連載
#34 「見た目問題」どう向き合う?
「見た目は特徴的かもしれない、だけど」夫婦の写真展、笑顔ない理由
外見に症状がある人と、その配偶者10組を写した写真展。容姿とは、夫婦とは、愛とは……。
「私たちの見た目は特徴的かもしれないけど、どこにでもいる普通の夫婦です」。11月22日の「いい夫婦の日」に合わせて、外見に症状がある人と、その配偶者10組を写した写真展が東京メトロ表参道駅で開かれ、注目を集めています。展示写真を見ていると、あることに気づきます。笑顔で写っていないのです。企画した写真家の宮本直孝さん(58)に、「笑顔のない写真」の狙いを尋ねました。写真展は24日まで。(朝日新聞記者・岩井建樹)
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考えます。
顔の変形やアザ、脱毛症、体毛や肌が白いアルビノ、唇や上あごが裂けて生まれる口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)など、外見に症状がある人たちを、宮本さんが撮影しました。こうした特徴がある外見は、恋愛や結婚のハードルになりがちです。
撮影のきっかけは、外見に症状がある人たちの記事を読み、興味を持ったことです。ただ、当事者を撮影するだけでは、見る人に「自分とは関係のない話だ」ととらえられてしまうと思ったそうです。
「どうすれば見る人に『自分ごと』として考えてもらえるかに頭を悩ませました。外見に症状がある人と、そのパートナーを撮影すれば、『容姿とは何か』『夫婦とは何か』『愛とは何か』という普遍的なテーマが立ち上がって、『自分の場合はどうだろうか』と考えてもらえるのではないかと思いつきました」
「この写真展の主役は、ある意味で外見に症状がないパートナーのほうです。彼ら・彼女らが外見に症状がある人をどうして選んだのか、私はそこに興味がありました」
写真展のコンセプトは「夫婦の感謝」です。普段は恥ずかしくて言えなくても、「ありがとう」とお互いに心の中で思っている夫婦が多いのではないかと、宮本さんは考えます。
「ある夫婦を撮影したとき、はじめは表情が固かった。その日はたまたま、2人の結婚記念日でした。そこで『お互いの気持ちを出して下さい』と声をかけました。すると、外見に症状がある妻のほうが『こんな私と18年間ありがとう』と声をかけました。その瞬間、夫の表情がぐっと柔らかくなりました。この2人のやりとりを見て、この写真展のテーマを『夫婦の感謝』にしようと決めました」
写真はいずれも同じ構図です。寄り添いながら、じっとカメラを見つめる2人の顔に迫ります。ただ、笑顔がありません。幸せや感謝の思いを表現したいのに、なぜ笑顔ではないのでしょうか? そう尋ねると、宮本さんは「表面的な笑顔では内面は写せない」と言います。
「笑顔の写真は撮影する側も撮影される側も楽だから、様々なシーンで、よく選択されます。でも、私は撮影時、『幸せな感じを出して』『もっと感情を』と声をかける一方で、『笑顔はなしで』ともお願いしました」
「笑顔は、心の底にある感情を覆い隠してしまいます。内面からにじみ出る感情を写すためには、作り笑いは不要です。それに、表面を取り繕ったような笑顔の写真は、見る人の心を動かすことはできないと考えます」
「私も撮影者と会った瞬間は、特徴ある外見に目はいきました。でも、内面を写真に収めようと、一生懸命に目から感情を読み取ろうとするうちに、外見の症状はまったく気にならなくなっていきました。外見よりも内面を重視して、2人は夫婦になったんだなと感じました」
写真展は、モデルとなった夫婦にとっても、感謝の気持ちを確かめる機会となりました。夫の悟さん(48)とともに撮影に応じた河除静香さん(44)は、生まれつきの動静脈奇形で顔が変形しています。「どうして夫は、私を大切にしてくれるのか。知るきっかけにしたい」との思いで、静香さんは撮影に応じたと言います。
「夫は外見よりも、私の人柄を重視してくれました。性格がぴったりあって、外見にも愛着を抱いてくれました。写真を通し、夫が私のことを本当に大事にしてくれるのが伝わり、夫と結婚してよかったなと改めて思いました。感謝の気持ちや思いやりを夫婦で共有していることが確認できました」
「展示されているのは、どれもいい夫婦だなと感じられる写真ばかり。私たちの見た目は特徴的かもしれないけど、どこにでもいる普通の夫婦です」
一方の宮本さん。実は写真展が始まるまで、見る人から、どういった反応があるか不安だったと言います。
「容姿のことはタブー視されがちです。だから、この写真展も『見てはダメだ』との意識が働くのではないかとの不安がありました。どれくらいの人が興味を持ってくれるのかわかりませんでした」
「でも、それは杞憂でした。多くの人が作品に視線を送ってくれています。中には、立ち止まって見てくれる人も。写真を通し、『自分たち夫婦はどうかな』『パートナーにありがとうと言ってみようかな』などと感じてもらえたらうれしいです」
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