『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』や『惡の華』など、揺れ動く思春期の心を描いた作品の映画化が相次ぐ漫画家の押見修造さんは「今も思春期を引きずっている」と話します。「自分から避けたわりには、 寂しかった」という学校生活。ぐちゃぐちゃの感情に向き合うための「居場所」が漫画を描くことでした。「なんで自分はこんな目に合わなきゃいけないのか、と思う時が逆にチャンス」という押見さんに、「邪魔でしょうがない」感情との向き合い方を聞きました。
押見修造さんのメッセージ
・苦しみは突き詰めれば誰か他の人の苦しみと繫がっているのでは
・漫画を描き、「分かってもらえた」と安心
・見つめがいがある「なんでこんな目に合わなければ…」

<おしみ・しゅうぞう>
1981年生まれ。群馬県桐生市出身。2003年、別冊ヤングマガジン掲載の『スーパーフライ』でデビュー。『惡の華』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『ハピネス』『血の轍』などの作品がある。
一人の世界に閉じこもり「どいつもこいつもわかってくれない」
中1の初めくらいまでは何も考えず、平和に学校に行っていました。変わったのは中2ぐらいからです。萩原朔太郎とかボードレールの詩などを読むようになり、自分が「周りとちょっと違うな」という感じがしてきました。話が友達に通じないと。
プライドも高かったんですよ。「どいつもこいつもわかってくれない」みたいなところはありました。一人の世界に閉じこもっていた感じです。
クラスメートからは頭を小突かれたりしたりしましたが、避けられたというよりも、 僕の方から避けたという感じです。教室にいても、本に夢中になっていたので、クラスメートからちょっかいを出されても反応しないほど没入していました。
物理的にも精神的にも行くところがなかった
ただ、自分から避けたわりには、 寂しかったです。
当時は衝動的な面もありました。「バンドやりたい」とか「何か書きたい」とか。でも何をやったらいいかわからないんです。イケてる奴らがバンド組んでるのを横目で見ながら「畜生!」と思いながら過ごしてました。何というか、物理的にも精神的にも「行くところがない」という気持ちはありましたね。

「ほっといてくれ」それだけだった
学校との折り合いも悪かったです。付き合っていた彼女と夜中ふらふらしたことを先生にも咎められたり、成績も下がったりしました。
両親に反抗できなかった時期でもあります。文化的なものが好きでしたが、両親から与えられたものだったので、両親に反抗するということはつまり、文化的なもの自体を否定してしまうことになります。一方で、文化的なものは親に教えてもらったものに乗っかっているという感覚だったので、「自分で見つけたもの」がないっていうのが、だんだん苦しくなってきましたね。
その頃、大人たちには放っておいて欲しかったですね。大人からしたら放っておけないということも理解はできるんですけど。10代当時の目線で言ったら、「ほっといてくれ」と、もう本当にそれだけですよ。
「無」になって耐えた高校時代
高校に入ってからは、本当に友達がいなくなりました。しゃべる相手もいなくて、孤独の辛さが強くなった。「無」になることによって耐えていました。
何もしゃべらず、ただ学校にいて、家に帰ってきてからも、なんとなくやり過ごす。ゾンビ状態ですね。ただ、美術部の活動には出ていて、そこで絵を描いているのが、かろうじて楽しい時間でした。
本当は、ずっと誰かに見て、聞いてほしかった
好んで一人でいたわけじゃないです。本当は、趣味の話ができる友達が、欲しくて欲しくてたまらなかった。虚空に向かって本を読んだり、絵を描いたりしていたようなものだったので。でも、中途半端な人とは付き合いたくなかった。
覚えているのは高2の修学旅行の夜。創作怪談をみんなに披露しました。すると、みんなすごい怖がってくれて、そこから話しかけてくれる人も出てきて。
みんながワッと盛り上がった時は、すごく嬉しかったです。それまでは、誰の反応もないまま、一人でコツコツ貯めてきた話だったので、反応が返ってきて嬉しかった。一人で過ごしていながらも、ずっと誰かに見て欲しかったし、聞いて欲しかったんです。

