連載
#4 教えて!マニアさん
マニアフェスタで会った強者たち 顔ハメ姿を後ろから撮るマニア
「好き」、それだけでいいじゃない。
世界には、さまざまなマニアがいます。鉄道? アイドル? いえいえ、それだけじゃありませんーー。アーツ千代田3331(東京都千代田区)では、2月16日17日の2日間、さまざまな「マニア」が集まるイベントが開催されています。「顔ハメ看板にハマるマニア」がいれば、「顔ハメ姿を後ろから撮るマニア」までいる、「そんなものまで……」なマニアイベントを取材しました。
初日、16日の開場時間は12時です。行ってみると、既に開場を待つ人がずらり。列に並んでいた会社員の男性(22)は、仕事終わりのスーツ姿。「何のマニアなのか、名前を見ただけで面白そうと感じている」と話します。友人の男性(23)は「仏像マニアのブースがねらい。缶バッチを買う」と意気込んでいました。
会場で早速最初に目についたのが、「片手袋マニア」。一体なんだこれは……。
店番をしていたゆきさんとマリボさんに話を聞いてみると、道端に残された片方の手袋の写真を撮るマニアだそうです。言われてみれば、この季節は相方をなくした悲しい落とし物を見る機会も増えます。
この「片手袋」を、ただ単に落ちている「放置型」や、誰かに一度は拾われてガードレールなどに置かれる「介入型」といった、場所や状況で分類までしているそうです。昨年豊洲に移転した築地市場は、手袋をする作業者が多い「多発地帯」だったそうで、「どんな人がどんな風に落としたか、想像するのが楽しいんです」とマリボさん。
更に詳しく聞くと、この道のパイオニアと言われる男性がいるといい、この2人は彼に影響を受けて活動を始めました。今回一緒に出展したそうですが、「今日も、片手袋を探しに行っています……」。えぇぇ!?
意識し始めると思ったより落ちているという「片手袋」、面白いけどやめられなくなる「楽しい呪い」と表現していました。ちょっとこわい!
会場を散策すると、比較的簡素なブースを見つけました。そこには「サザエさんじゃんけん研究所」の文字が。これは気になる……。
「サザエさんじゃんけん」とは、休日の終わりを知らせる国民的アニメ「サザエさん」の次回予告の終わりあるコーナー。一体どんなことを研究しているのでしょうか。
「研究所」所長の高木啓之さんは、1991年にコーナーが始まってから27年間、サザエさんに勝つためにサザエさんが出した手を記録し、分析してきたそうです。その回数、1371回……。しかも、過去にさかのぼることなく、最初から記録してきた強者。高木さんは「もう、生活の一部になっています」。
前2週分の手のパターンによって、次に出る手を予想できるといいます。驚くなかれ、昨年の勝率は80.5%。全然比べられるものじゃないけど、将棋の渡辺明棋王の今年度の勝率(2月15日時点)と一緒だぞ……。めちゃくちゃ強い……。
こんなにじゃんけんが強かったら、みんなが嫌がる係を押しつけられることもないし、欲しいお菓子も一番に選べる……。でも、高木さんは「サザエさんじゃんけんに特化しているので、一般化できないです」。平場のじゃんけんでは、普通に負けるそうです。
高木さんが販売している「サザエさんじゃんけん白書」によると、サザエさんの出し手はアニメの制作会社の担当者が個人的な思いつきで決めているとのこと。もうサザエさんというか、「中の人」との戦いになっています。
もう何でも来い、と思い始めました。そこに現れたのが「顔ハメ看板にハマるマニア」。「顔ハメ看板ニスト」こと塩谷朋之さんです。
顔ハメ看板とは、観光地などにある、はめこむ顔部分がくりぬかれた記念撮影用の看板です。塩谷さんは、捨てられそうになっていた顔ハメ看板との出会いから、それが「人のためにあるもの」と実感し、その役割に応えようと各地の看板に顔をはめ、撮影をしてきました。
撮影するときは常に無表情。なぜなら「顔ハメ看板が主役だから」。「顔の部分にクモの巣が張っていると、『待たせてごめんね』と思います。もう、使命感です」。なんだか胸の奥がじーんとしてきました。
一方、その横のブースは「顔ハメ姿を後ろから撮るマニア」の裏パネOL・らんちゃんさん。え? 後ろから??? 「?」マークを頭に並べたまま、話を聞いてみました。
らんちゃんさんも、もともとは塩谷さんと同じように顔ハメ看板のマニア。しかし、顔ハメ看板は子ども用だったり、イラストに合わせた場所にくりぬきがあったりするため、「結構体勢がきついんですよ」。
「証拠写真として撮ってみたら、ぐっときました。大人の中腰って、滑稽じゃないですか」
「少しでも見て笑ってもらえたら」と、自分が顔をはめている状態の写真を、後ろから撮り続けているそうです。顔ハメ看板、「捨てるところなし」というくらいうまみが詰まっている……。
塩谷さんにもらんちゃんさんにも共通しているのは、三脚を持ってひとりで撮影していること。顔ハメ看板って、誰かに撮ってもらうものじゃないんですか?
