俳優、そして「創作あーちすと」という肩書で活躍する、のんさん。最近は音楽製作に打ち込み、フェスを主催するなど、表現の幅を広げています。SNSでの発信にも力を入れるのんさんですが、活動の原点にあるのは「怒り」です。「一番、お気に入りの感情」という、のんさんは「怒りながら、世の中を明るくも出来る」と語ります。「怒り」を共感に変えながら、独自の道を切り開いてきたのんさんに、表現者としての考えを聞きました。(編集・構成=withnews編集部・神戸郁人)
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のんさんが登場したのは、先月28日に開かれたトークイベント「#ウニュトーク ココロを動かす情報発信 ~withnewsの5年間で見えてきたもの~」です。withnewsの設立5周年を記念したもので、約200人が参加しました。
のんさんは日々、
ブログや
Twitter、
インスタグラムなど、色々なSNSを駆使しています。伝えたいメッセージの内容に応じ、それぞれのチャンネルを使い分けているそうです。
今回は「人の心をつかむ情報発信」をテーマに、情報発信のスタンスに関し、奥山晶二郎編集長と意見を交わしました。
<じっくりと考えをつづりたいときはブログ、熱量の高さを伝えるならTwitter……。のんさんは、そんな具合にSNSと向き合っているといいます>
奥山編集長:インスタやブログなど、色々なSNSを通じた発信に力を入れていると思います。テレビや映画と比べて、ネットでの発信はどう違いますか?
のんさん:「のん」になってからインスタとTwitterと一緒に始めて、自分から発信していける人になりたくて。ものをつくるのがすごく好きなので、主体的に活動したいと思っていました。
そういう思いを伝える場とか、こういう風に活動してますよっていうのを打ち出していく場所をつくり、いろいろな「のん」の姿を知ってもらいたくてSNSを始めました。
奥山編集長:いろんなチャンネルがあると思いますが、SNSそれぞれの違いも踏まえた上で使い分けているのでしょうか?
のんさん:インスタは写真をつけなければいけないため、画像をメインにした投稿を考えています。コメントも長くなりすぎないよう、意識していますね。ブログは自分の気持ちや思いを丁寧に書きたいときに使っています。文章と写真の構成を、じっくり考えられるので。
Twitterでつぶやくのは、思いが高まったとき。作曲が終わった深夜などに、ばーっと書き込むことが多いです。気分が乗っているとき、楽しいときに使いますね。文字数が決まっているから、一言にまとめられない。一気に10回ほどつぶやくときもあって、自分でも後からびっくりします(笑)。
奥山編集長:Twitterは、書き手の気持ちが「のっている」様子まで伝わるメディア。のんさんに合っているのかもしれませんね。
「Twitterでは、10回連続で投稿することもある」と話す、のんさん。
<喜怒哀楽の中で、「怒り」だけがのけ者になっている……。ネガティブに捉えられがちな感情にあえて着目し、創作のエネルギーにしていると、のんさんは語ります>
奥山編集長:のんさんは、表現活動において「怒り」を大事にされていますね。過去のインタビューでも「怒りにふたをするのは何か変だ」などと語っていました。自身のメッセージを伝える上で、怒りはどういう役割を担っているんでしょうか?
のんさん:喜怒哀楽の中で、怒りが一番お気に入りの感情なんです。怒っている状態にあることが楽しい。負の感情として放出するよりも、ポジティブなエネルギーというか、明日に進む力として怒りを使っていきたい、と思っていますね。
怒りのパワーで燃えているときに、絵を描いたり、曲を作ったりもします。爆発力につながっていくものなので。
奥山編集長:「怒る」ことで生まれたものってありますか?
のんさん:曲を書くときは、大体怒っていますね。気をつけないと、穏やかだったり、優しかったりする楽曲にならない。怒りって、使いやすい感情で、フランクに捉えています。
楽しい気持ちも同じくらい好きなんですけど、怒りだけが、のけ者みたいになっている気がして。「怒ってもいいんだよ」って言ってくれる人がいないと、怒っちゃいけないというか。そういうところがある分、可愛がっていますね。
奥山編集長:怒りの可愛がり方ですか……編集長としても、ぜひ知りたいです。
のんさん:日々使う。これに尽きます! 私も、周囲のスタッフとコミュニケーションをとるときに、「ふん!」などとうなっています(笑)。
奥山編集長:(身長が)180センチある私の見た目だと、迫力が出てしまうかもしれません。
のんさん:うなるのは大丈夫じゃないですか? ライオンみたいに、「うー!」って。そうやって使ううち、怒りは喜びと同じような感情だな、と思えてきます。
「抱えちゃいけない」と思うから、負の感情が増幅して、悪いものだと感じられてしまう。「おなかすいた」ぐらいの気持ちだと捉えれば、コントロールしやすくなるんじゃないでしょうか。
のんさんに「うなってみましょう!」と迫られ、照れた表情を見せる奥山晶二郎編集長(左)。
<のんさんが発信する情報は、多くの人々に受け入れられています。見知らぬ誰かの心をつかむ上で大切にしているのは、「感情を素直に表現する」ことなのだそうです>
奥山編集長:共感を得られるかどうか、というのは、ネットでの情報発信において大事だと思います。顔の見えない人とやり取りすることで、誤解される恐れが出てくる一方で、接点がなかった人と出会える可能性もある。ソーシャル上で情報を発していく上で、何を意識しているのでしょうか?
