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「ファンシー絵みやげ」不思議すぎる世界から見えた日本のおおらかさ

好景気の時代につくられた「ファンシー絵みやげ」。専門家の山下メロさん(左)と、ユーチューバー・よききさんが、その魅力を語らいました。
好景気の時代につくられた「ファンシー絵みやげ」。専門家の山下メロさん(左)と、ユーチューバー・よききさんが、その魅力を語らいました。

目次

日本の経済が右肩上がりだった時代に、観光地で売られていた、不思議な雑貨があります。その名も「ファンシー絵みやげ」。1980年代から90年代にかけ、全国の土産物店で人気を集めました。真冬の背景なのに、なぜかキャラクターが服を着ていなかったり、何でもローマ字で表現したり……。そんな「古き良き日本の遺産」の魅力に、現代の流行の最前線にいる人気ユーチューバー・よききさんが切り込みました。「ファンシー絵みやげ」の専門家、山下メロさんとの対談から見えてきたのは、国内が好景気だった頃のおおらかさでした。(withnews編集部・神戸郁人)

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【連載記事一覧】山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

アルファベットの日本語、コミカルなキャラクター

山下さんは2010年に、ファンシー絵みやげを集め始めました。「研究家」として全国を飛び回り、これまでに約1万7千種のアイテムを入手。誕生の経緯などについて調べ、結果をまとめた著書も出版しています。

【山下さんの著書「ファンシー絵みやげ大百科 忘れられたバブル時代の観光地みやげ」(イーストプレス)】

山下さんによると、ファンシー絵みやげとは、主に次のような条件を満たすものです。

・ローマ字表記の日本語が盛り込まれている。

・子どもっぽく擬人化された動物など、2頭身のコミカルなキャラクターが描かれている。

キャラクターの表情は、寄り目である場合が少なくありません。鼻と口が省略され、ほほが赤らんでいるケースもあります。また文房具やミトンなど、商品ラインナップが豊富なことも特徴です。

ファンシー絵みやげのモップ。表面にデフォルメされたキツネや、ローマ字表記の日本語があしらわれている
ファンシー絵みやげのモップ。表面にデフォルメされたキツネや、ローマ字表記の日本語があしらわれている

しかし、バブル景気がはじけた90年代前半以降、徐々に市場から姿を消していきました。収集活動には、いわば「保護」の意味合いがあるのです。

子どもが思わず笑ってしまうデザイン

withnewsのYouTube番組「withよきき」で、よききさんと共演した山下さん。黄色い縁の眼鏡に、カラフルな帽子を身につけた、「歩くファンシー」とも言うべきいでたちです。

山下メロさん
山下メロさん

収録で披露されたコレクションの中に、新潟・佐渡で手に入れたというのれんがありました。表面には、こんな文言が書かれています。

SADO E SADO E TO KUSAKIMO NABIKU
(佐渡へ 佐渡へ と 草木も なびく)

SADOWA IYOIKA SUMIYOIKA
(佐渡は 居よいか 住みよいか)
大きな文字で
大きな文字で"SADO"(佐渡)と書かれたのれんを掲げる山下さん(左)

これは、地元に伝わる民謡「佐渡おけさ」の歌詞をプリントしたものです。佐渡島をバックに、祭りの衣装を着て踊る、漫画風の男女のイラストも配されています。

 

山下さん

伝統的なテーマを、ローマ字で表現することで、いわば『アメリカナイズ』している。こうした土産物が、当時の子どもには受けていました。

このように「ご当地グッズ」として生まれた商品は、他にもあります。"NAKAZATO"と表記された星形キーホルダーは、スキーの名所として知られる、新潟県の越後中里で売られていました。

スキー用の板とストックを手にした、男の子のキャラクターが描かれているのですが、なぜか全裸。雪が降る中、「すべれないの……」とつぶやいています。

スキー用具を装備しながら「すべれない」とつぶやく男の子。なぜ裸なのかは、今や誰にも分からない
スキー用具を装備しながら「すべれない」とつぶやく男の子。なぜ裸なのかは、今や誰にも分からない

 

よききさん

雪が降っているのに、裸ですか!? それでは滑ることが出来ないですよね?

