじゃないかな。活動のモチベーションは、どこにあるんでしょう?
稲田さん:正直に言えば、それは「僧侶として生まれたから」としか答えられません。僕は、自分にとって楽しいと思える人と、仲良く幸せに死ねれば、それでいいと思っているので。
 
 実は僕、今年5月から「家出」しているんです。寺を離れて、色々な人の家を泊まり歩いています。これまで、仏教について色々勉強してきました。でも結局、しっくりくる道が見つからない。だったら、自分なりの仏道を「DIY」したい。そんな気持ちが基になっています。
松谷さん:他人と触れ合うことで、自分にとっての仏教の意義を知りたい、と。それは、「仏の教えを広めよう」という思いとは違いますね。
稲田さん:「自分探し」に近いかもしれません。僕は僧侶でありながら、「自分らしさ教」にも入信しているんです(笑)。
 
 仏教は、自我の存在をよしとしません。苦しみの原因を、自分への執着に求めるためです。だから仏教は「自分がある」という思い込みを取り除くべきと考えます。
 
 一方で、インフルエンサーが説く価値観や、資本主義などのイデオロギーは、自分があってこそ成り立ちます。それらに絡め取られ過ぎたとき、「自分など無い」「ただ『今』があるだけ」と思い直すきっかけをくれるのが仏教なんです。(自分が存在するという)虚構を消し去ってくれる。
松谷さん:そう聞くと、仏教の教義と、自分らしさって真逆だ。稲田さん、めちゃくちゃ揺れてますね(笑)。
稲田さん:だからしんどいですよ(笑)。「こういう自分でいたい」という思いは、「煩悩」そのものですから。

 でも煩悩があるからこそ、他人を愛すること、仏教で言う「慈悲」も実現されるんじゃないでしょうか。誰かのためになることをするには、「自分が何を相手に与えたいか」という視点が不可欠だと思います。

――自分が望むものを考え抜けば、おのずと他者につながる……ということですか

稲田さん:そうですね。僕の本名は「瑞規(みずき)」なんですが、出家するとき「ずいき」という僧名をもらったんです。でも、その名前にとらわれ過ぎて、しんどくなった時期がありました。「僧侶として生きるぞ!」と意気込みすぎていた。だから一度「みずき」に戻り、人と話したくなったんです。
 
 自分が仏教と共に生きる上で、何を大切にしたいのか。それを知ることが、「他人の喜びを自分のものとする」という、宗教の根本思想に関する、僕なりの解釈ですね。
松谷さん:稲田さんのように、宗教者が自ら他人と関わっていく、という姿勢は重要だと思います。キリスト教徒の中にも、そのことに気付いた人たちがいます。最大のきっかけは、2011年に起きた東日本大震災でした。
 
 被災地では津波などの影響で、多くの地域コミュ二ティが崩壊してしまいました。そうした状況下、現地の教会関係者は「我々がここにいる意味って何だろう」と考えた。その結果、「教会にしか真理はない」と引きこもっていてはだめだ、ということに思い至ったんです。
 
 キリスト教徒は、日曜日に教会で礼拝をします。放っておくと、毎回同じ顔ぶれになってしまう。信者以外にとって、教会に行くハードルは高くなりますよね。だから稲田さんのように、牧師こそ「家出」して、色々な人と関わっていくべきではないでしょうか。まさに、これからの課題だと感じますね。
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