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#31 #となりの外国人

日本語勉強したい……「責任」って? 外国人の素朴な疑問に答えたら

やさしい日本語の記事のチェックに協力してくれたのは、介護施設で働くインドネシア人。やさしい日本語は問題なく読めましたが……
やさしい日本語の記事のチェックに協力してくれたのは、介護施設で働くインドネシア人。やさしい日本語は問題なく読めましたが……

目次

日本で暮らす外国人が増える中、今年6月に国会で日本語学習に関して国や自治体の責任を記した「日本語教育推進法」が成立しました。とても大切な法律なので、当事者の外国人に伝えたいと、記事を「やさしい日本語」にしましたが、「国や自治体、会社の責務」ってどう説明すればいい?

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外国人にかかわる法律が作られたので、いつもとは違うふりがなを振った解説が朝日新聞にも載りました。

この記事を元に、やさしい日本語に書き直して、都内の介護施設で働くインドネシア人2人に読んでもらいました。来日9年目のプスピタさん(32)と、技能実習生として今年7月に日本に来たばかりのユダさん(27)です。

同じ介護職ですが、2人の日本語の学習環境はだいぶ差があります。

プスピタさんは2国間で結んだ経済連携協定(EPA)で来日し、国と施設の支援を受けて就労前に約1年間日本語を勉強し、就労後も先生をつけて日本語や介護の勉強をたくさんしました。来日後4年で介護福祉士の国家試験に合格しました。

新しくできた技能実習の資格で来たユダさんは、インドネシアの専門学校で日本語を6カ月勉強しただけ。これから日本語を勉強するには自分で仕事の合間に頑張るか、施設が支援するかにかかっています。

つきつめるほどあいまいな「責任」?

法律が成立したとき新聞に載った記事は「外国人が希望や能力に応じて『日本語を学ぶ機会が最大限に確保される』ことを求めており、国と自治体は役割分担をして日本語教育推進の施策を実施すること、事業主は雇用する外国人やその家族が日本語を学ぶ機会を提供し、支援することを責務として明示している」としていました。

これを分かりやすくした解説ではこう書きました。
外国人が日本語をなるべく学(まな)べるよう、国(くに)、都道府県(とどうふけん)と市町村(しちょうそん)、企業(きぎょう)などの責任(せきにん)をそれぞれ決(き)めました。


「責任?」
ユダさんが戸惑ったのは、日常会話であまり聞かれない熟語でした。

プスピタさんが「しなければならない、ということですよね?」とフォローしてくれます。

「でも、何をしなければいけないんですか?」「しないとどうなるんですか?」

答えに詰まりました。それは法律には詳しく書いていないんです。「基本理念」を決めただけの法律だから……。

文で書くとそれらしく見える言葉も、説明しよう、かみ砕こうとすると、肝心の「責任」の所在があいまいになっていきます。

政府や行政の発表はこういう言葉のオンパレードです。記者駆け出しのころ、行政言葉をそのまま書いてデスクに怒られました。「読者に分かりやすく言い換えるのが記者の仕事だろう」と。
外国人向けの説明には、「あいまい」な表現は通用しません。

「責任って何ですか?」まっすぐな目で聞かれて、答えにつまりました
「責任って何ですか?」まっすぐな目で聞かれて、答えにつまりました

日本語教室自体が分からない

「僕も日本語を勉強したいんです」とユダさんが真剣な目をします。「今は先輩が一緒にいて通訳してくれますが、自分だけだと施設を利用するおじいちゃん、おばあちゃんとも、同僚とも思うように話せないし、悲しいです」

記事の中に「日本語教室」について書かれていました。

「日本語教室って何ですか」とユダさん。「ボランティアや先生が日本語を教えてくれる場所です」と説明を加えます。

「どこにいったら良いですか?」
「区役所……かな」

「区役所は住民票を出すのに行ったことがあるだけだから、ちょっと怖い……」とユダさんが尻込みすると、プスピタさんは「インフォメーションに行けば、いろいろ手伝ってくれるよ、大丈夫」と背中を押しました。

一件落着かと思ったら、2人は「でも夜勤も日勤もあるから、決まった教室には通えないね」と苦笑いしました。

法律から話題がそれましたが、日本語を勉強したい当事者にとっては今必要な情報を加えることで、本当のやさしい日本語の記事になると感じました。

まわりの日本人ができること

ユダさんが住んでいる区役所に問い合わせると、交流協会で3つ、社会福祉協議会でひとつの教室をやっていました。

私は「区役所に怖いイメージがあるそうなのですが……」と伝えると、交流協会の女性は「日本に来たばかりの方にはありがちです。茶道体験など楽しいイベントもたくさんあります。怖くないよと、まわりの日本人が教えてくれると良いのですが」と話しました。

仕事の合間にインターネットでできる日本語学習がないか調べると、茨城県が日本語学習のeラーニングを始めていました。ただ、茨城県内の企業に働く外国人向け。文化庁でも準備中ということでした。
やさしさのポイント


日本語教育推進法は、日本国内で暮らす外国人に対する日本語教育の機会の保障を目的とする画期的な法律です。

ただ、法律の内容を説明しようとすると、いろいろな課題にぶつかります。例えば、企業の義務を説明した、「外国人が働く会社は、外国人とその家族が、日本語を勉強できるように、勉強の時間を作ったり…」という部分ですが、「…日本語を勉強できるように、仕事の時間を減らして、勉強の時間を作ったり…」のように、赤字部分を加えないと、実質的に企業が何をしなければならないのかがわかりません。
こうした問題は、この法律の精神をいかに活かすかという課題に直結することだと思います。

庵功雄(いおり・いさお)さん:一橋大学国際教育交流センター教授。日本語教育の専門家。主な著書に『やさしい日本語――多文化共生社会へ』(岩波新書)、『<やさしい日本語>と多文化共生』(ココ出版・共編著)など。

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