「人に頼むと、顔中心で撮ってくれたりするんです。でも、撮って欲しいのは顔ハメ看板」(塩谷さん)、「自分でちゃんと構図を決めたいんですよね」(らんちゃんさん)。なるほど、顔ハメ看板は構図にあり。ちなみに、ひとりでタイマー撮影していると、それに気づかれず、人が写り込んでしまうこともよくあるとか。
「歩行者天国マニア」の内海皓平さんは、建築を学ぶ大学院生。なんと、卒業研究のテーマとして歩行者天国に関する調査を始め、ガチの研究成果をハンドブックにして販売しています。
「1970年代は『交通戦争』という言葉が出回るほど、歩行者にとって道路や車は危険な存在だったんです。そんな地獄から解放される場所。それを考えると『天国』という表現は不自然じゃないですよね」(内海さん)
話の内容も興味深すぎる……。気づいたときには「買います」と言っていました。
他にもエアコンの室外機好きが高じて、信楽焼で理想の室外機を作っちゃった人や、明太子が好きすぎて、明太子のメーカーの名前でいっぱいの衣装を作っちゃった人たちなど、個性豊かなブースがたくさん! 魅力的なマニアさんばかりで、全部紹介しきれない!
イベントを運営する「別視点」副社長の斎藤ようへいさんは、イベントを「どのマニアの方も腰が低くて、”情報の知識合戦”になっていないところがピースフル」と話します。
確かに、会場をうろつく中で「ぜひ見て行ってください!」というブースはどちらかというと少なかったです。そろそろっと寄っていって「これは何ですか?」と聞くと、「あっ、これはですね」と控えめに始まり、話すうちに壮大な宇宙に帰着する。そんな「奥ゆかしさ」がこのイベントにはありました。
「モチベーションはさまざまですが、多くは社会の役には立たないものでも『好き』の気持ちで集めている人たちです。そんな普段は影に隠れている人たちが、イベントでは『みんないるから怖くない』と思って出てきてくれてる。役に立たないけど、生活を豊かにする。それがマニアの魅力ですね。不毛だけど面白い、不毛だけど愛しいんです」(斎藤さん)
「もっと詳しい人がいる」と思うと、「好き」って言いづらい……。そんなことを感じたことがある人はいませんか。マニアフェスタを取材して、純粋に自分の好きなことをもっと話したい、話してもいいんだ!という気持ちが沸いてきました。そんな自己肯定感も与えてくれるイベント、マニアフェスタは17日まで(入場には当日券800円かかります)。日によって出展団体も変わるため、来場の際はあらかじめご確認くださいね。
すみません、公式サイトアクセス過多で見づらい状況なので、「マニアフェスタvol.2」の明日の概要をこちらでつぶやきます!
— マニアフェスタ (@maniafesta55) 2019年2月16日
【日時】2019年2月17日(日)11時~18時
【会場】「アーツ千代田3331」の体育館(秋葉原駅8分、末広町1分)
【別サイトでの詳細】https://t.co/cbN5H3uj6D pic.twitter.com/fmNUMYzcCx
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