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2019年08月09日

格ゲー界が驚愕!パキスタン青年たちの強さ 残る「もう一つの闘い」


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アルスラン・アッシュ選手(中央)と仲間たち=乗京真知撮影

アルスラン・アッシュ選手(中央)と仲間たち=乗京真知撮影

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 世界中で人気の格闘ゲーム「鉄拳」の国際大会で、昨年までほぼ無名だったパキスタン出身のアルスラン・アッシュ選手が、圧倒的な強さで連勝しています。2月に福岡で開かれた「EVO Japan」に続いて、8月には米ラスベガスの「EVO」でも、並みいる強豪を倒して優勝しました。安定しない治安や経済状況から、世界で戦うことが難しいパキスタン国民。アルスラン選手の活躍に、パキスタンの男の子たちは勇気づけられました。彼の強さの秘密を記事で紹介した後、多くの反響が寄せられましたが、そのうち最も多かったのは、格ゲーとは無関係の、ある鋭すぎる質問でした。(朝日新聞アジア総局員・乗京真知)

アルスラン戦記



彗星のように現れた青年、世界で戦えなかった理由

優勝したアルスラン・アッシュ選手(下段中央)=EVO Japanの公式ツイッターから

優勝したアルスラン・アッシュ選手(下段中央)=EVO Japanの公式ツイッターから

 アルスラン選手は、パキスタン東部ラホールの一般家庭に生まれた、少し恥ずかしがり屋の若者です。優勝した後も偉ぶらず、履き古したジーパンとサンダルで、仲間たちとゲーセンに集っています。気さくで飾らないアルスラン選手の活躍は、海外進出をあきらめかけていた仲間たちに、再び翼を広げる勇気を与えました。

なじみのゲームセンターに集まり、談笑するアルスラン選手(中央)。聖地巡礼のために刈り上げた髪形を、仲間たちがなで回していた=乗京真知撮影

なじみのゲームセンターに集まり、談笑するアルスラン選手(中央)。聖地巡礼のために刈り上げた髪形を、仲間たちがなで回していた=乗京真知撮影

 パキスタンの若者が海外に行くことは、容易ではありません。レンガ工場で汗だくで働いても、日当は500円程度です。稼ぎを自分のためだけに使えるわけでもありません。今日明日の食材や、両親の薬代、たくさんいる兄弟の養育費への貢献を求められます。何万円もする航空券を買うのに、いったい何年かかるのか。気が遠くなりそうです。

 お金の問題だけではありません。たとえ貯金がたまっても、肝心のビザがもらえません。過激な思想に染まっているのではないか。渡航後に雲隠れして不法滞在するのではないか。そんな疑いの目を向けられています。

 疑いを晴らすためには、十分な貯金があることや、渡航先に身元保証人がいることを、証明しなければなりません。それができなければ、申請段階で門前払いされてしまいます。

 根っこにあるのは、治安の問題です。テロは減っていますが、油断はできません。治安の悪い一部地域では連日、爆発や襲撃が起きています。今年5月8日には、アルスラン選手が暮らす東部ラホールでも、大きな爆発がありました。地元テレビは、爆発で黒こげになった車や負傷者を運ぶ救急隊の様子を伝えました。

パキスタン東部ラホールで5月8日朝、爆発があり、治安部隊が現場に駆けつけた=地元住民提供

パキスタン東部ラホールで5月8日朝、爆発があり、治安部隊が現場に駆けつけた=地元住民提供

 こんな状況でも、アルスラン選手はひたすら練習し、スポンサーを探し、身ひとつで海外に飛び込みました。借金を重ねながら、自ら道を切り開いた苦悩の日々は、朝日新聞デジタルの記事「ゲームで借金苦に…突然世界一、パキスタン人が語る秘話」で詳しく紹介しました。

 ニッポン放送やTBSラジオの番組で記事が取り上げられ、電話出演でパキスタンの今を紹介する機会を得ました。急浮上したパキスタンの話に、実業家の堀江貴文氏は「すげーことになってるな。リクルーティングの場になりそうだ」とツイート。5月上旬にはアルスラン選手が来日し、大阪市で日韓の強豪と対戦するイベントが開かれました。

 7月下旬には、日本で活躍する鉄拳プレーヤーの黒黒さんやチクリンさんがラホールに乗り込みました。現地の若者たちと対戦し、その様子を中継する「逆・道場破り」ともいえる試みに注目が集まりました。また日本の大手ゲーム制作会社は、パキスタンの強豪選手を目玉に国際親善試合を開けないか検討を始めています。

