連載
#4 外交の舞台裏
首脳勢ぞろい、足元に貼られた紙……謎の外交儀礼「プロトコル」
6月28~29日に大阪市で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)には、37の国や地域、国際機関の首脳らが参加しました。各国の政府代表団や海外メディアを含めると、関係者は約3万人に上ったといいます。あいさつの順番、集合写真の立ち位置に影響を与える外交儀礼「プロトコル」。ガチンコ外交で垣間見えた舞台裏を振り返ります。(朝日新聞政治部記者・鬼原民幸)
まずは初日の28日の出来事から。安倍晋三首相は午前中、各国首脳を出迎えました。安倍首相は「G20 OSAKA SUMMIT2019」と書かれたパネルの前に立ち、車で次々に到着する首脳と一人ひとり握手を交わしました。その直後には、全員での集合写真を撮影しました。
では、出迎える順番や、集合写真で立ち位置はどう決まるのでしょうか。
外務省によると、外交の場では「プロトコル」と呼ばれる儀礼があります。これはあくまで通例で、絶対に守らなければならないというものではないそうですが、「プロトコル」では、各国首脳の優先順位は、まず国家元首(国王や大統領など)、次に首相、次に国際機関となっているそうです。
安倍首相による出迎えも、基本的には「プロトコル」に従って進める予定でした。ただ、各首脳が宿泊するホテルからの交通事情に加え、同じ時間帯に二国間会談を入れていた首脳などもいて、実際は順不同に近い状態でした。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は6番目に安倍首相と握手。トランプ米大統領は32番目、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席35番目、ロシアのプーチン大統領は最後の37番目でした。
一方、集合写真では「プロトコル」がほぼ守られました。ひな壇の手前から奥にいくにつれて国家元首、首相、国際機関代表の順番に。横の並び方は在任期間が長い首脳から順に中央寄りに立ちました。立ち位置を間違えないよう、足元には国名が書かれた紙が貼られたそうです。
実際の写真を確認してみると、議長を務める安倍首相が中央に立ち、両脇には前回のG20議長国だったアルゼンチンのマクリ大統領と、次回の議長国サウジアラビアのムハンマド皇太子が立っています。前の列にはトランプ氏や習氏、プーチン氏など国家元首の姿があります。ドイツのメルケル首相が最前列にいるのは、在任期間が長いためだそうです。
一方、会場に立てられた国旗の並び順はどうでしょうか。これは、議長国が一番左にあり、次に前回の議長国、次回の議長国の順に並び、残りはアルファベット順。その後に国際機関の旗が続くそうです。
会期中に開かれる会議でも同じです。議長と前回の議長、次回の議長が上座に着席するほかは、アルファベット順に席を決めることが多いそうです。
「プロトコル」は首脳の地位や国名など、外形的な要素である程度決まってきます。一方で、政治的な思惑が絡むのが二国間会談です。
今回のG20サミットで安倍首相は約20の国・地域の首脳らと会談や立ち話をこなしました。つまり、来日したすべての首脳と会談したわけではないのです。
外務省によると、首脳会談は安倍首相の日程を考慮し、G20サミット本体の会議やイベント合間に組み込みます。日本政府が「この人と話した方がいい」と判断すれば、より長い時間を確保して会談することになります。実際、開幕前の27日に開かれた日中首脳会談と夕食会には、約2時間を割いています。日米や日ロ首脳会談も注目されました。
一方で、日韓首脳会談は実現しませんでした。関係が深い韓国との会談をセットしないのは異例のこと。韓国大法院(最高裁)が日本企業に対し、元徴用工らへの損害賠償を命じた判決などで冷え込む日韓関係を象徴した出来事とも言えそうです。
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