クリエーターkemioさんは、10代のころは学校で菌扱いされたり、無視されたりした経験があったといいます。若者から圧倒的に支持され、初のエッセー「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」(KADOKAWA)でも注目を集めるkemioさん。教室でのつらい経験について「乗り越えるとかじゃなくて、通過してるだけ。いつかはきっと、それが変わるときが来る」と語ります。そんな「kemio哲学」を、当時の心境とともに聞かせてもらいました。
kemioさんのメッセージ
・学校だけがすべての世界じゃない
・つらい毎日があっても、変わるときが来る
・踏ん張れているだけで強い。自分を褒めてあげてほしい
<けみお>
1995年、神奈川県生まれ。クリエーターとして、YouTubeやTwitter、Instagramで独自の世界観を発信し続ける。2016年、米ロサンゼルスに生活拠点を移す。モデル・歌手としても活動。今年、初のエッセー「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」が出版され、15万部のベストセラーになった。
「おジャ魔女どれみ」が好きじゃだめ?
――今年出版されたエッセーで、小学生のころが「一番つらかった」と書いています。どんなことがあったんですか
小4のときだったかな。僕、好きなものが、女の子が好きになるものが多かったんですよ。アニメの「おジャ魔女どれみ」とか、ゲームの「どうぶつの森」とか。
男子と話してもつまんないんですよ。全然会話も合わないし、スポーツとか興味ないし、汗かきたくないし。趣味の会話をシェアするのが、必然的に女子になっていって。小学生くらいって、すごく男女が近づくことに懸念感というか、嫌がる傾向があるじゃないですか。それで僕がターゲットになって、「女子と話してるー」とか、「女子菌」とかっていう感じで言われてました。
小5か小6くらいになると、僕が大縄跳びかなんかミスったのがきっかけで、仲良かった十何人くらいの女子のグループのボスに嫌われて、全員無視、みたいなのもありました。もう2年くらいずっと、卒業まで。

粘土貸したら、話してくれるかも
――かなり長い期間ですね
無視されてる2年間は、毎日学校行く前に「今日はこういうことしたら、話すきっかけがあるかもしれない」っていうのを探してましたね。例えば図工の時間、そのグループのうち誰か一人は、粘土貸したら話してくれるかも、とか。
学校行きたくないって超思いましたけど、育ててくれた祖父母が大ごとには思ってなかったので、「そんなのいいから行け」みたいな。行かざるを得なくて、毎日そういうこと考えてました。
――男子からは「女子菌」扱いされ、女子からは無視され、どんな気持ちで耐えていたんですか
すごく悲しい日もめちゃくちゃあったんですけど、今思えば、ここを乗り越えなきゃとかじゃなくて、今ここを通っているだけっていう感覚だったのかなって思います。

クラス替えで泣いた
――高校2年生のとき、うまくクラスになじめなかったとも聞きました
ウチの学校、クラス替えが3年間で1回しかないんですね。2年のときに1回。僕、入学したときとにかくうれしくて、アルバイトするとか、購買行くとか、高校生ライフに爆発してたんですよ。廊下走り回ってガラス割っちゃうとか。
そういうのが先生たちの目に余ってたのかわからないですけど、クラス替えのとき、きれいに僕だけ(仲良しだった友だちと)違うクラスに入れられたんですよ。
みんな勉強頑張るぞ、みたいなクラスで。だからもう、事故、みたいな。僕もう、一人で泣いちゃって。
高2になった瞬間は本当、刑務所。昼休みが仲良かった友だちとの面会時間、みたいな。つまんなかったですね。その中でも女の子の友だちは何人か見つけましたけど、たまにサボるようになりました。

原宿が見せてくれた別世界
――どこでサボっていたんですか
原宿とか遊びに出かけてましたね。僕、洋服がその当時大好きだったんです。それこそ、「HR」っていう高校生向けのファッション雑誌が昔あったんですけど、雑誌に出てる子たちが原宿で遊んでるとか、洋服好きな子同士で集まってるっていうことに、すごくうらやましさ、ジェラシーがあって、僕もそういうところで友だちと出会いたいと思って。
友だちはTwitterで見つけてましたね。待ち合わせして、初めましてでみんなで遊んだりとか。行きつけのお店の店員さんに、別に買い物は行かないんで超迷惑な客ですけど、しゃべりに行くとか。部活みたいな感じでした。ものすごく楽しかったですね。
――今までにはない感覚だったんですね
クラス以外の世界を見つけた、みたいな。学校が自分の見ているすべての世界じゃなくて、自分の好きな趣味とかのところに行ったら、またそこに違う人間がいて、違う価値観とかいろんな人に会えて、そこだけが自分の世界じゃないんだっていうことに気付くきっかけになりましたね。

