連載
#3 漫画「アルスラン戦記」
静寂のプレースタイル「まるでピアノ」格ゲー界騒然の新人、勝利の道
「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」あの名言の裏側
国内の治安の悪さゆえに、世界に挑戦するためのビザがとれなかったアルスラン。パキスタン国内で強豪たちに試合を申し込み、修行を積んできた。国内大会で40回近く優勝すると、ついにスポンサーがついた。これにより海外ビザを申請でき、国際大会への切符を手に入れた。
しかし、開催地の日本へ向かうも、飛行機の乗り継ぎトラブルが相次ぐ。丸3日移動に費やし、日本に着いたのは大会当日の午前10時だった……。
睡眠不足を抱えながらも、挑んだ初めての国際大会。アルスランは非常に落ち着いていた。
試合の様子はインターネット上で生中継され、ラホールのゲームセンターで仲間30人以上が見守る中、有名選手を次々に破っていった。
特に注目を浴びたのが、そのプレースタイルだ。
コントローラーには、左手側にキャラクターを前後左右に動かすためのレバー、右手側にはパンチやキックを繰り出すためボタンがある。
通常、この右手でボタンを正確に押せるかが鍵となる。ボタンを押し間違えないよう、指の腹でパンパンと強く押したくなるところだが、アルスランは指をほとんど動かさない。
代わりに指を立て、ピアノでも弾くように優しくトントンとボタンを押す。手首を1センチほど上下させるだけで、指は固定されている。
左手のレバーも、動きこそ小刻みで素早いが、軽く握る程度で腕に力みはない。肩を張らず、背筋を伸ばし、目線がぶれない。プレー中は、まばたきさえも極端に減る。
対戦者たちがボタンを叩く音が響く中、背筋を伸ばし無音で戦うアルスランは異様だ。
このプレースタイルは誰かに教わったものではない。アルスランが自分で編み出したものだ。
相手よりも早くパンチやキックを繰り出すには、相手よりも早くボタンを押す必要がある。早くボタンを押すには、指をボタンに出来るだけ近づけておいた方が有利ーー。
アルスランはそう考え、この合理性をフォームに落とし込んだ。しかし、慣れない姿勢に、ものにするのには数カ月かかった。訓練の甲斐もあり、反射的にボタンを押せるこのフォームはアルスランの武器となった。
無名のパキスタン出身の青年が勝ち続けるなど、誰が予想しただろうか。アルスランの番狂わせに観衆は熱狂した。
得意の防御でダメージを抑えつつ、隙を見て連続攻撃を繰り出す、新顔らしからぬ戦いぶり。中継者は「素晴らしいガードです!」と絶叫した。
決勝戦の相手となったのは、フィリピン最強プレーヤー。しかし、アルスランは圧倒的な強さで優勝の座を射止めた。
勝利がわかるとアルスランは右拳を握りしめ、立ち上がった。観衆たちも大きな歓声で、いま誕生したばかりの王者をたたえた。
国際大会の優勝に至るには、たくさんの人の支えがあった。勝利のために祈ってくれた家族、お金がないアルスランをゲームセンターに誘い入れてくれた店主、スポンサーになり国際大会への扉を開いてくれた企業……。そして、アルスランを強くしたのはーー。
「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」
マイクを向けられたアルスランは、そう答えていた。
アルスランの快進撃に、世界中の鉄拳プレイヤーが目を疑った。彼の実力を確かめようと、さまざまな人が立ち上がる。日本では、彼を招待し連日対戦するイベントが企画された。
待ち受けるのは、「鉄拳マシン」とも呼ばれた世界最強レベルの韓国人プレイヤー。しかし、アルスランの前に再び困難が立ちはだかる……!
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