連載
#12 教えて!マニアさん
「名代富士そば」全店制覇の男が追いかける「常軌を逸した」メニュー
「イクラ風タピオカ漬け丼」などの「攻めすぎメニュー」に心奪われ、「富士そば」を全店制覇した男性とは…?

関東在住の方はおなじみ、立ち食いそばのチェーン店「名代富士そば」。一都三県に133店舗(2019年10月現在)あり、気付けば街角にある安定のお店です。実は、店舗のオリジナルメニューが販売されているのをご存じでしょうか。「イクラ風タピオカ漬け丼」などの「攻めすぎメニュー」に心奪われ、「富士そば」を全店制覇した男性がいます。身近なものをとことん掘り下げるマニアが教えてくれたのは、SNS時代において足で稼がなければたどり着けない「ワンダーランド」の世界でした。
「富士そばライター」って何者
「富士そばライター」を名乗る名嘉山直哉さんに出会ったのは、マニアフェスタ中に行われた「出演権争奪!マニアプレゼン大会」でした。マニアの方が代わる代わるプレゼンを行い、TVやラジオの番組のブッキング権を持つディレクター3人が「○」「×」の札で審査するというもの。
トップバッターで登場した名嘉山さんは、全店舗制覇した経験をもとに、富士そばの魅力をプレゼン。その熱量は、審査員に「病的」と言わしめ、出場者の中で唯一審査員全員の「○」を獲得しました。

大盛況でプレゼン大会は終了。でも、会場の盛り上がりとは別のところで、私の心の中に名嘉山さんのある言葉が残っていました。
「富士そばは、トレジャーハントなんです」
のめりこみすぎて全店舗制覇
一体どういうことでしょうか。そして、どうしてそんなに富士そばに夢中に? その思いを知りたくて、プレゼン大会後に名嘉山さんにお話を伺いました。

「最初は『ライターとして得意分野を持ちたい』という打算的な思いもあったんですが、気が付けば富士そばの面白さにのめりこんでいました」
名嘉山さんの「のめりこみ」具合はその後の行動を知ればわかります。多いときは1日に4軒ほど回ったといい、2015年には約130店あるというすべての店舗を制覇しました。実食したメニューは、自身が運営するブログ「富士そば原理主義」で紹介。覗いてみると、タイトルには「298杯目」の文字が……。
これだけでも「病的な熱量」は感じ取れると思いますが、富士そばのどんなところが名嘉山さんにささったのでしょうか。
「珍そば」「奇そば」の数々
それが、通常のグランドメニューとはひと味違う、店舗ごとに開発されるというオリジナルメニューです。
「名代富士そば」のダイタンホールディングスの広報担当者によると、お客様に一番近い場所でメニューを考えられるよう、メニュー構成は各店舗の店長に一任されているといいます。
興味深いのが、「名代富士そば」はひとつのブランドでありながらも、ダイタンホールディングス傘下の7つの会社が店舗を分担して運営しています。各社で競争しながら切磋琢磨することが目的で、同じエリアにある店舗でも、運営は別会社ということも。担当者は「企業によっても、メニューに個性が出ています」と話します。

まず、フライドポテトが乗った「ポテそば」やトマトが丸ごとのったその名も「まるごとトマトそば」(いずれも販売終了)。そば以外にも、Twitterで話題になった「イクラ風タピオカ漬け丼」などもあります(三光町店にて10月31日まで販売)。

しかし、こんなにも爆発力たっぷりのラインナップにもかかわらず、「SNSなどに力を入れていないのか、公式からの情報発信があまりない」といいます。「だから新商品があるかどうかは、足で稼ぐしかないです」
なるほど、これが「トレジャーハント」ということですね……。
しかも「珍そば・奇そば」は売上不調で終了することや人気により即完売する場合もあります。いつも販売しているとは限りません。店長によって開発するメニューの雰囲気も変わるため、「ずっと富士そばの背中を追いかけているんです」。
店長も「イジってもらえてうれしい」
マニアフェスタでそんな名嘉山さんの応援に来ていたのが、新宿にある「名代富士そば」三光町店・店長の羽生典史さん。件の「イクラ風タピオカ漬け丼」を爆誕させたお店で、名嘉山さんも「かなり攻めている店舗」というほど。
羽生さんは「メニューを考えている側としても、イジってもらえるとうれしいんですよね。会社でも、名嘉山さんの反応を気にしている人は他にもいますよ」。名嘉山さんはどうやら、業界でも有名人のようです。

とはいえ、マニアック過ぎる内容からなのか、名嘉山さんが発信しているブログには反響はほとんどないといいます。それでも続けるモチベーションは「変なそばを見つけた時のキラシール感」。「打算的な思い」から始まった活動は、いまや「ライフワーク」となっていました。
関東では当たり前のようにある「富士そば」ですが、実は奥深くて独創的なワンダーランドでした。これから街で見かけたとき、食事に入るとき、楽しみになってきませんか。そんな新しい視点をくれるのが、マニアの方たちなのです。
