連載
#2 漫画「アルスラン戦記」
強豪ひしめくパキスタンの格ゲー界「でも、世界で戦えない」その理由
「ラホールの強心臓」「コンボの魔術師」「青シャツの神童」……多彩なライバルたち
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#2 漫画「アルスラン戦記」
「ラホールの強心臓」「コンボの魔術師」「青シャツの神童」……多彩なライバルたち
withnewsマンガ部
共同編集記者2019年2月、福岡で行われた対戦格闘ゲームの世界大会で優勝したのは、無名のパキスタン人の青年。しかし、それよりも彼が注目されたのは、優勝後のコメントだった。「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」ーー。
彼の名は、アルスラン・アッシュ。パキスタン第2の都市、ラホール出身の23歳。格ゲーに出合ったのは、12歳のとき。鮮やかな画面に引き込まれゲームを始めると、すぐに成績がついてきた。人並み外れた反射神経、それがアルスランの才能だと気付く。
アルスランの家には、ゲーム機もパソコンもなかった。唯一の練習の場になったのが、ゲームセンターだった。
ラホール市内には、いくつものゲームセンターがあった。毎日、放課後にゲームセンターを回り、プレーヤーたちと勝負の日々。通常は5~6時間ほど対戦、試合の前になると8時間練習に費やした。
さらに、アルスランの強さの秘訣は「旅」にあった。
国内の様々な都市を旅して回った。目的地は、やはりゲームセンター。相手が強かろうが、ビギナーだろうが、片っ端から地元の鉄拳プレーヤーに試合を申し込んだ。
その理由は、初対戦の相手のあらゆる動きに反応できるようになるため。むしろビギナーの方が、見たことのないような動きをしたり、奇策に出てきたりする。
その動きに対応し、より多くのプレーヤーを知ることで、技のレパートリーを広げてきた。
どれだけ強くなろうとも、常に新しいことを学べる環境を追い求めるーー。アルスランの勝負への姿勢は、簡単に真似できるものではなかった。
そんなアルスランと熾烈な戦いをしてきたのが、あの発言にもあった「強い選手」たちなのだ。
ゲームセンターによく現れるのは、「グル」と呼ばれる宗教指導者。ラホールは文化の中心地、いわば個性を受け入れる街だ。宗教的にも多彩で、思想家も多く生まれている。アルスランたちはさまざまな人々に見守られながら、切磋琢磨し、高みを目指してきた。
しかし、アルスランにも悩みがあった。それはかさむ出費だ。
ゲーム代は、3ゲーム先取で10ルピー(約8円)。ゲーム代は安いとは言え、練習量は尋常ではない。ゲーム代は負けた方が払うルールで、強くなるほど出費は減ったが、旅費もかかりそれまでのツケはたまっていた。
のちに優勝賞金を得て最初にしたのは、ゲームセンターを回り、借金を返済することだった。それでも、店主たちはアルスランを招き入れ、練習を見守ってくれていた。
アルスランたちが目指すのは、やはり世界の頂点だ。国際大会に出場し、優勝すること。しかし、彼らに大きな壁が立ちはだかっていた。
それは、海外のビザだ。治安が安定しないパキスタン。その国民には、スポンサーや一定額の預金があることをビザの申請条件とする国が、いまも多い。アルスランにとって、スポンサーが頼みの綱だ。
地方大会も含め、国内の大会で40回近く優勝を重ねた2018年。ついにスポンサーがついた。世界への扉がアルスランの前に開かれたのだ。
2019年2月、アルスランにとって初めての国際大会。その舞台は、日本・福岡県。著名なプレーヤーが一堂に会する世界最大級の祭典だ。
しかし、日本に向かうアルスランを困難が襲う。飛行機の乗り継ぎトラブルが相次いだ。パキスタンから福岡まで丸3日。万全の態勢で臨むつもりが、会場にたどり着いたのは、大会当日の午前10時だった。
睡眠不足を引きずりながらも、有名選手に立ち向かうアルスラン。その勝負の行方はーー。
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