のんさん:「楽しい」「うれしい」「興奮した」。そんな風に、素直な感情を表現するようにしていますね。自分の思いを、すごく入れ込む。実は私、元々そういうことが苦手だったんです。
でも上京してきたとき、友達が互いに「可愛い」「かっこいい」と言い合っているのを見て、「いいなぁ」と憧れた。それで、自分の気持ちを「垂れ流す」ことを大事にするようになりました。
奥山編集長:のんさんのメッセージってポジティブですよね。前向きな考え方を伝えるために必要なことって何でしょう?
のんさん:ネガティブな気持ちのときは、SNSを開かないようにしています。逆に感情が高ぶっていたり、楽しい気持ちでつぶやきたい、と思えたりしているときは開きますね。
奥山編集長:誰かに伝えたいことがあるとき、というイメージでしょうか。ネガティブな感情が強い場合は、SNSを開かず耐えている?
のんさん:耐えるというより、曲を作ったり、絵を描いたりという形で昇華しています。
奥山編集長:なるほど。ところで「女優・創作あーちすと」という肩書なんですが、ネットとの親和性はありますか?
のんさん:「創作あーちすと」とひらがなにしたのは、自由に活動したいという気持ちからなんです。「アーティスト」とカタカナにしてしまうと、肩ひじを張らなきゃいけないような気がして。ちょっととぼけていて、好奇心を解き放っていける。そんな思いを込めています。
一方でソーシャルでの情報発信って、やりたいと思えば、ちょっと勇気を持てれば、その日のうちに始められますよね。そういう意味では、重なる部分があるかもしれません。ネットの世界に、「のん」という存在がなじんだ、ということなのかなと感じています。
<ネット上では、登壇者の二人に多くの質問が寄せられました。回答から見えてきたのは、SNS全盛の時代に、ポジティブな情報を発信することの意義でした>
質問(1)
SNS上で情報を発信するとき、一番気をつけていることは?
のんさん:ポジティブなこと、楽しい・面白いと思えることを発信するように心がけています。「自分の沸き立っている感情を伝えるには、どういう文章が合っているのだろう」と組み立てていって、それを素直に表現していますね。
奥山編集長:そして、気持ちがネガティブなときにはSNSを立ち上げない。
のんさん:大事なことですね! それで失敗してしまうこともあるから……。
「沸き立っている感情を伝えることが大事」。のんさんの主張に、奥山編集長が熱心に耳を傾ける。
質問(2)
SNS上で「バズる」ことが重視されています。そうした中、意見が偏ったり、異なる主張の人同士が分断されたりしてしまっていることを、どう感じていますか?
のんさん:私自身、「バズる」という言葉を知ってから、すごく気をつけていることがあります。それは「楽しい空間や気持ちを共有する上で、どういう言葉だったら驚いてもらえるか」ということです。
主催しているライブだったり、展覧会だったり、そうしたものをみんなと一緒に楽しみたい、という気持ちがあって。多くの人たちと、楽しさを共有し、広げていく。それが「のん」的には一番うれしいし、気持ちいいことなんですよね。そしてそれは、「バズればいい」という考え方とは、根本的に違うものだと思っています。
奥山編集長:
その意味では、記事も似ているかもしれません。(ページビュー数について)一過性で終わる数字と、定着する数字があるんです。
以前、シェアハウスでの育児について取材してくれた記者がいました。ところが、配信した
記事に「子どもを家族以外の人に預けるのはどうなんだ」など、偏った声が集まった。そこで記者と話し合い、「子育てをシェアするって、そんなに変じゃないのでは?」と丁寧に答える
記事も出すことにしたんです。
保育園でも家族以外の人に子どもを預けているし、隣家の住人に面倒を見てもらうことだってある。シェアハウスの同居人にサポートを願い出るのも、同じじゃないですか、と。するとポジティブなコメントが増えました。どちらの記事も同じくらい読まれましたが、質は違っていたんじゃないでしょうか。
のんさん:ドラマチックですね……! そうやって「ちょっとずつ訂正していく」というやり方は、今の時代に合っているのかな、と思います。
質問(3)
お酒の勢いでツイートしてしまったことがあります。第三者が不愉快にならないよう、情報を発信する上で気をつけていることは?
のんさん:一番は、読んだ人の気分が下がるようなツイートはしない。一方で、ポジティブな感情は恥ずかしがらず出す、ということでしょうか。
奥山編集長:唐突ですが、今年の漢字ってありますよね。あれ、ネガティブな意味の字が選ばれることが多いんですよ。放っておくと、世の中はマイナスの方向に流れてしまう。それなら、ポジティブな情報を発信すればバランスが取れて、ちょうどいいのかなと思うんです。
のんさん:
確かに、世の中を明るくしたいですよね! 怒りながら、明るくも出来ると思います。来年2月29日、閏(うるう)年に音楽フェス
「NON KAIWA FES vol.2」を開きます。怒りをポジティブなパワーに変えられる、というのがテーマです。みんなで怒りを発散して、力にしたい。そう考えています!
withnewsのシンボルカラーである、青色の花を手にほほ笑む登壇者の二人。異色の組み合わせながら、充実した対談となった。
<のん>
俳優、創作あーちすと。1993年兵庫県生まれ。
2016年公開の劇場アニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞」を受賞、高い評価を得る。2017年に自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。シングル『スーパーヒーローになりたい』『RUN!!!』とアルバム『スーパーヒーローズ』を発売。創作あーちすととしても活動を行い、2018年自身初の展覧会『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』を開催。
12月20日には、声優として主演した劇場アニメ「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が公開予定。
withnewsと朝日新聞で2016~2017年、映画コラム「“のん”のノンストップ!女優業!!」を連載。