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参院選、山本太郎氏「10人擁立」こだわる理由 諸派をめぐる選挙事情

街頭で訴える山本太郎参院議員。参院選に向け新たに立ち上げた「れいわ新選組」をアピールした=5月29日夕、東京都足立区
街頭で訴える山本太郎参院議員。参院選に向け新たに立ち上げた「れいわ新選組」をアピールした=5月29日夕、東京都足立区

目次

「ごめんなさい。なかなか言いづらいんですが、はっきり言った方がいいですね。お金下さい。お金下さい。本当に」。5月29日夜、東京・北千住。政治団体「れいわ新選組」代表の山本太郎さんは街頭演説で、参院選に向けて「お金」を連呼しました。諸派から考える「参院選」。多くの団体が10人にこだわる理由と、近年強まる「日本維新の会」への接近について、考えます。(朝日新聞編集委員・藤田直央)

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「10人は確実に候補者を立てる」

30年ほど前の高校生のころ、民放のバラエティー企画「ダンス甲子園」ではじけていた山本さん。今でも押しの強さは健在です。

参院議員の自分一人で「れいわ」を4月に立ち上げてからまだ1カ月半の当時、寄付は1億3千万円集まっていたそうです。それでも足りないと訴え続け、6月27日の時点で「2億円超」(山本さん)に。こうした寄付を原資に、記者会見で「10人は確実に候補者を立てる」と明言しました。

同じ日、「安楽死制度を考える会」が記者会見で参院選に出すと発表した候補予定者の数も10人でした。代表の佐野秀光さんは必要な「お金」のやりくりについて問われ、「まあいろいろ。私が貸し付けるのもありますし」とふわっと答えました。

朝日新聞では今回の参院選報道で、山本さん一人とはいえ国会議員がいる「れいわ」は「主要政党」、国会議員がいない「安楽死」は他の団体とひとくくりで「諸派」として扱います。とはいえ両団体とも「お金」への不安が尽きない中で、いきなり10人もの擁立をめざすのです。どうしてでしょう?

「安楽死制度を考える会」が今回の参院選に臨むと表明した記者会見。多くのメディアが詰めかけ、公認する立候補予定者の資料が配られた=2019年6月27日、東京・蒲田。藤田撮影
「安楽死制度を考える会」が今回の参院選に臨むと表明した記者会見。多くのメディアが詰めかけ、公認する立候補予定者の資料が配られた=2019年6月27日、東京・蒲田。藤田撮影

「比例区1人、選挙区9人」で3300万円

まず「お金」への不安ですが、政党交付金をもらえないことが大きいのです。税金を使い、各党の国会議員数などに応じて配分するこの制度は、政党中心の政治と献金による腐敗防止をめざし1995年に導入。国会議員が計5人以上か、直近の国政選挙で全体の2%以上の得票が必要で、2018年は最も少額の自由党でも2億6900万円をもらいましたが、できたばかりの「れいわ」や「安楽死」には無理な話です。

そんな苦しい懐事情で、なぜ今回の参院選でいきなり10人も候補者を出すのか。それはこういうことなのです。

国政選挙に挑むならできるだけ広く訴えたい→コスパが一番いいのは全国を一つの選挙区とみなして団体同士で競う参院選比例区への立候補→政党交付金をもらえない小さな団体なら10人以上立てるしかないと公職選挙法で決まっている。

立候補には一定の得票がないと没収される供託金が必要です。売名などよこしまな考えの立候補を防ごうと設けられたハードルですが、参院選ではやはり1995年から金額が5割増しになり、小さな団体により厳しくなりました。衆院選と同様、比例区で一人600万円、選挙区(都道府県別)で一人300万円かかります。

比例区に出るのに必要な10人には選挙区の候補も計算に入れていいので、「比例区1人、選挙区9人」として、選挙区を人口の多い東京や大阪などにすればコスパはばっちり。実際「諸派」ではこうした擁立の形が多いのですが、それでも供託金だけで最低3300万円。しかも政党交付金がもらえないとくれば活動資金の不利は歴然で、「れいわ」の山本さんも落ち着かないというわけです。

参院選に向け街頭で演説をする立候補予定者=2019年6月27日夜、名古屋市東区
参院選に向け街頭で演説をする立候補予定者=2019年6月27日夜、名古屋市東区 出典: 朝日新聞

大きな勢力へのすり寄り

小さな団体が国政で活路を開きにくい今の選挙制度にあって、今回の参院選では、大阪を拠点とする「日本維新の会」に地方色の強い政党が接近する動きが目立ちます。

維新は2018年には13億円を超える政党交付金を受けており、各メディアの扱いも「主要政党」。別の地域政党がその軒先を借りることで、国政では「諸派」になる不利を克服しようというわけです。

北海道が拠点の「新党大地」代表の鈴木宗男・元衆院議員は6月、維新公認で参院選比例区に出ると表明。大地は鈴木さんが2017年に出た前回衆院選の比例北海道ブロックでも議席を取れていませんでした。自民党当時は閣僚も務めた鈴木さんも71歳で、「最後の選挙」を維新に賭(か)けたのです。

維新といえば、鈴木さんのライフワークの北方領土問題をめぐり丸山穂高衆院議員が「戦争」発言で除名になったばかりですが、鈴木さんは「丸山さん個人の話」と割り切ります。

2017年10月、衆院選比例北海道ブロックで議席を取れないことが確定し、笑顔で支持者を見送る新党大地の鈴木宗男代表=札幌市中央区
2017年10月、衆院選比例北海道ブロックで議席を取れないことが確定し、笑顔で支持者を見送る新党大地の鈴木宗男代表=札幌市中央区 出典: 朝日新聞

名古屋圏を基盤とする「減税日本」は、参院選愛知選挙区に立てる候補を維新との「共同公認」にすると発表。代表で元衆院議員の河村たかし市長は「自民党の増税政治を打ち破るのは減税と維新」と述べ、新党結成への意欲もにじませました。

ただ、国政では「諸派」の減税と「主要政党」の維新の関係は対等でありえず、名古屋では「新党を作れば大阪の維新に吸収されるだけ」と冷ややかな見方もあります。

小さな団体が大きな勢力にすり寄らないと生き残れないような選挙制度は、多様な意見と議論から合意を探る民主主義を歪めかねません。そうはなるまいと踏ん張る政治家が街頭で「お金、お金」と言わざるをえないのも世知辛い話です。

「諸派」がますます追い込まれたようにみえる昨今、今回の参院選でその苦境と奮闘、そして結果がどうなるかをしっかり見つめておくことは、日本の政治の将来を考える上で大切なことではないでしょうか。

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