IT・科学
「社会科=暗記」世代の悲しみ……AIで写真カラー化、チリジョブーム
暗記というイメージの強い「社会科」ですが、ITや異分野とのコラボによって生まれ変わりつつあります。AIを駆使したモノクロ写真のカラー化によってよみがえる「記憶の解凍」。代ゼミのカリスマ講師は、経済と地理を合体させて6万部のベストセラーを生み出しました。レキジョならぬチリジョ(地理女子)という言葉まで。そんな今時の「社会科」を、平成のレトロ文化に詳しい山下メロさんに解説してもらいました。
まず、紹介したいのは、スマホで体験できるデジタルアーカイブです。
東京大学大学院教授の渡邉英徳さんが手がけた「ヒロシマ・アーカイブ」には、デジタル地図にマッピングされた原爆にまつわる体験談や動画を見ることができます。地元の高校生が被爆者を訪ね、どこで被爆したかも地図で確認したものです。顔写真を添えて一人ずつ一点ずつ、デジタルアーカイブとして公開しています。
AIによる写真のカラー化にも取り組んでいます。原爆が落とされる以前に撮った古い写真が残っていれば、その場でAI技術を用いたアプリでカラー化し、スマホ画面で見られます。
「こんな色でしたか?」と色補正を重ねていくうちに、突然、忘れていたはずの記憶が鮮やかによみがえる、そんな効果を期待しています。
私、山下メロは、全国の観光地で「ファンシー絵みやげ」を「保護」する活動を続けています。1980年代・1990年代の「記憶のとびら」を探す旅です。当時のグッズが「記憶のとびら」を開くカギとなり、その「とびら」を開けることで過去の自分と、自分をとりまく社会と向き合うことができるのです。これは渡邉先生と高校生が手がける「記憶の解凍」にも通じるのではないか……などと思ってしまいました。
ちなみに私は広島で生まれて平和教育を受けました。土産店に売られていた修学旅行生向けの商品にも、やはり観光名所として原爆ドームをモチーフにしたイラストが使われていました。ファンシーなカップルとともに描かれる原爆ドームは、その世界観に合わせてスッキリしていたり、または世界観を無視して、正確に伝えるためにリアルに描かれていたりと、戦争遺構の扱い方に対する「悩み」といったものが見えてくるのです。
終戦から時を経るにつれて、どのように扱い方が変化していったのかというのは現代にまで連綿と続いています。それぞれの時代を考察し、並べていくと見えてくるものがあるかもしれません。
お茶の水女子大学准教授の長谷川直子さんは、レキジョならぬチリジョ(地理女子)ブームを盛り上げた一人として、街歩きやグルメを通じて「地理」の魅力を世の中に発信しています。「地理」が専門外の教員でも、生徒に興味をもってもらえるような授業のためのヒントを伝えています。
なぜ専門外の先生が地理を教えることに? 実は、2022年から高校の「地理」が必履修科目になります。「地理」は約30年間ずっと選択科目でした。その間にすっかり手薄となった「地理」の先生の穴を埋めるため、「歴史」の先生が「地理」の授業をかけ持ちしなくてはならず、地理の先生需要が高まっているのです。
専門でない先生が掛け持ちをする……つまり「地理」が苦手で嫌々教えるくらいの立場の先生のほうが、同じく苦手な生徒と同じ目線で授業ができるのかもしれません。私は学生時代「地理」がきらいでした。いきなり白地図や地形図を渡されて、地図記号や等高線を書け、読めと言われても、地図に記された場所には行ったことがないので、単なる作業に過ぎません。それでは興味を持てないのだから、面白いはずがない。「地理」を教えることになる「歴史」の先生も、おそらくそんな印象のままという方もいるでしょう。
だったら、答えを一方的に押し付けるのではなく、あーだ、こーだと皆で言い合って、答えを一つ一つ見つけていく。で、1年たったら見事完走していて「地理っておもしろかったな」と。――そんな授業だったら受けたかったなあと思っています。
代々木ゼミナール講師でコラムニストの宮路秀作さんは、『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)で日本地理学会賞を受賞した、異色の経歴の持ち主です。
他にも『中学校の地理が1冊でしっかりわかる本』『高校地理をひとつひとつわかりやすく。』『目からウロコの なるほど地理講義』などなど。宮路先生にかかると、受験をとっくに終えている私まで、そんな気にさせられます。
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