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上海でついに「ゴミ強制分別」施行、日本人観光客への「意外な影響」
日本では当たり前に行われている「ゴミの分別」ですが、まだまだ浸透していない国もあります。中国の最大都市・上海では、7月1日から、「上海市生活ゴミ管理条例」が施行され、中国国内で初めて「ゴミ分別」に対する罰則が定められました。中国版ツイッターの微博(weibo)では、「ゴミ分別」が「人気検索ランキング」(熱捜)に入るほど、この条例が話題に。環境意識の高まりを後押しする声とともに、急激な締め付けに戸惑う意見も見られました。ちなみに「ゴミ管理条例」、市民だけでなく観光客にも適用されます。どんな内容が盛り込まれているのでしょうか。
中国ではこれまで、ゴミは基本的に丸ごと捨てるものだと思われていました。
燃えるゴミと燃えないゴミ、さらに有害ゴミを分別せずに、一括で捨てるのが普通でした。
段ボール、新聞紙、ペットボトル、アルミ缶などの金属類は、専門の業者に売れば換金できるので、中国では長い間ゴミでないと考えられました。しかし近年、それらを取っておくことを面倒くさがる人が増え、ゴミ箱に捨てるケースが増えました。大都市では、ゴミ箱からこういう資源ゴミを探し出す「拾荒者」(ウェスト・ピッカー)の人数が少なくありません。
そんな背景から、上海市では十数年ほど前から、ゴミの分別をすすめる試みが始まっていました。しかし、関心の低さからなかなか浸透していませんでした。そこで出てきたのが、罰則も定められた「上海市生活ゴミ管理条例」です。
今回施行された条例は2019年1月31日に、上海市の第15回人民代表大会において可決し、7月1日に実行すると決まったものです。
この条例は、上海市に入った途端、全員が対象になります。つまり、上海に住んでいる人だけでなく、観光客など外国人も遵守するものとなります。
ゴミの分類は、以下の四つです。
「有害ゴミ」:(乾電池、点灯管、薬品、ペンキとその容器など)
「生ゴミ」 :(食材、おかず、ご飯、果物の皮や核、漢方薬を煎じた後のかすなど)
「資源ゴミ」:(紙、プラスチック類、ガラス製品、金属製品など)
「燃えるゴミ」:(上記以外のゴミ)
個人が間違ってゴミを捨ててしまい、さらに是正を拒否する場合、最高で200元(約3400円)の罰金が課されます。もし会社(法人)が分別を行わず、ゴミを捨てたあるいは運送した場合、最高で5万元(約85万円)の罰金が課されます。
では、上海を訪れる観光客はどんなことに気をつければよいのでしょうか。
まず、上海の道端に設置されているゴミ箱は主に「燃えるゴミ」と「資源ゴミ」です。そこに「生ゴミ」「有害ゴミ」を捨ててはいけません。
ゴミの分別に慣れている日本人は、当たり前だと感じるかもしれません。しかし、この条例は観光客のこんなところにも影響があります。
例えば、ホテルのアメニティです。宿泊施設が無料で提供していた使い捨ての歯ブラシ、クシ、スポンジ、ひげ剃り、爪切り、靴拭きなどの備品は、ホテル側が自ら進んで提供できないことになりました。
これは、使い捨ての製品の提供を制限することによって、ゴミとなるものを減らそうという試みです。必要なものは持参するか、ホテルに申し出ることになります。
そして、飲食店でも注意が必要です。飲食サービスの提供者や、飲食配達サービスの提供者も、使い捨てのお箸、スプーンなどの食器を自ら進んで提供できなくなりました。
地元メディアがこの条例を取り上げると、市民の関心は一気に高まりました。上海地元の有力ニュースメディア『澎湃新聞』が伝えた記事は、関連ニュースを含め3.2億以上のPVを記録し、1.9万件を超えるコメントと3.5万件以上の「いいね」を集めました。
中国に住む人たちは、この条例をどう受け止めているでしょうか。SNSなどでは、賛否両論のコメントが集まっています。
「とても良い!全国で広がってほしい」「観光客も例外ではない。環境を保護することはみんなの責任だ」と、環境を守る施策を評価する意見もあれば、「わざわざ面倒なことをするために、上海に行かない方がいい」「もう少し移行期間が必要だ」など、分別の煩わしさや罰則の厳しさに戸惑う声も上がりました。
なぜ上海が今回ゴミ分別を厳しくしたかというと、理由は二つあると考えられます。
まず、上海は中国最大の都市であり、ゴミ大都市でもあります。上海市の人口は2600万人を超え、東京の約2倍。ゴミ処理は喫緊な課題です
中国現地のメディアの報道では、上海市人民代表大会・常務委員会の副主任がこんなデータを紹介しました。
2018年に、上海市が生み出したゴミの量は、毎日2.6万トンで、年間900万トンを超えました。毎日このゴミを運送するために必要な、2.5トンのトラックゴミ収集車は1万台以上。このトラックを並べると、上海市の中心部を一周することになります。
ゴミをより効率的に分別し再利用するために、上海政府としては、強制的なゴミ分別は不可避だとしています。上海市政府も率先して、政府機関内では紙コップなどを一切使用しないことにするといいます。
2つ目は、上海は中国に施策を広めるモデル都市だということです。中国政府の発表によると、2020年末までに、全国46の大都市にゴミ分類とゴミ処理システムを完備させる目標を掲げています。中国全体がゴミの減量、リサイクル利用に力を入れるため、上海がゴミ分別の先駆けになるのです。
今回の上海市で、ゴミ分別が本格的に始まったことで、力を入れているのは教育です。
上海市の小中学校では、ゴミ分別に関連する知識が授業にも取り入れられ、そして中学校の試験にも出題されます。若い世代からゴミ分別を習慣づけるねらいです。
では、大人たちはどうでしょうか。どのゴミをどのように分別すればよいか、罰則があるだけに不安な人も多いようです。
SNSなどでは、分別方法をおもしろく、わかりやすく伝えるためにこんな基準が広がっているそうです。
生ゴミ→豚が食べるもの
燃やすゴミ→豚が食べないもの
有害ゴミ→豚が食べて死んじゃうもの
資源ゴミ→それを売って豚を買えるもの
また、アリババグループ傘下のアリペイアプリは、いち早く「ゴミ分類指南」という機能をリリースしました。分類が分からないゴミの名前を入力したり、ゴミの写真をアップロードしたりすることで、正しい分類がすぐ出るそうです。
他にも、ゴミ分別が分からない人のために、ゴミ捨て代行屋などのサービスも始まるとされています。
上海市の実践をきっかけに、ゴミ分別が徹底されれば、中国の環境美化につながります。地元市民だけでなく、観光客にとっても、過ごしやすい環境になるだけではなく、地球環境にも優しいと考えられます。
今後、上海への旅行を予定している方は、ぜひ罰金やホテル、レストランのサービスの変化に、気を付けてください。
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