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お金と仕事

「残業代」ちゃんと確認してる? サラリーマンを守る「仕事と法律」

連休明けの5月7日朝、会社に向かう会社員たち
連休明けの5月7日朝、会社に向かう会社員たち

目次

 新入社員の研修期間も終わり、会社に向かう足が重く感じられている人も多い季節です。でも、その働き方、法律的に問題ないのでしょうか?「仕事が遅いから会社に残るのは残業にならない」「日曜でも新人研修は出勤扱い」。伊澤文平弁護士は「泣き寝入りせずに相談を」と訴えます。自分のせいにする前にチェックしておくべきポイントを、実際に起きたニュースを交えながら解説します。

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仕事が遅いから残って作業……は残業?

違法残業2802事業所、是正勧告
厚生労働省は、過労死の労災請求などがあった全国8494事業所を対象に昨年11月に実施した集中取り締まりで、33%に当たる2802事業所で違法な残業が見つかったとして是正を勧告したと発表した。このうち868事業所で月100時間超の残業をしていた労働者がいた。=2019年4月26日朝日新聞から

 初めて経験する仕事に慣れず、残業が続いているかもしれません。しかし、その残業は適法でしょうか。

 そもそも「残業」とは、定められた労働時間外に会社の指示によって働くことです。課せられた仕事を、締め切りまでに処理することが難しく、自らの判断で残業する場合も、労働時間に当たります。下記の場合も残業です。

 ・早朝出勤など定時前の業務開始
 ・仕事の持ち帰り
 ・タイムカードを強制的に押させた後に仕事をする

 ただし、自主的な調べ物や、業務命令ではなく個人的なデスクの掃除などで残っている場合は、労働時間には当たりません。

 残業が続いているのに「新入社員は会社に貢献していないから残業代は支払われない」と言って、会社側が残業代を支払わないケースもあります。しかし、新入社員であっても、会社側は残業代を支払う必要があります。労働者と会社側で労働契約が結ばれている以上、労働基準法は適用されるからです。給料が出たら、明細を見て、残業代がきちんと支払われているかチェックしてください。

 残業代は、残業時間×1時間あたりの基礎賃金(時給)×割増率です。

 労働基準法では1日8時間、1週40時間時間以上働かせることはできません。しかし、時間外、休日労働に関する協定届「36協定」(労働基準法36条に基づく労使協定のこと)を結んだ場合、その合意の時間数の範囲内で残業させることができます。36協定が締結されていなければ、残業をさせることはできません。

 また、36協定では、一般労働者の場合、残業時間は、1週間で15時間、1ヶ月で45時間、1年で360時間が上限となっています。しかし「特別条項」が設けられている場合は、この上限を超えて時間外労働をしてもらうことが可能になります。その場合でも上限は「年720時間以内」にすることが改正法で定められています。

 就業規則や雇用契約書などで、36協定が締結されているか確認し、結ばれていれば、自分の会社における残業時間の上限を調べましょう。

 個人の裁量で労働時間を決められる「裁量労働制」の場合、基本的に残業代は支払われません。このほかにも、「変則労働時間制」がとられているかなど特殊な労働条件かどうか確認する必要もあります。

残業上限規制への対応は四苦八苦

残業時間の罰則つき上限規制は、大企業には2019年4月から適用される。残業時間の上限を「年720時間以内」「繁忙月の上限を100時間未満」とするなど、事実上青天井になっている残業時間に初めて法的な強制力がある規制が設けられる。規制強化を先取りして残業削減を進める企業がある一方、対応が遅れている企業も少なくない。

 朝日新聞は昨年、各地の労働局に情報公開請求するなどして、日経平均株価を構成する東京証券取引所1部上場225社の労使が結んだ残業時間の上限を定める協定(36協定)のうち、最も長い協定時間を調べた。その結果、昨年7月時点で少なくとも41社が規制の対象となる「月100時間以上」の協定を結んでいた。=2018年7月4日朝日新聞から

