連載
#7 教えて!マニアさん
「10年後に朽ちるものを…」博物館の「中の人」描いた漫画がエモい
常に未来に期待して、後世に収蔵品を託していく仕事なのです
「博物ふぇすてぃばる!」の開催は今年で6回目。7月20日(土)から2日間、科学技術館(東京都千代田区)で開催されました。
会場では、雑貨やアクセサリーなどをつくる作家・クリエイターや、普段から専門で研究している研究者たちが、それぞれのオリジナルグッズを販売しました。学問とものづくりやエンタメを組み合わせた内容であることが出展の条件となっています。
趣味でつくった「打製石器」、「前方後円墳」型のクッション、羊毛フエルトでつくった深海生物、素粒子と加速器実験をモチーフにしたスマホケース……。ここでしか出合えないような個性的でニッチな商品を扱う、約370ブースが並びました。
会場を歩いていると「ただいま収蔵品整理中!」「今日もおっかなびっくり作業中」……そんな文字が並ぶブースが目に入りました。
初めて知る人もいるかもしれませんが、「資料整理」とは博物館や美術館などの収蔵品を管理し、保存していくための処理をおこなう仕事です。鷹取さんは、郷土資料館で資料整理の仕事を約9年間続けており、その経験をもとに、資料整理の仕事内容や裏話をわかりやすく4コマ漫画にして発信しています。
作品で紹介されているのは例えば、錆びてしまった鎌の修繕方法です。このまま放置してはいずれ朽ちてしまうため、錆(さび)を落として椿油で処理します。こういった処理の意味合いを、作中の学芸員は「10年後に朽ちるものを100年後に延ばす」と解説します。というのも、現在の技術では錆を完全にとめることはできないためです。……だんだんロマンを感じてきました。
そもそも椿油を使用するのは、「さまざまな鉱物が含まれる工業用の油と異なり、原料がわかっているからです」と鷹取さん。それも、「この先の未来に今よりも良い保存方法が確立した際に、適切に油を取り除くことができるようにするためです」。
常に未来に期待して、後世に収蔵品を託していく仕事……! 私の中の"ロマンゲージ"が、欽ちゃんの仮装大賞のように加算され、ついには見事なファンファーレ。気付くとそのまま帰宅した後、売り切れていた冊子をネットで購入していました。
#博物ふぇすてぃばる で販売する #4コマ漫画 「#ただいま収蔵品整理中」シリーズのサンプルを7月19日(金)まで少しずつUPします。
— 鷹取ゆう【ティア J15a】 (@yu_001oh) July 10, 2019
知られざる #郷土資料館 での貴重な収蔵品(資料)の調査・整理を描いた作品です。作業内容は実際のものに限りなく近いです。#博物ふぇす #学芸員 #創作漫画 #博物館 pic.twitter.com/tfZ6TKaXTm
しかし、こんなに濃厚な情報、4コマ漫画に落とし込めるの?と不安になった方もいるかもしれません。でも、安心してください、注釈がめちゃくちゃあります。多いときは1コマずつ注釈があります。
サクッと知りたい人は漫画、じっくり知りたい人は注釈と一緒に読めばより味わえるなんて、親切設計すぎる……!
鷹取さんは大学時代、考古学を学び、学芸員の資格も持っています。大学卒業後は漫画家を目指し、出版社に作品を持ち込む日々を過ごしていました。そんななか、大学時代の知人から誘われたのが資料整理のアルバイトだったといいます。
そんな仕事の日常を漫画に描くと、周囲の人が面白がってくれたそうです。それから「難しいと思われるものをわかりやすく、面白く伝えたい」と、漫画を発信してきました。資料整理の経験や、考古学の知識を持っていることが強みとなり、今では博物館などからイラストや漫画の仕事の依頼もあるそうです。まさに鷹取さんにしかできない仕事です。
遠慮がちな様子ですが、業界の需要も読むしたたかさもあるのでは……。しかし、資料整理の仕事のおすすめポイントを聞いてみると、まっすぐな目で「ガラスの展示ケースの中にある資料を、普通にさわれます」。そうだ、この方は、純粋に博物館が好きなんだ……!
昨日知らなかった世界に出合えるのが、「博物ふぇすてぃばる!」。博物館の中の人にも思いを馳せれるなんて思いもしませんでした。足を踏み入れてみると、少し人生が豊かになる。「博物ふぇすてぃばる!」の真骨頂がここにありました。
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