連載
#34 コミチ漫画コラボ
「イクメンがなくなる日」マンガ家があえて描いた「理想」の子育て
「イクメン」という言葉が使われなくなった未来を描いた、小柳かおりさんの漫画「イクメンが変えたやわらかな世界」とは?
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#34 コミチ漫画コラボ
「イクメン」という言葉が使われなくなった未来を描いた、小柳かおりさんの漫画「イクメンが変えたやわらかな世界」とは?
漫画「イクメンが変えたやわらかな世界」の舞台はそう遠くない未来。小学生の主人公の目線で、「イクメン」という言葉が使われなくなった世界を描いています。
小学校からの帰り道、主人公の純一はいつものように父が働く会社を訪れます。父の同僚も慣れた様子で、「パパは?」と聞くと「今ミーティング中だよ」と教えてくれます。
会社には、純一と同じように学校帰りに立ち寄った女の子がいて、父の同僚たちも優しく接してくれます。父の仕事が終わるのを待つ間も、みんなが遊んでくれるので寂しくありません。そんな中、純一は父の言葉を思い出します。
「純ちゃんが生まれる前は、子育てに参加する父親のことを『イクメン』と言ったんだ。『イクメン』がみんなの働き方を変えてくれたんだよ」
作中では当たり前に運用されている育休やリモートワーク、社内の保育所は、育児をする男性の願いから実現したものでした。
それに、変化があったのは育児にまつわる制度や環境だけではありません。社内には「集中エリア」という個室スペースが設けられ、理由にかかわらず、在宅勤務も柔軟に選べます。子育てしていても、していなくても、「特別扱い」のない働きやすい環境が整えられていました。
父と一緒に帰路につく純一。夕食は外食にしようと相談をしています。ちょうど仕事が終わった母と合流するようです。「今日楽しかったか?」と父に聞かれ、漫画はこうしめくくられています。
「かいしゃに行くと パパがいてみんながいて たくさん遊んでくれるから 毎日たのしいんだ!」
「自分自身がこういう風に育ってきたんですよね」と語るのは、作者の小柳かおりさん。物語のベースにしたのは幼い頃の日常でした。
小柳さんの両親は、福岡でデザイン会社を経営しています。自宅近くに事務所を構えていましたが、広告業界の仕事は忙しく、帰宅が21時や22時になることも。そんな時、小学生の頃の小柳さんは、妹と一緒に学校帰りに事務所に向かい、両親の仕事が終わるのを待つのが日課だったといいます。
「今思えば迷惑だったかもしれないですが、職場の人にも結構遊んでもらいました。気付いたら会社のソファで寝てしまっていたことも、帰り道に家族で居酒屋でごはんを食べたことも、思い出のひとつです」
中高生になり放課後は友だちと過ごすようになっても、時々事務所に立ち寄っていたそうです。当時はさほど意識していなかったといいますが、会社の大人たちに見守られながら育ち、父や母が働く姿も身近に感じてきたといいます。
「家族といえば、家でみんなで食卓を囲むイメージがあるかもしれませんが、さみしさはありませんでした。自分が大人になってから思うのは、働いている父や母はかっこよく見えたし、これが両親なりの子育てだったんじゃないかなと思います」
小柳さんはコミチやTwitterで漫画を発信する傍ら、ITコンサルタントとして働く会社員でもあります。会社には子育てをする同僚が、男女問わず身近にいるといいます。「イクメン」や子育てをする男性については、どんなことを感じているのでしょうか。
「『イクメン』という名前で、子育てに注力したい男性が認知されたおかげで、10年ほど前と比べても、出産の立ち会いや子どもの急病などを理由に、男性が堂々と休みを申し出やすくなっていると感じています。当時よく耳にしていた『ワーママ(働く母親)』が定着したように、イクメンも当たり前のことになっていくのではないでしょうか」
そんな思いから、小柳さんは「イクメン」という言葉が使われなくなった未来を漫画に描きました。気をつけたのは、子育てに関わる人だけではなく、すべての人が働きやすい未来をイメージしたことです。
「現状、育児や介護を抱えている同僚がいて、仕事量を調整することになれば、『理由がない人』のところに仕事が回ってきます。そこは譲り合いなので仕方のないことですが、もしかしたら不平等と感じる人もいるかもしれません。それがなくなると本当はいいですよね」
だからこそ、作中では理由を問わず、誰にでも利用できる制度が登場します。「集中エリア」や在宅勤務など、働く場所や時間も柔軟に選べることで、「我慢や不満が溜まらない環境や文化があるといいなあと思います」。
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