情報公開請求で開示された「36協定届」
情報公開請求で開示された「36協定届」

②休日出勤に手当がついているか

スバル、残業未払い7.7億円 過労自殺から判明
自動車大手スバルが2015年から17年にかけて、社員3421人に計7億7千万円の残業代を払っていなかったことが、24日わかった。16年に男性社員が過労自殺しし、その後の社内調査で昨年1月までに判明した。スバルはこれまで1年間にわたり問題を公表しておらず、企業姿勢が問われる事態だ。=2019年1月24日朝日新聞から

 休日とは、労働者の労働義務がない日を言います。その日に業務命令によって働くことは「休日出勤」となり、手当が支払われます。「新人研修」の名のもとに、休日に出勤しなければならない場合も、「休日出勤」に当たります。

 まず、休日には2種類あります。

・法定休日…労働基準法で定められた休日。「週に1日以上、もしくは4週に4日以上」
・所定休日…法定休日以外に、会社側が自由に決める休日

 それぞれで支払われる賃金は以下の通りです。

・法定休日に労働した場合…35%以上の割増賃金
・所定休日に労働した場合…25%の割増賃金。ただし、割増賃金が発生するのは、「1日8時間、1週間40時間」という法定時間を超えた労働に対してのみ

 多くの会社が週休2日制を導入していますが、その場合は、1日が法定休日、1日が所定休日となります。しかし法定休日を「どの日」と定めていない会社もあります。もし、休日出勤した場合、最初の休日労働は「時間外労働」(所定休日に労働)扱いで、2日目の休日出勤が「法定休日労働」となります。

 休日出勤した場合、「代休」をとることができます。注意したいのが、「代休」と「振替休日」は別物であるということです。

・代休…休日出勤の代わりに、その日以降の本来の労働日を事後に休日にすること。「休日に出勤させた」という事実に変わりはないので、休日出勤の手当てが支払われます。
振替休日…本来休日であった日を事前に出勤日として、その代わりに出勤予定の日を事前に休日にすること。休日手当は発生しません。
キーボードの上を走る指
キーボードの上を走る指

③上司からの教育かパワハラか

ノジマ社長、社内ネットで実名挙げ「使い物にならない」
家電量販店ノジマ(横浜市、東証1部)の野島広司社長(68)が、子会社の社員の実名を挙げて「使い物にならない」などと責めた文書が子会社のイントラネットに昨年8月に掲載されたことがわかった。この社員は昨年末に退社した。ノジマは「社員教育の一環」とするが、専門家は、国が企業に防止策を義務づける方針のパワーハラスメント(パワハラ)にあたると指摘している。=2019年3月14日朝日新聞から

 仕事において、「人間関係」も重要な要素の一つです。ただし、上司の厳しさが、理不尽なものであったり、自分にだけ向けられていたりする場合、「パワハラ」に当たる可能性もあります。厚生労働省では、パワハラを以下のように定義しています。

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
厚生労働省

 厚生労働省の「あかるい職場応援団」のウェブサイトでは、どんな行為がパワハラに当たるか診断することもできます。

【関連リンク】あかるい職場応援団

④辞めたあとの収入があるか

 では実際に、仕事を辞めるとなったとき、経済的に困ることがないように、以下の点に注意してください。

退職金…入社1年目で退職すると、退職金は出ない、または出てもごくわずかですので、期待はできません。また、そもそも「退職金」という制度がない場合もあります。勤務先の制度はどうなっているか、確認をしてみましょう。

失業保険…失業保険給付の基本的な条件は「雇用保険に加入していて、1年以上雇用保険料を支払っていること」です。自己都合で退職した場合、働いていた期間が1年未満だと失業保険給付が受けられません。

⑤住民税の徴収は

 会社員においては、住民税は給料から天引きされて納めている人がほとんどです。転職先が決まっていない状態で退職した場合は、自分で納める必要のある「普通徴収」となります。

 6月に自治体から住民税納税の通知が届きます。普通徴収では、1年分を一括して納付する方法と、4分割して徴収する方法のどちらかを選ぶことができます。

 住民税は、前年の1月から12月の給与収入から控除(給与職控除、生命保険料、医療費控除など)を差し引いた課税所得の10%が目安です。

 注意したいのが、前年の給与収入をもとにする、という点です。無職となり、収入がない場合も、多額の住民税を支払わなければならないことに注意してください。

⑥健康保険の支払いは

 日本は「国民皆保険制度」をとっているので、なんらかの医療保険にはいらなければなりません。会社勤めをしていた場合は、社会保険への加入が会社によって行われ、給与から差し引かれています。会社を辞めて無職になった場合、健康保険の支払いに関しては、以下の3つの手段をとることができます。

