体がカラカラに乾燥して、一切の代謝がなくなること。普通の生物ならそれを「死」と呼ぶのですが、水をかけると蘇って元気に動き出す生き物がいます。ネットでしばしば「最強生物」と呼ばれる「クマムシ」です。実は、小さすぎて見えないだけで、土の中にも海の中にも、あなたの身近な場所でも暮らしています。そして、そもそもマニアックなクマムシの中でも、さらに「激レアさん」いるらしい? クマムシを研究する専門家に話を聞くと、「クマムシ愛」だけじゃない、研究にかける思いを知ることに……。
肉眼で見れないかわいい生き物「クマムシ」

よききさん
鈴木先生
鈴木先生
Acutuncus antarcticus ナンキョククマムシ(走査電子顕微鏡像)=鈴木忠先生提供
大きさは0.2~0.3mm程度のものが多く、最大でも1mm程度。肉眼で見るのはほとんど不可能な、小さな小さな生き物です。種類によって土の中や海の底などで暮らし、ビルにくっついているコケの中にも住んでいます。
クマムシが発見されたのは、200年以上前。今では、1300種類以上が見つかり、毎年新種が報告されているそうです。
鈴木先生
よききさん
恐竜が絶滅した天変地異さえも…
「乾眠」とは、体がカラカラに乾燥し、体の中のすべての化学反応が起こらなくても、耐えられていることです。「普通の生き物であれば、それが『死』なんですけど」と鈴木先生。クマムシの場合、水をかけてしばらく待っていれば元通りで、またポニョポニョと歩き始めます。
よききさん
鈴木先生
圧力や温度にはめっぽう強く、人間であれば即死レベルの放射線にも耐えることができます。2007年には、宇宙空間にクマムシを約10日間さらすという実験も行われました。それでも、全滅はせず、水をかけると数百匹のうち3匹が蘇ったといいます。
「オニクマムシ」というクマムシは、現代とほとんど同じ姿のものが、9千万年前の琥珀の中からも見つかっているといいます。恐竜が絶滅するような天変地異も、クマムシは乗り越えてきたのです。
オニクマムシの産卵。脱皮前に殻の中で産卵する。この産み方の卵はツルツルで突起がない=鈴木忠先生提供
鈴木先生が14~15年前に乾眠状態で冷凍していたというクマムシも、「水かけると戻りますよ。それ以上も生き残れるのではないのでしょうか」。
しかし、鈴木先生はあくまでクマムシは「最強生物のひとつ」といいます。
鈴木先生
クマムシの「激レアさん」
オンセンクマムシの興味深いところは、体の構造で分けられるクマムシの2つのグループの、中間のような形態をしているところ。「いわゆる進化の『ミッシング・リンク』です」と鈴木先生は話します。
しかし、オンセンクマムシはドイツ人のラームが一度だけ発見したきりで、標本も残っていないそうです。
鈴木先生
鈴木先生は実際に2回調査に赴いたそうですが、発見には至っていません。
鈴木先生
よききさん
鈴木先生

「クマムシ愛」だけじゃない研究生活
運が左右するような場面もあるクマムシ探しは、「なかなか人にすすめられない」という鈴木先生。「5年で結果が出るかわからないですから。やめときなさい、俺がやるから」
そんな鈴木先生ですが、研究への意欲が「クマムシへの愛」かどうかというと、違和感を覚えるといいます。
鈴木先生
であれば、「クマムシ愛」が原動力ではないのでしょうか。
鈴木先生
鈴木先生
生き物が好きだからこそ、「好き」だけじゃ成立しないのが研究の世界。しかし、飼っていたクマムシが捕食する様子や、排便する様子を語る鈴木先生の表情は、本当に楽しそうでした。オンセンクマムシを「絶対に見つけてやる!」と無邪気に話す笑顔も印象的でした。
それでも、専門のクマムシを「あくまで最強生物のひとつ」という鈴木先生。生物への興味はさることながら、クマムシだけじゃない広い生物の世界へ導いてくれるところも、生物学者のあるべき姿なのだと感じました。
マンボウとクマムシのトークイベントを開催します
withnewsではマンボウやクマムシなど、ユニークな生き物の取材をしてきました。「最弱」というデマが蔓延しているマンボウや、「最強」と呼ばれているクマムシの「本当の姿」をのぞいてみませんか。

「最弱伝説」にされたマンボウと「最強生物」と呼ばれたクマムシ
~インターネットで「ネタ」にされてきた生き物たち~
「マンボウは上を向いてねむるのか」(ポプラ社)刊行記念
■日時:2019年12月6日(金)20時~22時
■場所:本屋B&B 東京都世田谷区北沢2-5-2 ビッグベンB1F
■チケット:こちらからお申し込みください
前売 1,500円 + ドリンク500円(税別)
当日店頭2,000円 + ドリンク500円(税別)
■出演
澤井悦郎(マンボウ研究者)
鈴木忠(クマムシ研究者)
野口みな子(司会、朝日新聞「withnews」編集部)
「ジャンプした着水の衝撃で死ぬ」「ほぼ直進でしか泳げず死ぬ」……ネット上で「最弱伝説」ができあがり、有名になった「マンボウ」。……でも、これらはウソ!
一方、マイナス273℃の超低温にも、プラス100℃の高温にも、ヒトの致死量の1000倍以上の放射線にも耐えることができるとして、ネットで「最強生物」と呼ばれた「クマムシ」。……でも、最強って本当?
インターネットによって持ち上げられ、「ネタ」にされてきたこの生き物たちの、「本当の姿」を見てみませんか?
withnewsに度々登場してくださっている「マンボウ博士」こと澤井悦郎さんが、今年10月にポプラ社より著書「マンボウは上を向いてねむるのか」を刊行したことを記念して、トークイベントを行うことになりました。ゲストは、「最弱伝説」が残るマンボウとは対照的に、「最強生物」と呼ばれているクマムシを研究してきた慶應義塾大学の鈴木忠准教授です。
マンボウやクマムシを取材してきたニュースサイト「withnews」による、「ただしくて、おもしろい」生き物の世界を伝えるトークイベントです。明日誰かに話したくなる、生き物の情報をご紹介していきます。どうぞお気軽にご参加ください。
お申し込みは【こちら】からどうぞ。