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連載

#32 「見た目問題」どう向き合う?

顔に大アザの少女と、秘密抱える教師の恋 リアルに描く漫画家の素顔

主人公の瑠璃子©鈴木望/双葉社
主人公の瑠璃子©鈴木望/双葉社

目次

アザをもつ少女と、秘密を抱える教師との物語を描いた漫画「青に、ふれる。」が反響を呼んでいます。外見に症状を抱える人たちからは「心情の描写がリアル」との声も。実は、作者の鈴木望さん自身も顔にアザがあります。漫画に込めた思いや、顔のアザについて、鈴木さんに話を聞きました。(朝日新聞記者・岩井建樹)

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あなたは自分の顔が好きですか? 「青に、ふれる。」は、そんな書き出しで始まります。青年マンガ誌「月刊アクション」で2019年2月号から連載が始まり、7月には単行本が発売されました。


『青に、ふれる。』(双葉社)

痛みを抱えた2人の出会い

主人公の瑠璃子(るりこ)の右顔には、生まれつき太田母斑(おおたぼはん)と呼ばれる青アザがあります。アザを気にしないように、周りに気を使わせないように「強くならなきゃ」と思っている少女です。高校2年の春、新たな担任教師の手帳をたまたま目にすることになった瑠璃子は、その場で立ち尽くします。クラスメイトの特徴がびっしりと書き込まれているのに、瑠璃子の欄だけ、何も書かれていなかったためです。

「書けばいいじゃん!! 顔に大きなアザ!!」。涙ぐみながら詰め寄る瑠璃子に、教師は人の顔を判別できない「相貌失認(そうぼうしつにん)」を抱えており、アザが「青色のオーラ」に見えていたことを打ち明けます。

顔に症状を抱える瑠璃子と、顔の判別がつかない教師……。痛みを抱えた2人の交流を中心に物語が動いてきます。


先生に詰め寄った瑠璃子©鈴木望/双葉社
先生に詰め寄った瑠璃子©鈴木望/双葉社
先生は、人の顔を判別することができない「相貌失認」を抱えていた©鈴木望/双葉社
先生は、人の顔を判別することができない「相貌失認」を抱えていた©鈴木望/双葉社

作者もアザの当事者

この漫画の作者の鈴木さんも、瑠璃子と同じ太田母斑の当事者。左目の周辺、おでこ、そして眼球に太田母斑があります。

「生きづらさはどこから来るのか考えていました。自分の場合は顔にアザという“目に見える”コンプレックスがあります。一方で、“目に見えない”障害に悩んでいる人もいます。この“見える・見えない”の対比を描いたら面白いのでは?と発想を膨らませていきました」

「ただ、当事者の方が『青に、ふれる。』を読んだとき、不快な気持ちや、つらい思いをするのではという怖さもありました。太田母斑や相貌失認の方らに取材していくうちに覚悟ができてきて、今は描く面白さ、楽しさを感じています」

作者の鈴木望さん。左目の周辺にアザがある
作者の鈴木望さん。左目の周辺にアザがある

「強くなろう」とする主人公

瑠璃子は自分に言い聞かせてきました。顔のアザを「気にしない」「強くなろう」と。しかし、先生と出会い、アザのある顔と向き合っていきます。

「瑠璃子がアザを強く意識したのは、先生を異性として意識したからです。好きな人ができたら好かれたいし、できれば『かわいい、きれい』と思われたい。そうなると、自分の外見に意識がいきますよね」

瑠璃子は中学時代、気になっていた男子にアザについてひどいことを言われ、不登校を経験しています。

「私自身について言えば、ひどいことを言われるというより、『大丈夫? ぶつけた?』と心配されることが多かったです。大人になってからも、DVの被害者と思われたのか『苦労しているのね』と同情されたことがあります。そういった時には、『太田母斑で、生まれつきなんで大丈夫です。痛くもないです!』と返すようにしています」

中学時代、主人公は気になっていた男子の言葉を耳にして傷ついた©鈴木望/双葉社
中学時代、主人公は気になっていた男子の言葉を耳にして傷ついた©鈴木望/双葉社

気を遣われ「申し訳ない」

瑠璃子はアザがあることで、周りに気を遣われることを「申し訳ない」と感じています。同じクラスの男子が瑠璃子のことを「ほら、アザの……」と表現しているとき、たまたま瑠璃子が通りかかり、周りは「あっ」となります。「はーい。アザの瑠璃子です」と明るく返す瑠璃子。友人は、そんな瑠璃子に「気遣いの鬼」との言葉をかけ、心配します。

「これは実体験です。私も『はーい。アザの鈴木です』と場をとりつくろったことがあります。どう振る舞えばよかったのか、今でも考えます。私が会社勤めをしていたとき、同僚が自転車で転んで顔にけがをしました。会社でその話になって、『顔に跡が残らないからよかった』と言ったとき、周りが私に気づいて、微妙な空気が流れました。気を遣われる自分が嫌だし、申し訳ないと思ってしまいます」

周囲に気を遣う主人公の瑠璃子©鈴木望/双葉社
周囲に気を遣う主人公の瑠璃子©鈴木望/双葉社

アザのせいにしたくない

太田母斑はレーザー治療で治すこともできます。ただ、瑠璃子は「あたしが弱いのをアザのせいにしたくない」と、アザを治療しようとは思っていません。本の帯には、「『私なんて』は、もうやめた。」と強いメッセージを記しました。

「瑠璃子の心の弱さや自信のなさの根本は、アザそのものにあるわけではありません。『愛されていない』『寂しい』という感情が根本にあって、その感情はアザがなくなっても変わらないということを、瑠璃子自身が気づいているんです」

「私も治療を受ける予定はありません。アザは私の一部で、アザのない私は想像できません。アザがなくなったら美人になれるわけでもないし、もし美人になれたとしても、それによって人に好かれたり、生きづらさが解消されたりするわけではないと思っています」

「とはいえ、瑠璃子も私も、つい卑屈になって、『私なんて…』と思ってしまうところがあります。瑠璃子と私は別人格です。でも太田母斑を抱える点で、根っこで共感できるところがあります。世界の見え方、そして感じ方に近いものがあり、共通言語を持っている感じがします。“『私なんて』はもうやめた。“は、私自身へのメッセージでもあります」

「アザのせいにしたくない」。主人公も作者の鈴木さんも共通の思いです©鈴木望/双葉社
「アザのせいにしたくない」。主人公も作者の鈴木さんも共通の思いです©鈴木望/双葉社

どうすれば自分を好きになれる?

「青に、ふれる。」の主題はアザではなく、王道の恋愛漫画。鈴木さんは「楽しく読んでほしい」と言います。

「この漫画を通して、周りと比べて自分を卑下するのではなく、どうすれば自分なりの価値観を持ち、自分のことを好きになることができるのかを描きたいです。自分を愛せないと、人を愛せないのではないかと思います」

「もちろん恋愛漫画なので、キュンとしたりドキドキしたりしてもらえたら。楽しみながら、太田母斑や相貌失認についても知ってもらえたらいいなと考えています」

先生と出会い、顔と向き合うようになった主人公©鈴木望/双葉社
先生と出会い、顔と向き合うようになった主人公©鈴木望/双葉社

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