国民健康保険に加入…自営業者や無職の人などが対象。前年の収入や加入する世帯数に応じて、各自治体の独自の計算式で決まります。独身で、1年以内の就業が難しく、退職前の給与が低い場合にメリットが多くなります。退職の翌日から14日以内に手続きが必要です。

任意継続被保険者制度…退職した会社で継続して健康保険に加入できる制度のこと。退職前の会社で2か月以上、継続して勤務していれば加入が可能です。最大2年間、加入することができますが、保険料の支払額は2年間変わりません。滞納に厳しく、保険料を滞納すると即時に資格が失われます。また、一度選択すると、国民健康保険や家族の扶養に入るなどの理由で変更することができません。扶養する家族がいる場合や退職時の給与が高い場合メリットになります。退職の翌日から20日以内に手続きが可能です。

配偶者または親の被扶養者になる…年収130万円未満の場合、加入が可能です。

つらいときに相談できる窓口

 仕事がつらいと感じたり、会社の労働環境に疑問を持ったりした場合、一人で悩まずに、誰かに相談することをおすすめします。相談できる窓口を紹介します。

 厚生労働省の総合労働相談コーナーは全国に設置されており、賃金に関することやパワハラなど、あらゆる分野の労働問題に助言をします。希望する場合は、都道府県労働委員会や法テラスなどの紛争解決機関の情報提供もしてくれます。予約は不要で無料です。

【関連リンク】厚生労働省の総合労働相談コーナーのガイド


 労働基準監督署は労働基準法に基づいて会社を監督する行政機関です。賃金の未払いや、違法な長時間労働など「労働基準法違反」の可能性があるトラブルの相談に向いています。労働基準法に基づいたアドバイスをするほか、悪質な場合は、会社に立ち入り調査などを行います。

【関連リンク】労働基準監督署の案内


 メール相談は、「労働基準関係情報メール窓口」からできます。

【関連リンク】労働基準関係情報メール窓口


 労働組合の全国中央組織「日本労働組合総連合会」(連合)はパワハラや就業規則に関すること、退職手続きなど労働に関する相談を受け付けています。0120-154-052にかけると、近くの地方連合会につながります。インターネットでの相談も受け付けています。

【関連リンク】連合の労働相談インターネットメール受付


 働く人の「こころの耳電話相談」(厚生労働省)は仕事の悩みや人間関係の悩みなどの相談ができます。電話番号:0120-565-455 受付時間:月・火曜17時~22時まで、土・日曜10時~16時まで。働く人の「こころの耳メール相談」は、メールで相談ができます。

【関連リンク】働く人の「こころの耳メール相談」

「おかしなことがあれば、専門家に相談を」

 実際には、相談をためらい、つらい思いをしながら、心身共にぎりぎりになるまで働いている人も少なくありません。

伊澤弁護士は次のように話しています。

「私たちが運営している集団訴訟プラットフォームenjinでも、パワハラやサービス残業など、職場のトラブルに関する問い合わせが多く届いています。

しかし実際には、

『職場と争うのが怖い』
『退職時に守秘義務契約を結ばされている』

……などといった理由から、泣き寝入りを選んでしまう方がほとんど。

しかし、職場が明らかな法律違反をしているような場合などは、たとえ守秘義務契約などを結ばされていた場合であっても、弁護士等への相談や公的機関への通報をして構いません。

明らかにおかしなことがあった場合は、労働基準監督署や最寄りの弁護士などの専門家に相談してみてください」

 
 
  「#リーガルQ」
オンライン上で自分の受けた被害を登録して仲間を集め、弁護士などを見つけることのできる集団訴訟プラットフォームサービス「enjin」との共同企画です。生活の中で直面するさまざまなトラブルに、どう対処していけばよいのか…法律をベースに、わかりやすく・詳細に解説します。
 

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