 

山下さん

というより、そもそも寒い(笑)。一つ一つ見ていくと、変なデザインが多いんです。こういう、子どもが思わず笑ってしまうような要素が、ふんだんに盛り込まれています。

東京タワー、新幹線……そして”HARAJUKU”

日本の経済が上り調子だった、バブル期を思わせるものも、数多く登場しました。象徴的なのが「原宿」を扱ったシリーズです。

例えば、黒地に虹色の文字で”HARAJUKU”と書かれたキーホルダー。”J”の上部だけが異様に長く、背景を突き破らんばかりです。まさに「イケイケ」な時代性を示しているようにも思えます。

"J"の主張がやけに激しい"HARAJUKU"キーホルダー

 

よききさん

レトロな雰囲気が何とも言えず可愛いですね。一周回って、最近の若者にも受けそうです!

 

山下さん

そうですね! ”HARAJUKU”の下には、現地の商店街『竹下通り』の名前が、ピンク色のインクで印刷されています。

たった四文字のために、お金をかける。こういうところも面白いんです。

原宿と言えば、タレントショップなどが立ち並ぶ、流行の発信地です。バブル期には、今とは異なる客層を引き寄せていたと、山下さんは語ります。

 

山下さん

この星形キーホルダーを見て下さい。”TOKYO”という文字の上に、東京タワーや東京駅、新幹線のイラストが配置されていますよね。

よく見ると、上の方に小さく”HARAJUKU”と書かれているんです。
"HARAJUKU"の配置には、執念すら感じられる

 

よききさん

無理やり過ぎませんか!? そうまでして地名を入れたかったのか……。

 

山下さん

原宿と言えば、誰もが憧れる、最先端の文化が集う場所。そうしたイメージを利用し、地方から上京してきた人たち向けに売り出されていたんです。

外国人観光客でにぎわう現在とは、また違う時代だったんですね。

手に取った人を幸せにしてくれる雑貨

一通り解説が終わったところで、山下さんは「一緒にオリジナルの『ファンシーイラスト』を描いてみませんか?」と、よききさんに持ちかけました。

モデルは、よききさんの愛猫「シュガーちゃん」です。それぞれ真剣な表情で、スケッチブックにペンを走らせます。

よききさんの愛猫「シュガーちゃん」
よききさんの愛猫「シュガーちゃん」

約5分後、作品を見せ合うことに。先攻は山下さんです。

ひれ伏した猫の表情は、くりっとした寄り目。周囲には「にゃあ~」という鳴き声と、名前のローマ字表記「SHI YU GA CHAN」(シユガーチャン)が記されています。観覧席から「可愛い!」と声が上がりました。

専門家としての知識を詰め込んだイラスト。店頭で見かけそうなデザインだ
専門家としての知識を詰め込んだイラスト。店頭で見かけそうなデザインだ

一方、よききさんのイラストを見ると、ピンクの砂浜に2本足で立つ猫の姿が。背景には、緑色の海と青空が描かれています。他のファンシー絵みやげにも登場するヤシの木に加え、鳥のような謎の生物もあしらわれていました。

これには、山下さんも「色使いを含め、すごい理解力ですね!」と大興奮です。会場全体が、楽しげな笑い声に包まれました。

作品を掲げるよききさん。エキセントリックなイラストだが、ファンシー絵みやげの特徴を捉えている
作品を掲げるよききさん。エキセントリックなイラストだが、ファンシー絵みやげの特徴を捉えている

 

山下さん

ファンシー絵みやげって、貴重な資料なんです。かつての若者の気持ちが分かるし、観光的な要素以外にも、流行などが見えてくる。

 

山下さん

今でも高速道路のサービスエリアなどで、『ファンシー』と書かれた看板を目にすることがあります。奥が深い世界なので、ぜひ色々見つけてみて欲しいですね!

手に取った人を幸せな気持ちにさせてくれる、ファンシー絵みやげ。もしかしたら、すぐ近くにも眠っているかもしれません。機会があれば探してみてはいかがでしょうか?

バリエーション豊富なアイテムの数々
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