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マンションの断水、停電しても給水できます 北海道で学んだ対処法
台風15号の影響で千葉県などで起きた停電は、今なお続いています。電気とともに、生活に欠かせない水。停電にともない、多くの中高層マンションで蛇口から水が出なくなりますが、実は1階や地下で水をくめることが多いのです。この停電時の水問題、1年前に発生した北海道胆振東部地震でも起きました。現地で全域停電(ブラックアウト)を経験し、飲料水を探しまわった記者が、意外と知られていない停電時の水問題の対処法について取材しました。(朝日新聞北海道報道センター記者・天野彩)
昨年の北海道地震では、私も被災者として避難所で一晩を明かしました。9月6日未明、札幌市内のマンションの自室で大きな揺れで目を覚まし、テレビで被災状況を見ていると、ブツッと音を立てて部屋中が真っ暗に。その後、水道をひねると、水が出ないことに気が付きました。
「災害があったらお風呂に水をためるように……」という教えを思い出したものの、後の祭りだとため息。トイレは流れず、手も洗えず顔も洗えません。仕方なく、水を買おうとコンビニに行くと長蛇の列で、飲料水は売り切れ、500ミリリットルのお茶を1本だけ買いました。トイレの水が出なくなったコンビニもあり、汗などでべたべたの手は、2軒目のコンビニでようやく洗えました。
「電力の復旧のめどはたっていない」と昼ごろにツイッターで確認すると、余震が続くなかで電気も水もない家で暮らすのはとても不安なので、夜は避難所で過ごそうと決意。約2キロ離れた水道局に、水を確保しに自転車で行くと、水を求める人たちの列ができていました。配っていた6リットルの水をかごに入れると、ゆらゆらと不安定に揺れました。
その地震から1年経って分かったのは、どうやら私の住んでいるマンションでは停電時でも水をくめたらしい、ということでした。部屋に水を供給するのに電気を必要とする建物の多くに、電気がなくても共同で使える水栓がついているということが、取材でわかったのです。
札幌市水道局の担当者は「まさかそれが知られていなかったなんて」と驚いていました。近くで水がくめることがわかっていれば、手を洗えるところを探して歩き回ることも、水の入った重い袋を運ぶのに苦労することもなかったのです。
道内の自治体ではこのときの教訓から、「普段からマンションの給水の仕組みを知っておくことが大切」と呼びかけています。停電の体験のない人も、ぜひこの機会に調べてみてほしいです。
意外と知られていない「停電時の水問題」。自分のマンションの給水について知っておくだけで、いざという時、役立ちます。
マンションなど中高層建物の給水には「受水槽方式」「直結直圧方式」「直結加圧方式」という三つの方式があります。このうち受水槽方式は建物の地下にある受水槽に水をため、電動ポンプで屋上の高置水槽までくみ上げ、落下圧力で各戸に配水する仕組みです。
受水槽方式では停電でポンプが使えなくなり、高置水槽の水がなくなると断水となります。タワーマンションなど超高層の集合住宅もこの方式です。
直結直圧方式は主に5階建て程度までのマンションに、直結加圧方式は主に6~10階建て程度のマンションに導入されています。これらの直結方式は、配水管の圧力で水をくみ上げます。そのうち直圧方式は電動ポンプを使わないので、停電による断水の心配はありません。一方で加圧方式はより高層階に水をくみ上げるのに電動ポンプを使うので、停電の影響を受けます。
地震が発生した昨年9月6日、札幌市水道局には地震関連の問い合わせ電話が約2千件あり、多くがマンションの断水に関するものでした。市が開設した給水所も73カ所のうち約8割がマンション向けで、住民が列をなしました。
受水槽方式の建物では地下の受水槽付近に水抜き用バルブが、直結加圧方式では1階の庭などに植物への水やり用の散水栓があることが多いです。電動ポンプが作動しない時でも、これらの水栓を使えば給水できるのです。
しかし、せっかくの対処法も、ほとんど知られていませんでした。市水道局は、問い合わせをした人には対処法を説明したものの、担当者は「マンションの敷地内で給水できることが思いのほか知られていなかったと、その時初めてわかった」と振り返りました。直結加圧方式でも低層階では水道を使える場合があり、住民間で融通することもできますが、広く知られてはいませんでした。
反省をふまえ、同局は今年度、市内全戸に配布する広報ビラで、停電しても建物の敷地内で給水可能な場合があることを説明しました。受水槽方式では管理人が受水槽部屋の鍵を保管している場合が多いことから、停電時の給水方法を記したパンフレットを作り、今月下旬からマンション管理会社などに配ります。
北海道函館市は給水所に来た市民の多くがマンションの住人だったことをふまえ、散水栓を新たに設置した場合に水栓への水道基本料金を免除することで、設置を促しています。これまで数件のマンションが設置したといいます。
担当者は「まずは自分の住むマンションの給水方式の情報を、住人や管理組合で共有しておくことが大切だ」と話していました。
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