連載
#178 #withyou ~きみとともに~
不登校、タレントの「前向きメッセージ」がつらい 「9月1日」その後
そろそろ2学期が終わります。夏休みが終わるころ、盛んに取り上げられたのが「9月1日」を巡る報道です。生きづらさを抱える10代の存在が知られるようになった反面、9月1日以降も悩み続ける子どもがいるのも事実です。不登校にまで至らない人の方が多いという声もあります。10月、かつて不登校を経験するなどした人たちも通うオルタナティブ大学、NPO法人「シューレ大学」で学生10人が集まり「9月1日」を巡る報道内容などについて議論しました。「今が苦しい人」を支えながら「根本を変える」ために何ができるのか。学生たちの言葉から考えます。
議論を提起したのは、小学校1年生の途中からホームエデュケーションに切り替え、中学高校には通っていない山本朝子さん(33)です。
山本さんは、幼稚園の頃から集団行動が苦手だったといいます。自分で行動を選択できない窮屈さを感じ、当時、先生に「雨の日は外に出ちゃダメ」と言われたことを今でも覚えています。
「だからこそ、小学校に上がるのが楽しみだったんですが、行ってみたら期待と違ったんです」
小学校で待っていたのは、やはり集団行動でした。「みんなで一緒に」の空気に耐えられず、学校に通わないことを選びました。
シューレ大学での議論ではまず、8月中に報道された、9月1日問題を巡るテレビ番組の内容などを、山本さんが振り返り、「『逃げろ』に違和感を感じる」と思いを伝えました。
「死にたくなるほどじゃないと、逃げたらだめなのかな。学校には、死ぬ直前まで行かないといけないんだろうか」
「メッセージが発信されるのは悪いことではまったくないし、応援してくれているのは伝わるんだけど、『けっこうなところまで追い詰められないと、学校に行かないことは許されないんだな』と感じる人もいそう」
「著名人が発信する『好きなものがあれば道が拓ける』というメッセージもつらかった」と話す女性もいました。
「掃除して、洗濯して…という平凡な毎日でもいいんじゃないの?」と続けます。
山本さんは「大人になったらいいことあるよという声もあったよね」と振り返り、「でも、『じゃあ、いま苦しくてもいいんですか』と。そのときが大事なのに」などと、感想を伝え合いました。
報道が9月1日を前に集中することについても問題提起がありました。
山本さんは「『死にたい』と思っている人に対しては救いになるし、『つらい』という人にも悪いことではない」とする一方で、「9月1日を過ぎたら大丈夫になるわけない。日常がつらいんだから」と話します。
長畑洋さん(29)は、「当事者とは別のところで、お祭りになっているように見えるケースもある」と話します。
他の参加者からは、「自分がつらかったときにこういう報道があったら、救われたと思う」という声もありました。
教育社会学者でシューレ大学スタッフの朝倉景樹さんは、一連の報道のきっかけが、9月1日の自殺が一番多いという2015年の内閣府発表であることに触れ、「この切り口だと、どうしても『死ぬくらいだったら~して』という言い方になってしまう」と解説しました。
朝倉さんによると、「不登校を経験した人たちは、自分たちのしんどい部分に目を向けてくれるようになったと感じる一方で、それが『死にたい』と感じるほどのしんどさだけにフォーカスされていることにモヤモヤを感じている」といいます。
今回の議論はそのモヤモヤを整理する狙いだったといいますが、「そもそも社会が矛盾したメッセージを送っている」とも指摘します。
「社会は学校に行くことが当たり前だと思っているのに、この時期だけ不登校でいいと言われるのはなぜなんでしょうか」と疑問を投げかけます。
「なぜ学校に行かなきゃいけなくなる長期休み明けに自殺者が増えるのか、そういう学校になぜ行かなきゃいけないのか…その議論を棚上げにしたまま『不登校でいい』というメッセージを発信しているのは、矛盾があります」
議論を提起した山本さんも「もっと根本に踏み込まないといけないのでは」と感じています。
「『不登校でも大丈夫』と言われても、透明感のあるふわっとした世界観しかない」と、学校に対する認識を大きく変えるような特集が発信されてもいいのでは、と提起します。
「社会全体が、学校に行くってどういうことなのかを正面から問うていかないといけないのではないかと思います」
朝倉さんは、今後、学校を巡る社会の認識が正面から議論されることを求めています。
議論を取材する中で感じたのは、「根本を変える」ことを求める声の重さです。
withnewsでは、2018年から生きづらさを抱える10代のための企画「#withyou」を続けてきました。
当初、考えていたのは10代当事者に多様な人生の選択肢を届けることです。それは、「今が苦しい人」を置き去りにしたくないという思いからでした。
10代の当事者に届けようとした結果、10代の子どもを持つ親、10代の生きづらさに関心のある大人にも記事は広がりました。
同時に、10代にとってまわりにいる大人たちの影響があまりに大きいことも、あらためて実感しました。
「根本を変える」ためには、子どもたちの生きづらさに向き合う大人の行動が必要です。
「9月1日問題」への関心が高まったことで、報道への違和感が生まれたのだとしたら、それを次の動きへのきっかけにとらえることで、「根本を変える」動きを生み出せるのかもしれません。
「今が苦しい人」を考えながら、「根本を変える」ためにつながる情報を届けられるよう、心がけていきたいと思っています。
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