連載
「変な人」思われてもいい!懐かしのお土産集める男の情熱 佐渡の旅
時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回る山下メロさん
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時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回る山下メロさん
80~90年代に日本中の観光地で売られていた雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」を集める山下メロさん。時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回っています。日本で2番目に大きな島、佐渡島を訪れた山下さんですが、その広さを甘く見ていたようです。期待の観光スポットを回れないかもしれない。土産店の店員にも「変な人」扱いされる、山下さんのピンチを救ったのは……?
私は、日本中を旅しています。自分さがしではありません。「ファンシー絵みやげ」さがしです。
「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称で、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見れば、実家や親戚の家にあったこのお土産にピンと来る人も多いのではないでしょうか。
バブル時代をピークに、バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。
私は、その生存個体を保護するための「保護活動」を全国で行っているのです。
今回の目的地は新潟県の佐渡島、2015年のことです。島といっても、日本では沖縄県本島に次いで大きな島。東京都23区の1.4倍ほどの大きさがあります。佐渡をローマ字表記した「SADO」のイニシャルである「S」と同じような形をしているのが特徴です。
佐渡島は、「日本の縮図」と言われています。島なので当然海に囲まれていて、湖があり、川があり、山があり、平地があります。そこに漁業、農業、酪農などいろんな産業があり、工場もあれば商店街もあり、コンビニにホームセンターや大型リサイクルショップまであります。更にはさまざまな観光スポットや伝統芸能まで。食べ物も非常においしいので是非一度は行ってみて欲しい場所のひとつです。
そんな佐渡島ですが、東京23区の1.4倍ほどの面積に反して、鉄道がありません。公共交通機関での移動はもっぱら路線バスとなります。しかし路線バスも、中心部こそ本数が多いものの、少しはずれると学生の登下校時間以外の本数は少なくなります。自動車を運転しない地元の方も困っていると、民宿の方も話していました。
私は佐渡に1週間ほど滞在する予定でしたが、島はあまりに広く、そして観光スポットも多いので、本数の少ないバス頼みですべてを回りきるのは非常に困難です。これではすべての観光スポットを調査できないのではないか。私は暗澹(あんたん)とした気持ちになっていました。
佐渡金山を訪れた帰り道、民宿方面へ向かうバスの時間ともタイミングが悪いため、とぼとぼと海岸線沿いを歩いているとドライブインがありました。実はバスから見て気になっていた建物だったのですが、実際に行ってみると土産コーナーのあるドライブインだったのです。
佐渡金山ではファンシー絵みやげを見つけることができなかったのですが、偶然見つけたこちらのドライブインで、なんと佐渡の色々な要素の入ったポップな柄のよだれかけを保護することが出来ました。衣類のファンシー絵みやげは多岐に渡りますが、中でもよだれかけは珍しいです。
佐渡には、地元の民謡「おけさ節」や春のお祭り「鬼太鼓」、「たらい船」など伝統文化をモチーフにした商品があるようなので、今後にも期待ができます。
さて、夕日が沈んでいく中、民宿に戻りました。ちょうど夕食前で、いいにおいが漂っています。佐渡は農業も漁業も酪農も盛んで、何を食べても美味しいのです。今夜の夕食も楽しみで、すぐに食堂へ行くと美しい夕焼けが見られました。
最初の頃は食堂でひとり食事をとっているのが自分だけで、女将さんが時折話しかけてくださいましたが、今日は隣に同じくひとりで食べている男性の方が。そして女将さんも忙しそうで話しかけてきません。
ご飯を食べていると男性が話しかけてきました。静岡から佐渡へ撮影に来ていた写真家の小林久人さんという方でした。
小林さん
山下メロ
小林さん
山下メロ
小林さん
山下メロ
小林さん
山下メロ
小林さん
その後、実際の保護活動についての話や、ファンシー絵みやげがいかに民俗学的資料として重要で、それを保護する必要があるかなどの話もしました。
小林さん
路線バスでは島の観光スポットを回りきれないと思っていた私の心に、光が差し込むような提案でした。翌日から二人で佐渡を回ることになったのです。どこでどんな出会いが待ち受けているかは分かりません。
家の中で計画を立てていると不安になってきますが、とりあえず現場に足を運んでみることが肝要です。現地に行ってみると、意外なアイディアが浮かんだり、運が良ければ今回のように助け舟が出たりするものです。そういった成功体験を積み重ねるほどに、私は観光地へどんどん行けるようになりました。
佐渡は島の北側を大佐渡、南側を小佐渡と呼びます。大佐渡の海岸線沿いには、日本最大級の金脈で有名な佐渡金山をはじめ、迫力の断崖の尖閣湾揚島遊園や、巨大な一枚岩・大野亀など観光スポットや景勝地がたくさんあります。
