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お金と仕事

子育ては「最強の市場創造」 サイボウズ青野社長が学んだこと

「子育ては市場創造」と話した青野さん=瀬戸口翼撮影
「子育ては市場創造」と話した青野さん=瀬戸口翼撮影

目次

「家事や育児を全くしていない男性管理職が多数を占めている会社に負ける気がしない」。育休を3回とったサイボウズの青野慶久社長は「偉そうだけど本音です」と話します。5月、都内であったイベントで、青野さんが語った子育て論。「子育ては最強の市場創造」と語る、育児から学んだこととは?

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イベントは5月31日、withnewsでの連載をまとめた『平成家族』(朝日新聞出版)の出版を記念して開かれました。
連載「平成家族」では、多様な生き方や働き方が広がる中で、昭和の価値観と平成の生き方のギャップに悩む人びとを紹介してきました。
経営者として発信し、育休を3回とって、選択的夫婦別姓の訴訟原告としても活動する青野さん。会場には、「令和」の多様な家族のあり方や働き方を考えようと、様々な問題意識をもった参加者が集まり、フロアから活発な質問もありました。テーマごとに3回に分けて報告します。
【テーマ①「働き方」はこちら】「強制転勤」今も許される理由は?
【テーマ②「選択的夫婦別姓」はこちら】「無関心は当たり前」でも…

社長が16時に「じゃ!お迎えいきます」

――3児の父親でもある青野さん。育休を3回とったそうですね。

最初はとるつもりもなかったんですが、日本で初めて育児休暇をとった首長である成沢広修・文京区長の勧めもあって、結局3回、育児休暇をとりました。

長女が生まれたときは、妻から「私が赤ちゃんをみる。休まなくていいから、長男・次男をみていて」とリクエストがあったので、毎日16時に退社して保育園に迎えにいきました。

16時になると社長が「じゃ、お迎えにいきます!」とダッシュで出ていく

これをやると、会社の雰囲気が変わります。これまで「お迎えがあるので…」と申し訳なさそうに帰っていた社員が「あれでいいんだ」と変わります。

男性の育休取得も当たり前になって、とらない方が珍しくなりました。
育休をとって「会社の雰囲気が変わった」と話す青野さん=瀬戸口翼撮影
育休をとって「会社の雰囲気が変わった」と話す青野さん=瀬戸口翼撮影
――育休をとってよかったことはありましたか?

学びもいっぱいありましたね。育児の大変さ、24時間365日、休みなし。しかも命がかかっているので責任が重いです。「1人に押しつける仕事じゃない」と思いました。

しかもある日、子どもをみていて「20年経ったら、こいつも大人になるな。働きもするし、モノも買う。僕の子だったら、サイボウズ製品を買う可能性が結構高い……こいつ、客や!」と気づきました(笑)。

子育てって「市場を創造している」ことなんです。市場がなくなったら商売人は事業をたたまないといけない。育児の優先度が圧倒的に高いと気づきました。

育児・家事しない役員の会社「負ける気しない」

商売人は、社会の課題解決でお金を頂いています。育児は、社会を知る、とってもいいことだと気づきました。これが本当の「社会人」ですよね。
待機児童問題もくらいましたからね。104人待ち。「いつまわってくるんだ?」と思いました。

日経ビジネスのインタビューで「青野さん、育児や家事をやらない管理職ってどう思う?」と聞かれて、思わず

「家事・育児を全くしていない男性管理職が多数を占めている会社に負ける気がしません」

と言っちゃいました。本音ですけど(笑)
「家事育児をしない管理職の会社には負けない」とキッパリ=瀬戸口翼撮影
「家事育児をしない管理職の会社には負けない」とキッパリ=瀬戸口翼撮影
――仕事に育児に……大変お忙しい中でタイムマネジメントはどうされてるんですか。

やらなくていいことをやってないんですよ。僕の返信メールは、基本、行数が2行です。

みなさんがしている仕事も、そんなに「やらなくてもいいんじゃないか」ってことは削っていったらいい。そうすると、結構減らせると思います。

社長業なので、その権限を委譲しちゃえば他の人ができる。「○○はあとよろしく!」みたいな。情報共有さえしておけば、あとで振り返りができますし。情報共有のベースがあれば、思い切って任せちゃう

会食も行きません。好きな人は行けばいいと思いますけど。

でも、今でもモーレツに働いてますよ。0時過ぎまでグループウェアに書き込んでいるので、社員は嫌だと思いますが(笑)

変わらない学校現場「もっと最適化できる」

――男性の育休の義務化が議論されていますが、どう感じますか?

「ようやくきたか」ですよ。僕が9年前に育休をとってから、男性の育児休暇ブームがくると思ってたのに…。
でも、「義務化」と言わないと重い腰が上がらないというのは残念ですね。これをきっかけに社会が変わればいいなと思います。

――息子さんが小学生になって、学校の「変わらなさ」に驚いたそうですね。

自分が通っていた40年前とほぼ同じ風景なんですよ。先生が黒板にチョークで書き込み、教室には30席の机と椅子があり、同じ方向を向いて、時間割があって、給食配膳があって…。

「ここは何にも変わらなかったんだ!」と衝撃を受けました。

今のテクノロジーをうまく使えば、もっと一人ひとりに最適化できると思います。同じ授業でも、子どもの受け取り方には差がある。一律的なやり方をまだやっていることに驚きました。

プリントがいまだに配られてるんですよ。新学期が始まる時にもわら半紙が配られて、「これは先生がかわいそうだな」と思いました。
「学校現場も一人ひとりに最適化できる」と話します=瀬戸口翼撮影
「学校現場も一人ひとりに最適化できる」と話します=瀬戸口翼撮影
――連載「平成家族」の記事には多様な働き方、家族のあり方が登場します。日本が多様な社会になっていくにはどうしたらいいのでしょうか?

まず、多様(ダイバーシティ)ということですが、日本はすでにもう多様なんです

きょう集まってる皆さんも、めちゃ多様。生まれたところ、名前、育ってきた環境、好きな野球チームも違う。人間って多様にできている。

それをカテゴライズして、「男」「女」「○○人」「世代」とか言っちゃうから、一様に見えているだけ。

「すでに多様なんだ」ということ、そのベースから始まっていると考えましょう。

さらに、その人らしく生きられるように選択肢を増やしていく事が大事なんです。

新しい技術・制度・仕組みを使えば、選択肢が増えていきます。さらに自分に合ったモノを選べるようになる。人間はそうやって発展してきましたよね。

50年前は、食べる料理も限定されていましたよ。「ごはん」か「パン」か、みたいな。今はたくさん選べるようになっています。

新しい技術をいかしながら、仕組み進化させながら、自分らしく暮らせるように、適用させていく。

世の中はすでに多様であって、それを認めていくだけなんじゃないかなと思います。

「困りごと」に声をあげていく

多様な家族の「いま」を紹介してきた連載「平成家族」でしたが、青野さんの「世の中が多様であることを認めて、その人らしく生きられるように選択肢を増やしていく事が大事」という指摘が印象的でした。

この「選択肢を増やす」というのは、働き方や育児、選択的夫婦別姓や同性婚……さまざまな社会課題に当てはまることだと感じました。

できるだけ多くの人が生きやすい社会にするため、それぞれの困りごとについて声を上げていく大切さを感じたトークイベントでした。

【お知らせ】「平成家族」が本になりました

 夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。

 朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。

 税抜き1400円。全国の書店などで購入可能です。

『平成家族』~理想と現実の挟間で揺れる人たち~(朝日新聞出版)

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