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連載

#9 #父親のモヤモヤ

社内で異例の長期育休、葛藤と自己嫌悪 後輩は「引き継ぎ量」に驚き

育休取得の体験を話す川合修平さん
育休取得の体験を話す川合修平さん

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
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「育休を取得したら会社から嫌がらせを受けた」――。こうした主張で会社を訴えるケースが相次ぎ、父親の育休が注目を集めています。では、実際に取得した社員の思いは? 周囲の受け止めは? 30~50代の男性社員3人を座談会に招いて聞きました。司会は、朝日新聞の武田耕太記者(44)。自身も「6カ月の育児休業をとったものの、復職後は休み前の働き方に戻ってしまった」というモヤモヤを抱えています。(構成、朝日新聞記者・高橋健次郎)

座談会に参加したサッポロビールの社員。左から、江見陽介さん、川合修平さん、伊藤裕介さん=東京都渋谷区
座談会に参加したサッポロビールの社員。左から、江見陽介さん、川合修平さん、伊藤裕介さん=東京都渋谷区

消去法で育休、上司が「ぜひとも」

取材に協力してくれたのは、サッポロビールの男性社員3人。同社は男性社員が8割。多様な働き方ができる組織づくり中で、「#父親のモヤモヤ」取材班にアプローチがありました。

座談会に参加したのは、男性では「異例」の長さという2カ月の育休から復職した、課長代理の川合修平さん(34)、同じく課長代理の江見陽介さん(30)、部長の伊藤裕介さん(50)。職場は異なりますが、みなさん営業職です。

川合修平さん(34)
営業の課長代理。2男2女。妻は専業主婦。先日、2カ月の育休から復帰した。バスケットボールが趣味。帰宅時間を考えると、2次会は苦手。

 

伊藤裕介さん(50)
営業の部長。高校2年の息子はテニスに打ち込んでいる。妻は専業主婦。缶チューハイ好き。

 

江見陽介さん(30)
営業の課長代理。2年前に結婚。趣味の野球を続けている。
 

 

武田耕太記者(44)
長女(2)の誕生にあわせて6カ月の育児休業を取得も、復職後は休み前の働き方に戻ってしまった経験などから「#父親のモヤモヤ」取材班に参加。

daisan 川合さんは、営業という仕事で2カ月の育休取得をしたそうですね。きっかけは?
 
daisan 専業主婦の妻と、4人の子どもがいます。私も妻も北海道出身。一番上の子どもが小学校に通っていたので、今までのように里帰り出産は難しいとなり、消去法で育休が浮かびました。

上司に相談したら、「ぜひとも」となって取得を決めました。妻と話して、「2カ月で十分」ということで、その期間休みました。
上司にも背中を押され、2カ月の育休を決めたという川合さん
上司にも背中を押され、2カ月の育休を決めたという川合さん

17年前、育休はみじんも浮かばず

daisan 50代で部長の伊藤さん。育休のイメージはいかがですか。
 
daisan 専業主婦の妻と高校2年の息子がいます。管理職としては、きちんと休め、復職後も働ける環境づくりしていくことが重要と思っています。

ただ、育休というと女性のイメージが強い。男性の育休と聞き、ピンときていないところも、正直に言うとあります。
daisan ご自身のお子さんの時は?
 
daisan 育休という考えは、みじんも浮かびませんでした(苦笑)。子どもが生まれたのは17年前でした。「男は外で働いて、妻は家庭で子どもを育て」みたいなイメージもありました。

ただ、転勤を重ね、子どもを育てていく中で、家族が互いに協力しないと子どもを育てられないと痛感し、会社全体で子育てをフォローしていくことが大切だと思うようになりました。
「会社全体で子育てのフォローが大切だと思うようになった」と語る伊藤さん
「会社全体で子育てのフォローが大切だと思うようになった」と語る伊藤さん

育休前の引き継ぎ量に後輩驚き

daisan 3人の中では、一番お若い江見さんは?
 
daisan 2年前に結婚しました。子どもはいませんが、育休を取ること自体には違和感はありません。使ってみたい制度です。

ただ、実際取ることを想像すると大変な面があると思います。引き継ぎをどうしたらよいのか不安に思うこともあります。
daisan 私は1カ月かけて、得意先にアナウンスしました。社内では、「この得意先は○○さん」のように、代理を立てました。
daisan 引き継ぎ資料を見せてもらったんですが、結構細かくて全部で1人でやったのか……と(笑)。
daisan 周囲に負担をかけて申し訳ないという思いはありました。
育休に関して、「仕事の引き継ぎ」に不安があるという江見さん
育休に関して、「仕事の引き継ぎ」に不安があるという江見さん

