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「激レア」クマムシ追う理由「調査は賭け、やめときなさい俺がやる」

普通の生物ならそれを「死」と呼ぶ

クマムシを研究している鈴木忠先生(左)とYouTuberのよききさん
クマムシを研究している鈴木忠先生(左)とYouTuberのよききさん

目次

【トークイベント開催】『最弱伝説』にされたマンボウと『最強生物』と呼ばれたクマムシ(12月6日夜)

体がカラカラに乾燥して、一切の代謝がなくなること。普通の生物ならそれを「死」と呼ぶのですが、水をかけると蘇って元気に動き出す生き物がいます。ネットでしばしば「最強生物」と呼ばれる「クマムシ」です。実は、小さすぎて見えないだけで、土の中にも海の中にも、あなたの身近な場所でも暮らしています。そして、そもそもマニアックなクマムシの中でも、さらに「激レアさん」いるらしい? クマムシを研究する専門家に話を聞くと、「クマムシ愛」だけじゃない、研究にかける思いを知ることに……。
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地上最強生物 vs よきき クマムシ博士と知られざる生態に迫る withよきき 出典: YouTube

肉眼で見れないかわいい生き物「クマムシ」

クマムシの紹介をしてくださるのは、慶應義塾大学の鈴木忠(あつし)准教授です。著書に「クマムシ?! ―小さな怪物」 (岩波科学ライブラリー)や「クマムシ調査隊、南極を行く! 」(岩波ジュニア新書)があり、20年近く、クマムシの研究をされています。対談するのは、人気YouTuberのよききさんです。
鈴木先生が持参したクマムシ型のレザークラフトに驚くよききさん
鈴木先生が持参したクマムシ型のレザークラフトに驚くよききさん

 

よききさん

クマムシは前から気になっていました。どんな生き物なんでしょうか

 

鈴木先生

クマムシの特徴は、足が4対、つまりクモと同じく8本あることですね。でも昆虫や節足動物のように、カクカク動かず、プニプニした足でポニョッポニョッと歩くんです

 

鈴木先生

クマムシは『緩歩(かんぽ)動物』という種類に属していて、その名の通りゆっくり歩きます。のろまという意味ですね

Acutuncus antarcticus ナンキョククマムシ(走査電子顕微鏡像)=鈴木忠先生提供

大きさは0.2~0.3mm程度のものが多く、最大でも1mm程度。肉眼で見るのはほとんど不可能な、小さな小さな生き物です。種類によって土の中や海の底などで暮らし、ビルにくっついているコケの中にも住んでいます。

クマムシが発見されたのは、200年以上前。今では、1300種類以上が見つかり、毎年新種が報告されているそうです。

 

鈴木先生

まだまだ見つかっていないクマムシがたくさんいると思いますよ

 

よききさん

うわあ、僕も見つけたいです!

恐竜が絶滅した天変地異さえも…

クマムシには、一般的な生物と異なる、ある特徴があります。それは「乾眠できる」という能力を持っていることです。

「乾眠」とは、体がカラカラに乾燥し、体の中のすべての化学反応が起こらなくても、耐えられていることです。「普通の生き物であれば、それが『死』なんですけど」と鈴木先生。クマムシの場合、水をかけてしばらく待っていれば元通りで、またポニョポニョと歩き始めます。

 

よききさん

すごい、どうしてなんですか?

 

鈴木先生

普通の生き物が死ぬのに、どうしてクマムシは蘇ることができるかは、核心部はまだわかっていないんです
更に、クマムシがネットで「最強生物」と呼ばれているのには、この乾眠状態での「強さ」にあります。

圧力や温度にはめっぽう強く、人間であれば即死レベルの放射線にも耐えることができます。2007年には、宇宙空間にクマムシを約10日間さらすという実験も行われました。それでも、全滅はせず、水をかけると数百匹のうち3匹が蘇ったといいます。

「オニクマムシ」というクマムシは、現代とほとんど同じ姿のものが、9千万年前の琥珀の中からも見つかっているといいます。恐竜が絶滅するような天変地異も、クマムシは乗り越えてきたのです。

オニクマムシの産卵。脱皮前に殻の中で産卵する。この産み方の卵はツルツルで突起がない=鈴木忠先生提供

ちなみに、乾眠している間は「体内の時計が止まった状態」だといいます。「眠り姫のようですね。眠ることで寿命を伸ばしている可能性もあります」

鈴木先生が14~15年前に乾眠状態で冷凍していたというクマムシも、「水かけると戻りますよ。それ以上も生き残れるのではないのでしょうか」。

しかし、鈴木先生はあくまでクマムシは「最強生物のひとつ」といいます。

 

鈴木先生

例えば、ドライイーストも乾燥して耐えていますよね。最強なのはクマムシだけではないんです。人間にそういう能力がないだけで、地球上にはいろんな生き方をする生き物がいますからね

