連載
#21 #父親のモヤモヤ
「パパ友いない」は「定年後の孤独」か? 子育てがチャンスな理由
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
最初に連絡をとったのは、神戸市のフリーライター、石橋正敏さん(59)。「『パパ友はできる』を実践しています」と話します。
2006年、PTA会長を務めたことをきっかけに「父親の会」を立ち上げました。その名も「本一(もといち)応援隊! パパレンジャー」。運動会などの行事に並ぶ家族の行列の整理や、焼き芋大会や川掃除。様々な活動をしているそうです。当時、PTAは「女性の昼間の活動」という雰囲気がありましたが、パパレンジャーの立ち上げで、男性が積極的に参加する雰囲気に変わったそうです。「30代、40代で男性も地域デビューするきっかけになります」
さらに、翌07年には、「地域で輝くおやじをめざして」とのコンセプトで、「東灘マスターズゼミ」なるものの立ち上げにかかわりました。おおむね定年後の男性を対象に、地域デビューのお手伝いをします。
「団塊の世代の定年後の地域デビューが難しい」。そんな声を東灘区社会福祉協議会の関係者から聞いたのがきっかけになりました。
ゼミの期間は半年。計10回のプログラムでは、1人あたり800円を集め、買い物して料理をつくったり。近隣の幼稚園や高齢者施設に、クリスマスのときはサンタクロース、節分のときは鬼になってあらわれたり。修了後は、任意で「東灘マスターズの会」に入会してもらいます。いま、250人ほどの会員がいるそうです。
会員になると、今度はゼミを運営する側にまわったり、地域のボランティア活動に参加したりします。ゼミを修了するだけで終わらず、その後も会員となってかかわり続ける男性たちがいることが、会の継続につながっているといいます。
石橋さんによると、「プライドが高いのがサラリーマン男性のあかんところ」。「どこそこに勤務していたとか、定年したのに後生大事に名刺を大事に持ち、披露する男性もいます」と話します。ゼミはそんな男性の意識改革の場にもなっているようです。
「パパ友というか、ジジ友ができるきっかけになっています」と話します。
石橋さんの話を聞きながら、東日本大震災の被災地で、中高年男性の外出を促そうとする取り組みを取材したことを思い出しました。男性が関心を持ちそうな家具づくりを企画するなど、工夫を重ねる支援者の動きを記事にしました。
仮設住宅でお茶会やラジオ体操などを企画しても、出席者の多くは女性。地域のなかに自ら出向いてくる男性はとても少ない。被災地の取材では、そんな声をよく聞きました。
阪神大震災では、兵庫県内の仮設住宅で孤独死の約7割は男性。とくに50~60代が多く、アルコール依存症などを抱えている人も少なくなかった。そんな調査もあります。
「男性は女性に比べ、近所づきあいが苦手。だから仕事がなくなると孤立しやすい。多少おせっかいと思われても、周囲が人付き合いの場をつくっていくことも大切」。調査を担当した、そんな医師の言葉が印象に残っています。
NPO法人「二枚目の名刺」の代表、廣(ひろ)優樹さん(39)を訪ねました。
「二枚目の名刺」は、本業以外のもう一つの名刺をもつことを支援する活動をしています。たとえば本業のスキルを生かせるような地域のNPO活動とつなげたり、社会課題を解決するための活動を紹介したりします。
「パパ友」とは直接関係はないのですが、「二枚目の名刺」という響きに、「職場の外に世界を広げる」趣旨を感じ取り、話を聞きに行きました。
立ち上げは2009年。第1子となる長女の誕生が、ひとつのきっかけだったと言います。子どもができたことで、「この子が大きくなったとき、食の世界はどんなふうになっているのだろう」と、食糧問題に関心が向くようになりました。
当時、金融機関勤務で、英国留学中でした。ビジネススクールのプロジェクトで、ベトナム商工会議所と直談判し、日本への農産物の輸出をすすめる取り組みをしました。
帰国後も食糧問題に関わり続けたい。でも、金融機関の職場でそういう仕事はありませんでした。じゃあ、両方やればいいじゃないか。そのシンプルな思いが、「二枚目の名刺」につながりました。
いまは商社に転職し、その仕事をこなしながら、活動を続けています。最近は、シニア向けの地域デビューのための講演などの仕事の依頼も出てきていると言います。
どうしても話題がいまの仕事の中身になってしまったり、自己紹介の中身がこれまでの仕事の肩書を語る「履歴書」になってしまったり。「二枚目の名刺」の活動をするなかでも、会社の肩書に頼って抜けきれない男性の姿は目にする、と言います。
「鎧を脱ぐ儀式が必要なのだと思います。その人は『どこの会社の誰なのか』ではなくて、『何をしているのか。どんな価値観を持っているのか』が大事なのだと思います」
いまは4人の父親でもある廣さん。「パパ友がいない」問題、どう思いますか?
「ある意味、チャンスだと思うんですよね」と廣さん。「子どもをもったことを『越境の機会』とみなすといいと思います。子育てが大変だ、とか、楽しいとか、自分だけに向くのではなく、これを機会につながっちゃった外の世界があるということに気付くといいと思うんです。『パパ友』でくくるというより、パパということを通じていろんなことにつながれる、ということに面白さを感じられるといいのかもしれませんね」
廣さんの「チャンス」「越境の機会」という言葉が、印象に残りました。
私自身を振り返ると、転勤族ということも言い訳に、地域とのつながりが薄い生活を送ってきました。2017年、長女(2)の誕生にあわせて6カ月の育児休業を取得し、仕事一辺倒の生活から、自治体の育児施設に通ったり、親子教室に顔を出したり。そんななかで、職場以外の「地域社会」というものが存在する、という当たり前の事実に思いをはせるようになりました。
職場の外へ自分を向ける「越境の機会」。子どもの誕生は、その入り口に立つ機会を与えられた、ともいえるかもしれません。そして、子どもの病気や児童虐待など、いままでとは違った社会課題に強い関心がわき始めた自分も感じます。
といいながら、育休を終えたら、もとの仕事中心の生活へ舞い戻っているのが正直なところ。職場の外へ世界を広げていく努力を続けていかねば、と感じています。
記事に関する感想をお寄せください。母親を子育ての主体とみなす「母性神話」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。こうした「母性神話」は根強く残っていますが、「出産と母乳での授乳以外は父親もできる」といった考え方も、少しずつ広まってきました。みなさんはどう思いますか?
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