パキスタンに乗り込んで地元の選手たちと交流試合をしたチクリンさん(左下)=黒黒さんのツイッターから

パキスタンに乗り込んで地元の選手たちと交流試合をしたチクリンさん(左下)=黒黒さんのツイッターから

アルスラン選手(右)と交流を深める黒黒さん=黒黒さんのツイッターから

アルスラン選手(右)と交流を深める黒黒さん=黒黒さんのツイッターから

「でも、女の子は?」この国の現実

 いくつか記事を配信する中で、読者の方々から寄せられたメッセージのうち、最も多かったのは次のような質問でした。

 「男の子は楽しそう。でも、女の子は何をしているの?」

 鋭い質問でした。たしかに私の記事の中には、女性が登場しません。たくさん紹介した写真の中にも、女性は写っていません。

 パキスタンの若者の話と言いながら、男性を紹介するばかりで、女性の話には触れていない。読者の方々が、そんな疑問を抱くのは、当然のことでした。

 痛いところを突かれた、と思いました。それは、私にとっての痛みというより、パキスタンにとっての痛みでした。この国の急所を、ずばりと射抜く質問だったからです。

家畜をさばいて食べる犠牲際の様子。年に1度のお祭りだが、外で騒いでいるのは大半が男性で、女性たちは屋内で待っていることが多い=乗京真知撮影

家畜をさばいて食べる犠牲際の様子。年に1度のお祭りだが、外で騒いでいるのは大半が男性で、女性たちは屋内で待っていることが多い=乗京真知撮影

小さな扉の奥に隠された女性たち

 パキスタンでは、女性が外出する機会は、男性に比べて極端に少ない傾向があります。

 たとえば、中部ゴジュラ出身の男性運転手(38)は、妻に対して普段から「必要なとき以外は家から出ないように」「近所づきあいも控えるように」と言い聞かせているそうです。外国人を乗せることが多い彼は開明的なところがあり、女性を蔑視する発想はほとんどのぞかせませんが、村では女性の外出を良しとしない風潮があり、その習わしに従っているのだと言います。治安が安定しない土地で女性を守るための知恵でもあるというのが、村の男性たちの論理です。

 取材で田舎の家を訪ね歩くことがありますが、その際に客人の応対をするのは、家長である夫がほとんどです。妻は多くの場合、顔を見せません。

 一番驚いたのは、保守的な北西部の民家に入ったときのことでした。居間に通されて家庭料理をごちそうになったのですが、壁には小さな隠し扉があって、そこから料理が差し出されてきました。扉の奥には炊事場があって、どうやら女性が料理を差し出してくれているようなのですが、お礼をしようにも姿が見えません。料理を差し出す手さえも見えないような、扉の設計なのです。よそ者は、妻や娘の名前はおろか、その人数さえも聞かない方がいい、とのことでした。

 都市部の家や付き合いが長い家の場合は、言葉を交わすことはできるようになりますが、それでも女性はあまり表に出てきません。

付き合いが長ければ、写真を撮ることも許されるが、無断でカメラを向けることは御法度だ。携帯電話の普及に伴い、写真撮影に抵抗のない女性が増えてきているが、それでも顔を正面から撮られることを嫌う人は多い=乗京真知撮影

付き合いが長ければ、写真を撮ることも許されるが、無断でカメラを向けることは御法度だ。携帯電話の普及に伴い、写真撮影に抵抗のない女性が増えてきているが、それでも顔を正面から撮られることを嫌う人は多い=乗京真知撮影

 都市部では昼間、若い女性だけで食事をしたり、散歩をしたりしている人たちを、それなりに見ます。

 ただ、日が落ちてから女性だけで出歩くことは、あまりありません。首都イスラマバードのベッドタウンに家を持つ50代の知人男性は、娘の夜間外出を許していません。友達の誕生日であっても、音楽の鑑賞であっても、女性だけで行かせることはないそうです。理由を尋ねると、男性に乱暴されるケースが絶えないからだ、と言いました。確かに事件は多いので、彼の言うことに理がないとは言えません。

 私は、こう問いかけてみました。女性を守る建前で女性の行動を縛るよりも、男性の乱暴を止める方が先なのではないか。このままだと、男性が乱暴すればするほど、男性の立場が強くなる、気味の悪い社会になりはしないかと。彼は「理解はできるが、現実は違う。いつの時代も、どこにでも、無法者はいるものだ」と言いました。

 男の子たちが夜な夜なゲームの腕を競い合っているとき、女の子たちの多くは、家で子守をしたり、家事の手伝いをして過ごしていました。

女の子たちは屋内で過ごすことが多い=乗京真知撮影

女の子たちは屋内で過ごすことが多い=乗京真知撮影

教育力の底上げ、日本が協力 アニメやコスプレも人気

 パキスタンの人口は、世界6位の2億777万人です。このうち約6割を、25歳以下の若者が占めています。

 伸び盛りの国が、その力を存分に生かすには、人口の半分を占める女性の力を借りない手はありません。

 15~24歳の識字率は、男性で約80%、女性は66%まで上がってきました。識字率の向上に貢献してきたのは、日本です。国際協力機構(JICA)が1997年から専門家を派遣して、教育力の底上げを図ってきました。パキスタン出身のノーベル平和賞受賞者マララさんは、女の子の教育機会を奪わないでほしいと訴えてます。

 また、携帯電話やインターネットの普及も、女性たちの可能性を広げています。少し余裕のある家庭では、パソコンが買える時代になりました。フェイスブックで友達とつながっているほか、海外の映画やファッションなどにも通じています。言葉の壁はあるものの、アニメやコスプレのファンも増え、愛好家が集うイベントが開催されるようになってきました。

 最近では生け花や書道なども注目されています。パキスタンの若者が日本のコンテンツで、再び世界を「すげー」とうならせる日は、そう遠くないかもしれません。パキスタンが真の魅力を発揮するのは、まだまだこれからです。

たくましいパキスタンの子供たち=乗京真知撮影

たくましいパキスタンの子供たち=乗京真知撮影

 8月4日、アルスラン・アッシュ選手は、今年2月の「EVO JAPAN」に続き、アメリカ・ラスベガスで行われた世界大会「EVO」でも優勝しました。昨年までほぼ無名だったにもかかわらず、入れ替わりの激しい格ゲー界で極めて難しいとされる連覇を達成しました。詳しくは、朝日新聞デジタルの記事「格闘ゲーム、強すぎるパキスタン新星 国際大会2冠達成」をご覧ください。

出典:EVO公式アカウントのツイート


アルスラン戦記

   ◇

「アルスラン戦記」は今回で終わりです。原作:リアル記事、作画:漫画家のいぬパパさん。漫画家のSNSを運営するコミチ協力でお送りしました。ありがとうございました。

《アルスラン戦記》格ゲー界騒然!無名のパキスタン青年、栄光への道
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