連載
#12 #父親のモヤモヤ
「嫁の務め」求める義姉、気が重い夫の実家 帰省し「嫁女優」、今も
夫の実家への帰省は憂鬱(ゆううつ)。そんな妻の本音が、SNS上にはあふれています。お盆の帰省シーズン。そうした声に耳を傾けました。
「『嫁だから』『女だから』。そういう固定観念がある人と付き合わなければならない帰省は気が重いです」
関東に住む主婦の40代女性は、取材に対し、そう答えてくれました。年1回程度、娘を連れて夫の実家に帰省するのが憂鬱だと言います。
気持ちがふさぐのは、義理の姉と顔を合わせることになるかもしれないからです。義理の姉も結婚し、2人の子どもがいます。
5年ほど前に帰省した時のことです。夫の実家があるエリアには、めったに会えない友人がおり、女性は義理の両親に断った上で会ってきました。
ところが、帰宅した女性に対し、待ち構えていた義理の姉は「嫁が客気分とは何事だ。嫁が夫の実家に来て、自分の用事で出かけるなんてありえない」と怒りをぶつけてきたと言うのです。
この時だけではありません。台所に立つ。洗濯をする。集まった子どもたちの相手をする。義理の姉との会話では、言葉の端々にそうした「嫁の務め」が出てきます。女性も率先して動いてはいますが、いつも矛先を向けられます。帰省後も、こうした義姉の事を思い出すだけで動悸がしたり、食欲が減退がしたりするそうです。
一方、義理の姉は、弟である夫には何も言いません。まったく手伝わないにもかかわらず、です。自宅で夫は、食後に食器の山があっても、リビングで寝転がり、スマホのゲームをしています。
女性はあきらめの気持ちがあって、帰省時に何か言う気もおきません。「家事は私がするものと思っているようです。夫が自分の実家で動くことを期待する方がつらいです」
「積極的に帰りたいとは思わない。でも、義理の両親も70代。夫も『あと何回会えるか』と思っているでしょう。そういう思いもくんで、なんとか出かけるのです」
帰省時のつらい記憶は、長く刻まれています。
「古いかもしれませんが、『義務』と言い聞かせて我慢していました」と話すのは、神奈川県に住む主婦の50代女性です。夏と年末年始、夫の実家に2人の娘と帰省することが苦痛だったと言います。
20年ほど前の出来事を、鮮明に思い出します。
当時、女性と娘は午後9時前には「早く寝なさい」と寝かされていたそうです。しばらく経ち、ふすまから漏れてくるのは、酒盛りの声。その時、「あいつは人間性が軽い!」。義父はそう言って女性の親族を何度もあざ笑ったそうです。「死ぬまで、忘れません」
声が聞こえないかと心配した夫は何度か寝室へ様子を見に来ましたが、その度に寝たふりをしたと言います。義父は一人息子の夫もののしる人だったそうです。夫も強くは出られず、板挟みだったのだと思いますが、それでも、毅然とした態度で守ってほしかったと言います。
後になって、義父のあざけりが聞こえていたと告げました。「あの時は腹が立った」と言うと、小さな声で「すみません」と言ったそうです。
関東に住む50代女性は、2泊3日程度の夫の実家への帰省が嫌でした。「義理の両親の口癖は『嫁のくせに』『嫁なんだから』。帰省の手土産にも物言いがつきました」とメールを寄せてくれました。
「我が家の嫁になれて、うらやましがられて当たり前」「しつけは母親の責任」。そんな言葉を義理の両親から投げられた、と女性は書いています。
一度、父子だけで帰ってもらったこともありますが、習い事の結果など子どもたちの成長記録や写真、手土産などを準備するのは女性だったそう。帰省時に限らず、夫自身は、日ごろから、子どもの面倒を見たり、家事を手伝ったりすることはなかったそうです。
「深夜に子どもが体調を崩し、救急で受診した際も寝たままだった」。女性は振り返ります。
女性は、こうした義理の実家や夫に嫌気が差し、離別を決意しました。
一方、西日本に住みパートで働く30代女性は「義理の実家が好きだった。でも今は、、、」というメールを寄せてくれました。もうすぐ2歳になる娘はイヤイヤ期に突入し、バタバタした毎日を過ごしています。
お盆とお正月、夫の実家に帰省しています。ところが、今年は違いました。
夫は、「仕事が忙しい。疲れている」と義母に話していたそうです。義母は夫に「子育て疲れや自由な時間がないストレスもあるのだろう」と答えたと言います。その後、義母はLINEで、夫婦別々にお互いの実家に帰省したらどうか、と提案してきました。夫の帰省中、子どもの面倒は女性がみるという意味でした。
「家族のように迎えてくれる夫の実家が好きでした。でも、息子(夫)しか見えていないんだなぁ、とかなりショックでした」
仕事に出てお金を稼ぐ。休みには子どもと遊ぶ。そんな夫には感謝をしてきましたが、帰省をめぐるやりとりに日ごろのみ込んできた思いが抑えきれなくなりました。
「子育て疲れはお互い様。自由な時間がないのは、私も一緒です」。むしろ、夜中も頻繁に起き対応するのはいつも女性。自由な時間はなく、「自分の夕食は3分でかきこむ毎日です」。それでも夫は、休みに趣味のパチンコやスロットに行くと言います。
「『みんなで疲れを癒やしに帰っておいで』ではない。夢から覚めた気持ちです」
帰省時、本音とは裏腹に嫁の役割を演じている。まさに「嫁女優」。そんな話題を先輩記者が朝日新聞で取り上げたのは8年前。取材を通じて、状況は変わっていないと感じました。
「嫁が客気分とは何事だ」と義理の姉に怒りをぶつけられた女性に、「嫁女優」の経験があるか尋ねたところ、「全部ではないが、演じている部分もあるかもしれない」と話してくれました。
配偶者の実家への帰省が憂鬱と感じる割合は、男性に比べ、女性の方が高いというデータもあります。
配偶者の実家は、異文化の地、またはアウェーとも言えそうです。そこでは、異なるカルチャーに面食らうこともあるでしょう。家事や育児が、「嫁」という形で押しつけられることで、日ごろの偏りが際立つこともあるでしょう。そうしたことで、足が遠のいていくのだと思います。
取材した女性たちは、状況こそ違いますが、日ごろのパートナーの姿勢に対して、多かれ少なかれ、違和感や不満を持っていました。「家事や育児は期待できない」「仕事と称して外で自由時間を過ごす」「休みには趣味のパチンコやスロットへ」。帰省をめぐり、そうした思いが強まるケースもありました。
そうしてみると、良好な夫婦関係が、よりストレスの少ない帰省につながる側面もありそうです。
ただ、これこそが難題、と感じる人は多いでしょう。そこにあるのは、古くて新しい問題ばかりだからです。一例を挙げれば、家事や育児負担の偏重は夫婦関係に悪影響を与えますが、ワンオペ育児に苦しむのは、多くの場合女性です。そして、この問題は長らく問題であり続けています。
みなさんのご家庭でも、帰省を通じて浮かび上がるものはありますか。
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