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さよなら水族館…東京タワーを背に泣いた 1万匹の譲渡先決めるまで
閉館した東京タワー水族館。ツイッターとブログは不定期ながらも更新が続いています。
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閉館した東京タワー水族館。ツイッターとブログは不定期ながらも更新が続いています。
昨年9月30日に閉館した東京タワー水族館。そのツイッターとブログは不定期ながらも更新が続いていて、飼育されていた生き物たちの「その後」を発信しています。全1万匹の譲渡先を同僚とかけずり回って探した元職員に話を聞きました。
2010年5月に開設された東京タワー水族館のツイッターアカウント(@TTA_info)。
現在は「東京タワー水族館(でした)」として更新が続いています。
今年8月21日には、伊勢シーパラダイス(三重県伊勢市)を訪ねた様子を、こんな風にツイートしています。
おいおい #伊勢シーパラダイス!!
— 東京タワー水族館(でした) (@TTA_info) August 21, 2019
東京タワー水族館で使ってた水槽を見事に生まれ変わらせてくれたな!
"魚に見つめられる水槽"に"伊勢にちなんだカエル水槽"、"タツノオトシゴふれあい水槽"、だって!?
嫉妬しちゃう展示!これぞスタッフのアイデアと努力!優勝!!案内ありがとな!また来る!! pic.twitter.com/VZiQi96hjh
ツイッターだけでなく、「旧東京タワー水族館ブログ」も更新。
足立区生物園、箱根園水族館、さいたま水族館など、かつて東京タワー水族館で飼育されていた生き物たちの譲渡先を訪ねては、現在の様子を発信しています。
「フライエリーやカダンゴ・レッドフィンたちがいました! 元気で新しい水槽にも慣れてきてるようでした!」
「アリゲーターガ―! 3匹引き取って頂き、1匹が展示されていました。東京タワーにいたときはもっと黒っぽかったのですが、緑色がきれいに出てきてましたよ! 模様もメリハリがあっていい感じ」
ツイッターやブログを更新しているのは浅田渉さん(33)。
東京タワー水族館で飼育責任者を務めていましたが、現在は水族館とはまったく関係のない仕事に就いています。
「営業していたころは『水族館のことを知ってもらいたい』『裾野を広げたい』という気持ちで更新していましたが、最近は友だちや親戚に近況報告している感覚です。これが本当のブログやツイッターの使い方って感じで」
東京タワー水族館がなくなることを知らされたのは、昨年8月上旬ごろ。閉館の約1カ月半前でした。
当時のメンバーは、浅田さん含めて社員2人、アルバイト3~4人という体制。
自分たちの今後の身の振り方、飼育している生き物たちのことを考えて、呆然としたそうです。
「社員同士で『もう全部投げ出してやめるか』と毎日話してました。500種1万匹は飼育していましたから、2人じゃどうすることもできないと。生き物じゃなくて物だったら、とっくに諦めていたと思います」
浅田さんたちがまず取り組んだのが、譲渡に向けた生き物たちのリスト作り。
どんな生き物が何匹いるかの一覧を作り、過去に勤めていた水族館や大学時代の先輩、取引のあった問屋、熱帯魚ショップなどに連絡して、「無償で譲渡しますので飼っていただけませんか」と声をかけました。
関東を中心に、縁もゆかりもなかった水族館にも電話をかけて、引き取り先を探しました。
「うれしかったのは、『急に言われても困る』といった反応がまったくなかったこと。みなさんが生き物たちのことを心配して、前向きに聞いてくれました」と浅田さん。
譲渡先が決まると、小さな生き物は自分たちで届けたり、大型のものについては活魚車やタンクを持ってきてもらって移し替えたり。
来館してもらったついでに水槽やエサ、配管など使えるものも引き取ってもらいました。
同じ水槽から長年出たことがなかった大型のウツボ、グリーンモレイ。
目が白く濁っており、エサも口元まで持っていかないと食べない個体でした。
譲渡先が見つからないことも覚悟していましたが、しながわ水族館で飼育してもらえることに。
「展示に出るかはわかりませんが、うちで飼育します」と申し出てくれました。
そんなグリーンモレイは現在、ちゃんと水槽に展示されて元気に暮らしています。
「目の状態も少し改善したようですし、とにかく元気なんです。『広い水槽でみんなに見てもらおう』というとこになりました」と館長の冨山昌弘さん。
浅田さんたちが奔走した結果、閉館から1カ月後の10月30日、すべての生き物の譲渡が完了。
魚たちがいなくって数日後、私物をかたづけた浅田さんともう一人の社員は、東京タワーを後にしました。
台風で看板が飛んだ日のこと、エアコンが壊れて慌てて水槽を冷やした日のこと、東日本大震災で館内が水浸しになったこと。
水族館らしいイベントを増やそうと「お食事タイム」を始めたものの、お客さんが誰もいなくて仕方なく一人でエサをあげた日もあったこと。
「もしかすると、この生き物の面白さは誰にも伝わらずに過ぎていくんじゃないか」と本気で思っていた日のこと。
いろんな思い出が頭をよぎる中、2人は「もうしゃべらないで行こう」と東京タワーを背にして、感極まりながら歩き出したそうです。
「譲渡先探しもあって、悲しいとか寂しいとか考える余裕もなかったんです。『やりきった』という思いはありましたが、達成感とも違う感覚でした」
現在は、相撲部屋を訪ねたり、サツマイモを掘ったり、水族館とは関係のない仕事をしている浅田さん。
自費で譲渡先を巡って、生き物たちの近況を発信し続ける理由について、こう話します。
「自分が東京タワー水族館にいたのは9年間ですが、それまでに何十年と飼育されていた生き物や、自分が入社してからやって来た生き物たちもたくさんいました。水族館の生き物って、私にとってはペットでも展示物でもなく『同僚』や『同士』なんです。苦楽をともにした同僚たちに会いに行ってるんですよ」
旅行のついでや、親戚に会いに行ったついでに「同僚」たちを訪ねる。そんなペースで不定期ながらも更新を続けていくつもりです。
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