クマムシの「激レアさん」

1300種類以上いるといわれるクマムシでも、鈴木先生が「激レア」と呼ぶ種類があります。それは、1937年に長崎県雲仙の温泉で発見された「オンセンクマムシ」です。

オンセンクマムシの興味深いところは、体の構造で分けられるクマムシの2つのグループの、中間のような形態をしているところ。「いわゆる進化の『ミッシング・リンク』です」と鈴木先生は話します。

しかし、オンセンクマムシはドイツ人のラームが一度だけ発見したきりで、標本も残っていないそうです。

 

鈴木先生

多くの人は『捏造なんじゃないか』というのですが、私はそうじゃないと思っています。私がリタイアする前に見つけたいですね

鈴木先生は実際に2回調査に赴いたそうですが、発見には至っていません。

 

鈴木先生

クマムシはどこにでも均等に存在する訳ではないので、取ってきたサンプルから見つからなくても、実はその10cm隣にいたかもしれない

 

よききさん

ええ! もう「運」じゃないですか!

 

鈴木先生

肉眼で見つけられないからこそ、賭けみたいなところがありますよね

「クマムシ愛」だけじゃない研究生活

運が左右するような場面もあるクマムシ探しは、「なかなか人にすすめられない」という鈴木先生。「5年で結果が出るかわからないですから。やめときなさい、俺がやるから」

そんな鈴木先生ですが、研究への意欲が「クマムシへの愛」かどうかというと、違和感を覚えるといいます。

 

鈴木先生

生物研究者には、生物が好きでやっているタイプの人と、『生命とはなんぞや』というのを解き明かしたいタイプなど、いろいろあります。僕は、生物が好きで、昆虫採集が好きだった子どものなれの果てです

であれば、「クマムシ愛」が原動力ではないのでしょうか。

 

鈴木先生

それはちょっと違っていて。クマムシをとってきて標本をつくるとき、クマムシは死ぬんです。クマムシを殺さないといけない。殺すのが嫌な人は研究できないし、僕だって殺すのは好きな訳じゃない

 

鈴木先生

だからクマムシへの愛といわれると、複雑な気持ちがありますね

生き物が好きだからこそ、「好き」だけじゃ成立しないのが研究の世界。しかし、飼っていたクマムシが捕食する様子や、排便する様子を語る鈴木先生の表情は、本当に楽しそうでした。オンセンクマムシを「絶対に見つけてやる!」と無邪気に話す笑顔も印象的でした。

それでも、専門のクマムシを「あくまで最強生物のひとつ」という鈴木先生。生物への興味はさることながら、クマムシだけじゃない広い生物の世界へ導いてくれるところも、生物学者のあるべき姿なのだと感じました。

マンボウとクマムシのトークイベントを開催します

withnewsではマンボウやクマムシなど、ユニークな生き物の取材をしてきました。「最弱」というデマが蔓延しているマンボウや、「最強」と呼ばれているクマムシの「本当の姿」をのぞいてみませんか。

■イベント概要
「最弱伝説」にされたマンボウと「最強生物」と呼ばれたクマムシ
~インターネットで「ネタ」にされてきた生き物たち~

「マンボウは上を向いてねむるのか」(ポプラ社)刊行記念

■日時:2019年12月6日(金)20時~22時
■場所:本屋B&B 東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F

■チケット:こちらからお申し込みください
前売  1,500円 + ドリンク500円(税別)
当日店頭2,000円 + ドリンク500円(税別)

■出演
澤井悦郎(マンボウ研究者)
鈴木忠(クマムシ研究者)
野口みな子(司会、朝日新聞「withnews」編集部)

「ジャンプした着水の衝撃で死ぬ」「ほぼ直進でしか泳げず死ぬ」……ネット上で「最弱伝説」ができあがり、有名になった「マンボウ」。……でも、これらはウソ! 
一方、マイナス273℃の超低温にも、プラス100℃の高温にも、ヒトの致死量の1000倍以上の放射線にも耐えることができるとして、ネットで「最強生物」と呼ばれた「クマムシ」。……でも、最強って本当?

インターネットによって持ち上げられ、「ネタ」にされてきたこの生き物たちの、「本当の姿」を見てみませんか? 

withnewsに度々登場してくださっている「マンボウ博士」こと澤井悦郎さんが、今年10月にポプラ社より著書「マンボウは上を向いてねむるのか」を刊行したことを記念して、トークイベントを行うことになりました。ゲストは、「最弱伝説」が残るマンボウとは対照的に、「最強生物」と呼ばれているクマムシを研究してきた慶應義塾大学の鈴木忠准教授です。
 
マンボウやクマムシを取材してきたニュースサイト「withnews」による、「ただしくて、おもしろい」生き物の世界を伝えるトークイベントです。明日誰かに話したくなる、生き物の情報をご紹介していきます。どうぞお気軽にご参加ください。

お申し込みは【こちら】からどうぞ。

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