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連載

#34 夜廻り猫

もう会うことはなくても、好きだ 1人の祝杯 夜廻り猫が描くエール

目次

 20年前、隣の席だったクラスメートのお弁当を今でも覚えているという女性が、「今日はうれしいことがあった」と話します。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「エール」を描きました。

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20年前のクラスメートのお弁当 今でも真似して

心の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵。きょうは街を夜廻り中に「うれしい涙の匂い」に気づきました。

女性が「今日はうれしいことがあったからワイン飲む。付き合う?」と言います。

高校時代に隣の席だったクラスメートのきみえちゃんが、フェアトレードの実業家として活躍しているニュースが載っていたのです。

きみえちゃんのお弁当は、いつも白米と1品だけのおかずがセット。「いつもおいしそう」と眺めていた女性は、今でもよくマネして「きみえ丼」をつくります。

記事を読んで、実は高校時代もバイトで自活し、8年遅れて大学に入学したと知りました。

女性は「もう会うことはなくても、好きだ」「あなたがもっと成功するよう、私は応援する」とつぶやきます。

遠藤は「知らないところで 誰かが誰かを愛している」とほほえみながら、ふたたび夜廻りに向かうのでした。

隣の席の子の「推理小説」 自分を支える宝物に

作者の深谷かほるさんは「気づいていない贈り物、宝物ってありますよね」と話します。

深谷さんが中学3年生の時、隣の席の女の子が「小説書いたんだけど、読む?」と声をかけてきたことがあるそうです。

「読む読む!」と見せてもらったのは、原稿用紙30枚の推理小説。結末までちゃんとできていて、深谷さんは「何よりも、1人で、誰にも言わず誰に見せるつもりもなく、結末まで書き通したことに感動した」と言います。

「『体内に、自分の文化があるんだな』と。今も、なにかで心細くなった時は、『彼女は15歳で、結末まで書いた』ことを思い出すと元気が出ます」

誰しも、そんな人との出会いや思い出に支えられているのかもしれません。

深谷さんの隣の席の子は、高校には進学せず、遠くの街で就職すると言っていたそうです。

「今、彼女がどうしているかは知らないのですが、あのとき私は、一生持ち続ける宝物をもらったのでした」

【マンガ「夜廻り猫」】
 猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
 泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
 そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
 遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
 ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。

     ◇

深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本5巻(講談社)が4月23日に発売された。

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