「自立」折られ…継ぎ足しいまの人生
思春期は、現時点でも全然終わってないっていうか。その時々に経験した問題が、解決していません。
僕は中学時代、母に彼女との関係を引き裂かれました。それがきっかけで「自分はダメな人間なんだ」という感覚がすり込まれました。
多くの人は、社会に出ていくときに自立できるんでしょうけど、僕は中学生の頃に自立の最後のところをボキって折られた感じがあって。その後に継ぎ足して、自分の人生が成り立っているんです。
だから、人より(思春期を)引きずっているし、人より思い出す頻度が高すぎます。毎日思い出しています。
でも、そこにテーマが詰まっている。それを作品にしないといけないという強迫観念があるんです。
ぐちゃぐちゃの感情、向き合う時が必要
思春期は収束しないぐちゃぐちゃの感情がある。その時の、ぐちゃぐちゃのまま出た言葉とか感情の方が、本当なんじゃないでしょうか。でもその感情は、社会でやっていく中で、しょっちゅう思い出してたら邪魔でしょうがない。
自分が漫画を通じて言いたいのはそれが終わっていないというか、その感情は人間の一生を支配するものであるということです。なにかしらの形で向き合う時が必要になると思います。
私にとってそれは、漫画でした。

「なんでもできる」と言われても
10代って、自分がどうなるかわからない時期。希望がないけど、絶望感があることは確かでした。これが終わる感じがしなくて、つらかったような気がします。
それと、何かやったり形にしたかったりするんですけど、やり方がわからなくて形にできない。それに、客観的になれないから主観的にならざるを得ないんですけど、自分の主観的な世界に価値があるのかどうか、分からないので、自信がない――。
大人は「何でもできる」って言うけど、何でもできるわけがないですよね。(10代は)まだ何も決定していないので大人からするとうらやましい。でも、それって子供の目線ではないですよね。
表現しても表現しても整理できない
言いたいことを言葉にできない状態でもあります。その当時のままの状態で、いま描くことができたら、もっと強いものができるなと思っています。現在進行形で苦しんでいる人の方が、すごいものを作れると思います。
いまもその頃を表現し続けるのは、表現しても表現しても、整理出来ないことがまた出てくるからです。掘り進めていく内に、また新しい感情に行き当たる。それを深めていったときに、やがて普遍的なものになるはずだ、と信じてやっています。母親との関係の苦しみも、誰か他の人の苦しみと繫がっているんじゃないか、そう思ってやっています。
漫画を通じて「わかってもらえた」
僕の中で思春期は続いていますが、漫画を通じて、誰かに分かってもらえたと思えて安心したというか、救われた。こうなれるまでは、本当にどこにも行くところがないという感じでした。
大学生の時に、自分の中学時代の話とかを友達に話したことがありました。すごく面白がってくれた友達の反応が自分の柱になりました。
あと、漫画を描き始めた頃、個人的な経験は面白くないんじゃないか、人が寄ってこないんじゃないかと思っていたんです。でも、編集者に伝えたら「それをそのまま描いた方がいい」と言われました。『惡の華』は、精神的自伝みたいな感じです。

持っているものをどれだけみつめられるか
思春期にできるのは、それぞれ与えられたもの、持っているものを、どれだけ見つめられることかなと思います。
生活状況もさることながら、家族関係など、何でもそうです。「なぜこんなとこに生まれてしまったんだろう」とか「なんで自分はこんな目に合わなきゃいけないのか」とか、思うことってありますよね。それは逆にチャンスというか、見つめがいがあることなんじゃないかと思うんです。見つめた先に何があるかなんて、わかんないんですが。
漫画家志望者の中に、「描きたいこと、描くべきものがない」という人がいるんです。自分は普通の育ち方をしたから、と。でも、自分の人生の中に、何かしらひっかかりがあると、何か表現するためのヒントにも、強みにもなり得ます。

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