葛藤と自己嫌悪、2カ月の育休

daisan 実際に育休を取得していかがでしたか。
 
daisan 子どもたちの生活リズムができていたので、出だしは順調でした。ただ、妻と新生児が退院してから生活がガラッと変わりました。

頻繁に夜泣きして、2、3時間置きにミルクを作る。3日間くらいでしんどいなと思ってしまって。ずっと里帰りだったので、あまり経験していなかったのです。一方、子どもたちは「お父さん、お父さん、お父さん!」と遊びをせがんでくる。1カ月経つ頃には、家を出たいと思うくらいでした(笑)。

仕事をしている方がラクだとも思いました。ただ、妻は365日、こうしたことをして、これからもやっていくんだと思うと、「これくらいやらないと」という気持ちになりました。
daisan 残りの1カ月はどう過ごされた?
 
daisan うつうつと過ごしました。忙しくて、妻にイライラした感情をぶつけてしまったこともあります。それで、トイレにこもって、「あの態度はよくなかったな」と思うわけです。何のための育休なんだと。葛藤と自己嫌悪です。そういった時は、妻に謝りました。あと2週間で会社に戻るとなって、気持ちが上向いてきたんです。
daisan 育休後の働き方は変わりましたか。
 
daisan スケジュールのメリハリは意識するようになりました。基本的に、金曜日は早く帰ろうと意識しています。その方が休日にダメージが残りません。
座談会で、育休の体験を話す川合さん(中央)
座談会で、育休の体験を話す川合さん(中央)

安心して育休取るには

daisan 川合さんの話を聞いてみて、いかがですか。
 
daisan やはり妻はしんどいのだから、育休をとって手伝いたいなと思います。不安なのは、得意先と築いた信頼関係が崩れてしまわないか、ということですね。フォローを任された方も、「メイン」ではなくて、「サブ」になるわけですしね。「守り」の営業になってしまわないかと。
daisan 安心して育休を取ってもらうため、例えばシニアのスタッフがピンチヒッター専門として、育休中の方のフォローに入るとか、そうした環境があれば、組織として安定すると思います。

プラスアルファで業務を頼むと「サブ」担当ですが、フォロー専門ならば「メイン」です。任せる方も、得意先との関係が維持できるかという心配はなくなるのではないでしょうか。
座談会に参加したサッポロビールの社員。左から、江見陽介さん、川合修平さん、伊藤裕介さん=東京都渋谷区
座談会に参加したサッポロビールの社員。左から、江見陽介さん、川合修平さん、伊藤裕介さん=東京都渋谷区

座談会を終えて

男性で育休を取得する人は少しずつ増えていますが、まだ少数派です。育休を経験した男性社員というロールモデルは少なく、本人も職場も探り探りで育休に入る。「#父親のモヤモヤ」の取材を通し、そんなケースが多いと実感しています。

サッポロビールでも、2カ月の育休をとった男性は「異例」の長さ。補充の人材はあてがわず、チームのなかで川合さんがもっていた担当分をカバーする態勢をとったそうです。

こうした経験が職場で共有され、「前例」が積み重なっていくことで、男性が育休をとることが自然になっていけばいいなと思います。

「働き方改革」という言葉が広まる一方、社会全体で考えれば、長時間労働をいとわず、自分を犠牲にして組織に尽くすことを美徳する文化や、「育児は母親がするもの」という考え方は、まだ根強くあります。私自身、こうした考え方に無意識のうちに縛られていたことが、育休からの復職後、仕事中心の生活に戻ってしまった原因だったと自覚しています。

希望する男性が育休を取得でき、育児にもっとかかわりたいと考える男性がその望みをかなえられるためには、職場のとりくみだけでなく、社会に根強く残る、ひいて言えば、私たちの心のなかに眠る、伝統的な家族観や仕事観を変えていく必要がありそうです。

帰省にまつわるモヤモヤ 募集します

記事の感想のほか、帰省した夫の実家でのモヤモヤや、父子での帰省にまつわる体験を募ります。連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。

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