社会人になると、仕事とか、好きなこととか、自由とか、見る世界がいっぱい広がるじゃないですか。だから、いろんなことに自分をエスケープさせることは簡単だと思うんですけど、やっぱり学生時代って学校と家と部活くらいしかないから、結局、「今だめだから、自分は一生だめなんだ」っていう一生分の定規をばーんってやっちゃうと思うんです。僕も実際、そうだったので。
でも趣味に逃げたときに、そのコミュニティーの人たちと知り合う中で、こういう世界があるんだって気付けて。モチベーション上げられました。
居場所とは……
――「居場所」というものをkemioさんなりに定義すると、どういうものになりますか
居場所って思わない場所じゃないですかね。
それを居場所って自分でマーク付けしないところ。そう思います。
例えば、今仲良くしてくれる友だちのことを、ウチの居場所とかって考えたことなかったので。今言われて思ったんですけど。だから、地元って感じです。人間の地元。ヒューマンタウンですね。

一人で落ち込む時間も大事
――kemioさん、ものすごくポジティブな印象があるんですが、落ち込んだりすることもあるんですか
あります全然。超落ち込みます。(生活拠点の)アメリカにいるとき、落ち込むことが多いですね。一人の時間が多いので。でも、大事だなって思います。そういう時間って。
落ち込むときはとことん落ち込むようにしてます。
集団とかにいるときって楽というか、楽しかったりしますけど、やっぱり一人になって落ち込む時間って、自分を見つめ直して自分の新たな発見ができるので。だから今はけっこう忙しいときでも、一人になる時間は作ろうとしてます。ぼーっと歩いたりとか、山に行ったりとか。
――でも、一人で悩みごとを抱え込みすぎてもだめなんですよね
次から次へ来るので、時間がないんですよね、私たち。工場みたいな感じで、次から次に出荷しないと。
なんだろう、全部に全部、百発百のエネルギーを注いでいたら、絶対自分がくしゃくしゃになっちゃうと思うので。微妙な感覚なんですけど、これはいいやとか、これはちゃんと向き合うべきだなっていうのは、自分の中でうまくやっていかないと潰れちゃうなって思うようにはなりました。適当に聞き流すものもあった方がいいと思います。

鼻クソだった2カ月前の悩み
――あれもこれも、常に100%のイメージがありましたが
全然。結構投げ飛ばすこともありますね。
昔、嫌だったこととか悲しかったことをノートに書いていたんですよ。で、それを数カ月後に振り返ったときに、今は違うことで悩んでるなって気づいて。
こんな鼻クソみたいなことで、2カ月前、時間使ってたんだ。だったら今ここに書いた、書こうとしている悩みは、また2カ月後には違うことになってて、鼻クソに感じてるって思うようになったんですよ。
悩みごとのそういうきっかけって、人に言われただけじゃわかんないと思うんです。ある日、自分の中できっかけが見つかったら、それでなにか変わると思います。

自分が一番、自分の味方でいてほしい
――今つらい思いを抱えている10代へ、kemioさんからメッセージをお願いできますか
もし今、つらい状況にいたり、なにかすごく悲しかったり、そういう毎日があるんだったら、自分の人生何歳まで生きるかわかんないけど、全部毎日そういうことじゃないよっていうことは知っておいてほしいですね。
僕が思っていたのは、乗り越えるとかじゃなくて、通過してるだけ。いつかはきっと、それが変わるときが来るわけで。
そういうことを自分にしてくる人は負け組だ!って思ってほしいし、自分に当てられる一つ一つのワードの攻撃で、自分を劣っていると思わないでほしいですね。やっぱり、自分が自分の味方でいてほしいです、一番。
なんか、強いと思います。そこの現状で踏ん張れているだけで、もう将来大人になったとき、たぶん瓦とか割れると思います。それぐらい本当、極端ですけど、強いと思います。
だから自分を褒めてあげるというか、自分にクレジット(称賛)をあげてください。それがすべての世界じゃないです。大丈夫。


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