しかしバス路線はそれらを回れるルートでは繋がっておらず、分けて調査しなくてはなりません。しかし今回は、民宿で出会った写真家の小林久人さんが車で連れて行ってくれるので、一気に見られるというわけです。
大野亀は大佐渡の北端にあり、当初調査できるかわかりませんでした。しかし、私はどうしても行きたかったのです。その理由は、土産店を紹介するWebサイトにファンシー絵みやげのれんが写っている写真があったからです。
もしそののれんが今も売っているのであれば、ぜひ保護したい。しかし、この写真がいつのものか分からないため、事前に電話で確認することにしました。
たとえば土産店の電話番号を事前に知ることができたとして、電話をかけて「こういったものはありませんか?」とたずねても、言葉だけではファンシー絵みやげの特徴を伝えきれません。お店の方が「ない」と言われても、実際には売られていたりします。事前に確認ができないので、計画は立てますがその通りにはいかず、私の旅は行きあたりばったりにならざるを得ないのです。
しかし、今回はWebサイトの写真の通りに、棚の上にのれんが今もあるか確認するだけ。それなら確実に伝わるだろうということで、普段やらない電話連絡をするために受話器をとりました。(実際は携帯電話の通話ボタンを押した)
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
もう売っていないのは残念でしたが、現物を見せてもらえるだけでも充分ありがたいことです。そのイラストのタッチや、書かれている言葉、使われている素材を見るだけでも研究材料になるのです。
いつも保護活動は何の保証もない状態で行くため、何時間もかけてたどり着いて成果ゼロということもままあります。もちろん調査ですから「無い」という結果を持ち帰るだけでも意味はあるのですが、今回は事前確認できているため気持ちに余裕があります。
写真家の小林さんとともにいくつかの観光スポットを巡ったのち大野亀に到着しました。黄色いトビシマカンゾウが群生していることで有名な場所です。しかし私は一番に土産店へと駆け込みました。
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
電話の件が店員さんの間で話題になっていたようで、ぞろぞろと店員さんが集まってきました。最初に笑いをこらえていたのはそういう訳だったんですね。見れば店員さんはみんな笑いをこらえています。いや、もうこらえてすらなく、思い切り笑っちゃってる人もいます。
「本人の目の前で!」とも思うのですが、自分でもおかしな行動をしてる自覚はあるので気になりません。他人の目を気にして品行方正に振舞っていたら、絶滅しそうな文化を保護することなどできませんので。そんなことを考えながら念願ののれんを眺めていました。
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
わざわざ写真を撮る「変な人」としてのれんを写真に収めました。そして、のれんを前に小林さんに説明します。
「この布の素材。珍しいですが、佐渡では二例目です。同じところで作られているのでしょうが、発注元が違うのか、もしくはデザイナーさんが変わって絵柄が洗練されたのかもしれません。」
こんなことをひとりの時は話しません。「業界の人にとっては常識のうんちくを長々と話す面倒な客」と思われても嫌なのでお店の人にも話しません。小林さんという同行者がいたので、説明したまでです。でも、これが店の人に「本当に変な人」という印象を与えてしまったようでした。
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
私はかつてお湯で洗ったあと洗濯機にかけて、かなり色落ちさせてしまった過去があります。布製品のファンシー絵みやげは決してお湯や洗濯機で洗ってはいけません。
そんな役に立つか分からない豆知識はさておき、のれんについて小林さんに説明している間に、最初に対応してくださった店員さんが、店長さんらしき方に相談してくださっているのが、横目に見えていました。一度は販売を断って、それをこちらもすぐに了承したにもかかわらず。
そうして私はインターネットで見ていた念願ののれんを保護することができました。これまでも見たことがなかったデザインで、このあと佐渡島中を回っても見つからなかったので、ここにあるのれんが最後の可能性があります。
※ちなみに、今回はお店の方のご厚意で購入させていただきましたが、現在ものれんの販売は行っておりません。ご注意ください。
ネットを見て事前に電話する、ディスプレイを欲しがる、ディスプレイの写真を撮る、ディスプレイについて真面目に語る。いずれも「変な人」のように思われます。しかし、この「変な人」というのは決して悪い意味とは限りません。
いえ、悪い意味だったとしてもよいのです。一番の目的はファンシー絵みやげの保護なので、どんな行動であっても、それで「変な人」の「変な活動」に協力したいと思ってもらえたら活動が前進するのです。最終的に活動の意義が伝わればよいのであって、それまでは「変な人」でかまわないのです。
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山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。
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