連載
#183 #withyou ~きみとともに~
「学校のこと聞かれたら…」不登校の家庭を悩ます帰省、どうすれば?
新しい年、穏やかな気持ちで迎えるために
「学校のことを聞かれたらどうしよう」――。不登校の子どもの中には、年末年始の帰省をゆううつに感じている人もいます。祖父母や親戚に不登校であることを伝えておらず、びくびくしながら向かう両親の故郷。しかし、居心地の悪さやプレッシャーで、精神的にすり減ってしまうことも……。それに、気遣いでくたくたになってしまうのは、子どもだけではありません。今回の帰省のやり方、考えてみませんか。
神奈川県に住むさゆりさん(19)の家族は、お盆と正月は両親の実家に帰省する習慣があります。中学3年生の夏休み後ごろから学校に行けなくなったさゆりさんは、帰省の際、親族から学校の話題が出ることがつらく、家族と一緒に帰省できない年もあるそうです。
学校を休みがちになっていた中学3年のお盆休み、母方の実家に帰ったときのことでした。高校受験を意識した祖父から、「いい高校に行ってほしい」という言葉を何げなく投げかけられました。
学歴を重んじる祖父の考えと、現実の自分の状況との乖離に、気持ちがふさいだと言います。学校の話題に触れられるのが嫌で、次の正月は帰省しませんでした。
不登校のことを知らない祖父に、学校のことを話さないでというのは難しいかもしれません。しかし、「当然学校は行くもの」という価値観の祖父母に会うのは、しんどく感じるようになりました。
通信制高校に進学してからは家族と帰省することもありましたが、テレビで学校の話題が上がることがあります。そんなときは親族が集まる部屋から抜け出して友達に電話し、「早く帰りたい」と苦しい気持ちを聞いてもらって時間をしのいだそうです。
冬休みなどの長期休みは、他の子どもも学校に通っていないため、不登校の子どもが持つ後ろめたさも少しやわらぎます。そんなとき、学校を意識せざるを得ないタイミングが、学校の会話が出やすい帰省や親族の集まりなのです。
棚園さんは、「嫌であれば無理に行く必要はない」としつつも、「学校がせっかく休みなのに、気に病んでのびのび過ごせないのはもったいない」と話します。思い出すのは、学校に行っていない後ろめたさばかり気にする自分でした。「祖父母はたぶん僕の元気な姿を見たいだけでした。行かなきゃ2人との思い出もなかったのかな」
「気にしすぎないことも大事」という棚園さんは実際、祖父母の家では学校に行っているように振る舞っていたこともあると言います。
「それは大した噓じゃないし、それで気持ちが楽に過ごせるのであれば、悪いことではないと思います。もしかしたら冬休みが終わったら本当に学校に行くかもしれないですし。行けなくてもいいですけどね」
大阪府堺市に住むゆきさん(仮名)の小学4年生の長男(10)は、約1年にわたり不登校の状態が続いています。
これまでは毎年、ゆきさんの実家に帰省していましたが、今年は長男は家族だけで過ごしたがっていると言います。帰省中、長男は同年代のいとこと遊ぶことが多かったといいますが、普通に学校に通えている子を目の前にすると、「自分はどうしてこうなったんだろう」と思い詰めてしまうためです。
しかし、実家への帰省をためらうのは長男だけではなく、ゆきさんも同じです。「(不登校に対して)否定的な発言をされたり、『これからどうするの?』などと聞かれたときが心配です。「そんな状況はあまりに酷です」とゆきさん。
さらに「私自身への風当たりも心配」と話します。「息子のことについて『いつまでそのままでいるの?』と聞かれるんじゃないかと気が気じゃないんです」
「当事者にならなきゃ分からないだろうから、理解は求めないけど、ふれないでほしいのが本音です。明日は我が身…と思い、見守ってほしいです」と話しています。
NPO法人日本スクールソーシャルワーク協会の山下英三郎名誉会長は、帰省に対する不安は不登校の子どもだけではなく、親にもあるといいます。祖父母に子どもが不登校だと伝えていない後ろめたさがあったり、帰省によって子どもが精神的にすり減ってしまったりするためです。
「必ずしも祖父母や親戚が偏見なく接してくれるとは限らないので、正直に子どものことを伝えればいいということでもないのです」
個々のケースにもよりますが、親戚の関係性から帰省せざるを得ない場合もあります。山下さんは「子どもの精神的な安心・安定が一番なので、本人がプレッシャーを感じる状況を避けることが大事」と話します。「無理したときのダメージと比べると、帰省しなかったことを周囲にいろいろ言われた方がまだマシですよね」
かと言って、親が「帰省しない」という決断をするには不安なものです。例えば、親だけで帰省したり、子どもも顔だけ出してすぐ帰ったり、「柔軟に対応していければいいのでは」と山下さんは提案します。
帰省や親戚の集まりに行きたいかどうか、子ども自身が伝えられればいいですが、親や祖父母を気遣って「行きたくない」と言いづらい場合もあります。山下さんは、「帰省の話になったとき、子どもが緊張しているかどうか、または日常の暮らしぶりからも、親戚と一緒に過ごせる状況かどうかというのは感じ取れるかもしれません」。
一方、もしも帰省先の親族に不登校の子どもがいたら、どんなことに気をつけたらよいでしょうか。山下さんは「もしも本人を心配していらっしゃるのであれば、『何かできることがあればサポートするよ』という気持ちでいてください」。
ただし、過度に気を遣われることは、本人にとっても居心地の良いものではありません。「あくまで普通でいてください」と山下さん。「学校に行っているかどうかということを抜きにして、本人を大切に思っているという気持ちを大事にしてください」
日常の生活を離れて、自分のルーツや地元の価値観に触れる帰省を、苦手に思う人も多いのではないでしょうか。親族とはいえ、普段の暮らしぶりを知らない相手に、詮索されたり、踏み込んだりしてほしくないこともあるはずです。
それが自分にとってプレッシャーや不安につながるのであれば、帰省をやめたり、期間を短くしたりすることも、ひとつの選択として適切なことだと思います。不登校の子どもやその親のみなさんが、少しでもおだやかな気持ちで新しい年を迎えられることを願っています。
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