連載
#6 #父親のモヤモヤ
育児を率先 妻のキャリア、後押しのつもりが…求められる「大黒柱」
仕事と家庭とのやりくりからくるいら立ちを妻にぶつけてしまった。自らを「仕事優先」という「男らしさ」で縛りながら、思うように働けないとイライラしているのではないか――。そんな記者(38)の体験談を配信したところ、多くの反響を頂きました。目立った反響の一つが、「女性も男性に、経済力という『男らしさ』を求めているのではないか」というもの。「やはり妻や社会が『男らしさ』を求めている。『大黒柱』にならざるを得ないのか」。そう思うまでの事情とは?
「女性が男性をみる視点にも、家庭を支えるのが『男らしさ』という感覚が残っているのではないでしょうか。女性側にも『自立』が求められるのでは。そう思う自分はマッチョですか」
そんな、いくぶん刺激的な感想を寄せてくれた30代の男性会社員に都内で取材をしました。「マッチョ」という雰囲気とはほど遠く、丁寧に、静かに語る方でした。
金融機関に勤める同い年の妻、保育園に通う長女(4)と3人暮らし。勤務時間に融通のきく男性が、朝の送りを週5回担当し、夜も週3日ほど迎えに行き、食事の準備や入浴、寝かしつけなどを担当しています。
迎えのない日も19時すぎには帰宅。寝かしつけている最中に「寝落ち」しがちな妻を起こさず、残りの洗い物もすませているそうです。妻の繁忙期には、男性がほぼすべての家事や育児を担うこともあります。
率先して関わっている印象です。なぜでしょうか。
尋ねると、男性は「妻がキャリアを築いていけるように。そんな気持ちです」と答えてくれました。
妻はかつて、企業買収などを手がける部署に所属していました。忙しい一方、社内でも「花形」とされる部署で、やりがいを感じているのが伝わってきたそうです。
ところが、出産を機に残業の少ない部署で働くようになったといいます。「出世は望めない」。そんな思いを口にするのも聞いたことがあります。それでも、仕事は好きな様子。できる限り働けるように。かなうならば、踏ん張ってキャリア形成ができるようにと、後押しのつもりもあって積極的に家事や育児に関わってきたそうです。
それでも、妻は度々、「仕事を辞めたい」「(男性が)海外赴任するなら、仕事を辞めてついていく」と口にするそうです。
男性が大手企業から、新たに市場を開拓するスタートアップ企業に転職する際は、「安定していない」と不安がられたそう。
男性は言います。「妻は働くのが好きと言います。ただ、最終的には私が『家計責任』を求められているとも感じます。それならば、辞めるなり、時短勤務にするなどして、もっと私が仕事に専念できる環境を作ってほしい。どこかでそう思ってしまいます」
「出世してもらわないと困る。私は仕事を辞めたい」。関東に住む50代の男性会社員は、結婚前、妻にこう告げられたそうです。出産を機に妻は退職。専業主婦になりました。
不眠に悩み、通院生活が続きます。処方薬を服用して、働き続けています。休職も頭をよぎりますが、ほかに稼ぎ手がいません。「働く気持ちはない?」。すでに高校を卒業した2人の子どもの子育ても一段落しただろうと妻に打診しますが、「働く気はない。実家の父が『女を働かせるとはどういうことだ!』と言う人だし」と取り合ってくれないそうです。
体調管理のため、残業の少ない部署への異動を申し出た時、妻の口から出た言葉は「私もパートに出なきゃいけなくなる」でした。給与が減るからです。体調を崩して休職した先輩夫婦は共働き。安心して治療に専念できたと聞いて、うらやましかったと言います。
男性は、家事を担おうとすると飛んでくる厳しい注文にも頭を悩ませています。洗濯物を干すと、乾き方に影響すると向きを注意され、野菜のゆで時間も「長い」とダメ出しされる。「専業で毎日やっている人と、レベルが違うのは当たり前です。同じレベルを求められたら共同作業は成り立ちません」
男性はこう言います。「女性が経済的に依存するケースがあります。一方で、夫に家事負担を求める風潮もある。大きな矛盾を感じます」
記者は、同い年で共働きの妻と、保育園に通う娘(3)との3人暮らし。家事や育児は分担しています。「早めに退社する時は不安になり、同僚にも申し訳のない気持ちになる」「知見を広げる時間が減り、干上がっていくような感覚がある」。そんな気持ちをつづりました。
識者は父親のモヤモヤを語る時に気をつけなければいけないこととして、二つの「自己欺瞞(ぎまん)」を指摘してくれました。偽りに気づきながら正当化していることがある、というのです。
一つは、女性が家事や育児をし、男性が社会で活躍しやすいよう「お膳立て」をしてもらっているにもかかわらず、成果を上げると、そうしたサポートと切り離して考えがちだということ。もう一つは、「男らしさ」という縄を自分でかけているのに、「妻が」「社会が」と被害者のように振る舞ってしまいがちだということです。
補足すると、識者は、社会が求めているものがあることは認めています。その上で、不平不満にとどめないための語り方を提示してくれました。
ただ、反響には「それでも、妻や社会が求めているのではないか」というものも目立ちました。
妻のキャリア形成を応援して家事や育児を多く担うも度々「辞めたい」と言われたり、体調不良に悩んだり。それぞれの事情がある中で、経済力という「男らしさ」が立ちあらわれてモヤモヤし、感想を寄せてくれたのです。
確かに、社会全体を見れば、違う景色が広がります。男女間には給与格差があり、女性の平均賃金水準は、男性の約7割です。管理職になりづらい、長く勤めにくい。そうした状況が賃金水準を押し下げています。男性に経済力が求められるのは、その結果。そうも言えます。
けれども、もがくなかで発せられた言葉は重く、耳を傾けずにはいられませんでした。働く環境や適正な人事評価を整えることで賃金格差を解消することは、もちろん必要です。一方で、モヤモヤを言語化することで見えてきた「男らしさ」のくびきから脱することも、また求められていると思います。
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