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沖縄の若者は保守化? 初当選の高良氏が考える「現実逃避」の実像
7月21日に行われた参院選沖縄選挙区(改選数1)で、高良鉄美氏が米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力の支援を受けて初当選しました。出口調査では、20代と30代がともに半数以上が自民候補に投票したと回答するなど、沖縄県内における世代間の違いも浮かび上がりました。若者は選挙、基地についてどう思っているのか。調査から見えた課題を高良氏に聞きました。(朝日新聞世論調査部・小野智美)
――高良氏が選挙戦で前面に掲げたのは、辺野古移設反対。その際によく使った言葉は「もったいない」でした。
「もったいない」はずいぶん使いましたね。
防衛費について税金との関係で「もったいない」と話しました。消費税を増税したら、買い控えとか消費不況が起きる。税金を上げなければいけないというほどの必要性があって上げるのなら、まだわかるけれど、そうじゃない。防衛費で無駄遣いしているのだから。
沖縄県が試算した辺野古の移設費2兆5500億円は、税金です。それも沖縄だけではなく日本国中の税金を使うわけだから、沖縄に限った問題ではなく、全国の問題です。全国民の税金がなんで辺野古移設に使われるの、と。お金の使い方の問題なんです。試算通りにおさまらず、3兆円、それより増えて倍になるかもしれない。
老後の生活費が夫婦1組で2千万円不足するという話も出ましたね。3兆円もの税金があれば、それで老後の資金も賄えるはず。「納税者として、どっちをとりますか」と話しました。
【2兆5500億円の埋め立て工事費】沖縄県が政府との協議に備えて独自試算した辺野古の埋め立て工事費。飛行場建設費は含まない。当初、防衛省の計画書では「2405億円」と見積もっていた。県の試算では改良工事に2万本の杭を想定。一方、「マヨネーズ並み」と呼ばれる軟弱地盤のため、防衛省は7万6699本の杭を打ち込む大規模工事を検討していることが明らかになっている。政府は埋め立て工事費総額について「確たることは言えない」としている。
――沖縄では今年2月の県民投票で、辺野古埋め立て反対が72%にのぼりました。こうした中でも政府は辺野古の埋め立てを続け、県との対立が続いています。今回の選挙戦では、一方の自民候補は辺野古移設について立場を明確にせず、子育て支援や経済振興を訴えました。朝日新聞社の参院選出口調査(県内60カ所、有効回答2955人)では、年代別で20代と30代がともに半数以上が自民候補に投票したと回答。こうした状況をどう見ているのでしょうか。
今回、相手候補は、インターネット、フェイスブックを使い、エンターテインメントのようなショー的なところが若い人たちに影響したのではないかな。若者の保守化というのは全国的な面もあると思うんですけど、若い人の関心は自分の生活にあり、「辺野古移設に反対して自分の生活ができるの」という思いもあったでしょう。NHKから国民を守る党のように「いくつも争点があるけれど、これしか言わない」というのは、若い人たちにはわかりやすいだろうなとは感じます。
今回の選挙で最初と最後では、私はだいぶ演説が変わったと自分でも思います。より簡単に、よりわかりやすく話すようになりました。もともと大学教員の話し方なので、選挙向けの話し方ではない。自分の癖で、大学で講義するように大局的な憲法の話から始めていましたが、選挙戦の途中からは、より具体的な税金や生活の話から始めるように修正したんです。
――出口調査では前回参院選や昨年の知事選に比べて、20代や30代の女性層でも自民が推す候補への支持が増えているようにも見えます。若い世代に基地問題へのあきらめムードが広がっているのでしょうか。
それはちがいます。あきらめるわけないでしょ。基地問題はあきらめて受け入れることができるようなものではない。基地問題は、女性のほうが関心は高いと感じています。戦争中だけではなく、その後も女性が被害をこうむりやすいからです。そこは男性とは違うと思いますね。
あきらめるのではなく、今は強いて考えないように現実逃避しているのではないでしょうか。だけど、家庭や子どもをもち、40歳くらいになると、また考えるんです。やっぱりこうじゃない、と。
――全国的に投票率が低迷する中、沖縄県でも49%と補欠選挙を除いた過去の国政選挙で最低を記録しました。
参院選のずいぶん前から「大差がつく」という話が出ていた面が強いのかな。選挙対策本部では楽勝ムードを引き締めるのに一生懸命でしたが、「大丈夫だから」といった反応が有権者には多かった。
この1年ほどの間に、名護市長選、那覇市長選、知事選と衆院3区補選、県民投票も入れると6回もあり、ここまでくると、有権者の間に投票疲れがかなりあったのでは。
「投票疲れ」と高良氏が指摘する各選挙の結果は、辺野古移設を事実上容認する候補が当選した昨年2月の名護市長選以外は、いずれも移設反対派の当選が続きました。
高良氏が「あきらめて受け入れられるものではない」と語る沖縄の現実として思い起こすのは、一昨年12月に起きた沖縄県宜野湾市の小学校の校庭に米軍ヘリの窓が落下した事件です。体育の授業中の子どもからわずか十数メートル先に、重さ約7.7キロの窓が落ちたのです。
昨年2月の校庭の使用再開後は、校舎屋上で米軍機を監視し、近づくたび、校庭の子どもたちへ避難指示が出ました。避難回数は昨年9月中旬までに678回におよびました。昨年9月中旬からは監視員の避難指示をなくして、担任や子どもたちが自主判断し今年5月までに約30回の避難が行われました。
沖縄の現実をあきらめて受け入れようとしているのは、いったい誰なのか? 沖縄から遠く離れた場所に暮らす私たちそのものではないかと厳しく指摘された思いがしました。
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