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若者ほど「基地」受け入れている!?沖縄と本土、調査から見えたズレ
4月21日にあった衆院沖縄3区の補欠選挙では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対を訴えた屋良朝博氏が当選しました。選挙区には名護市辺野古が含まれ、移設問題が大きな争点となっていました。昨年9月の県知事選、今年2月の県民投票に続いて、辺野古移設反対を政府に突きつけた形です。その一方で、これまでの朝日新聞社の調査からは、基地が集中する沖縄で、若い人ほど現状を受け入れている構造も見えてきました。基地移設に揺れる沖縄のいまに迫ります。(朝日新聞世論調査部・松井夕梨花)
補欠選挙の2カ月前の2月、沖縄では基地移設を巡る県民投票が実施されました。
投票の結果、普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋め立てについて、反対が7割に上ったことが注目されました。
全県の有権者が対象となった県民投票を振り返りながら、反対、賛成、それぞれの投票に込められた意味を、このときの出口調査の結果から分析していきます。
朝日新聞社では2月24日の沖縄県民投票当日に出口調査を実施しました。
出口調査では、埋め立てへの「賛成」が最も多かった自民支持層でも、「賛成」と「反対」が拮抗しました。
公明支持層では「賛成」が30%と他の支持層に比べて多くなりますが、「反対」の55%が上回っています。
この出口調査では、安倍内閣の沖縄の基地問題に対する姿勢についても聞いています。
この質問の結果を支持政党別に見ると、全体と比べて、自民支持層、公明支持層では「評価する」が増えるものの、どちらの層でも「評価しない」が上回っています。
また、県民投票で埋め立てに「賛成」を投じた人では、安倍内閣の姿勢を「評価する」が56%、「評価しない」は40%になりました。
※どのグラフも数字は四捨五入のため、合計が100%にならない場合もある。
※その他・答えないは省略。
県民投票の投票先を年代別に見てみると、どの年代でも「反対」が多いものの、30代以下の若い年代ほど「賛成」と「どちらでもない」が多くなる傾向がありました。
沖縄に在日米軍の基地や施設が集中していることについて尋ねると、どの年代でも「納得できない」という回答が多くなりました。
しかし18~29歳では違いが現れました。「納得できる」が26%と、他の年代と比べても多くなったのです。
次に、普天間飛行場の代替施設の場所はどこが一番望ましいと考えているかを見てみます。全体で見ると、一番多いのは「国外」、次いで「沖縄以外の国内」が全回答の77%を占めました。
県民投票に「賛成」に票を投じた層では「辺野古でよい」と考える人が57%と一番多くなりました。
一方で、「賛成」に票を投じたけれども、辺野古以外の選択肢を選んだ人も、合わせて39%いました。
同じ質問の支持政党別の回答を見てみます。
自民支持層では「辺野古でよい」が「沖縄以外の国内」にほぼ並び、辺野古以外の選択肢を合わせると「辺野古でよい」を上回っています。
朝日新聞社では、2月24日の県民投票に先立って、同月16、17の両日に沖縄県の有権者を対象に県民世論調査を実施しました。また県民世論調査と同じ日には、全国世論調査も行い、県民世論調査と共通の質問を2問用意しました。
普天間飛行場の名護市辺野古への移設について、賛否を2択で尋ねました。
沖縄では「反対」68%が、「賛成」21%を大きく上回りました。
一方、全国では「賛成」34%、「反対」37%と意見が二分しました。「その他・答えない」も29%います。
2つめの質問では、沖縄の米軍基地は日本の安全保障にとって、どの程度必要だと思うか尋ねました。
沖縄では、「大いに」と「ある程度」を合わせて米軍基地が「必要だ」と答えた人が53%、「あまり」と「まったく」を合わせた「必要ではない」は43%でした。
全国では「必要だ」が73%にのぼり、「必要ではない」の24%を大きく上回っています。
沖縄でも、米軍基地は日本の安全に「必要だ」と考える人が「必要ではない」を上回っています。それでも、「必要」と考える層でも、辺野古への移設は「反対」が多くなりました。
※その他・答えないは省略。
何度も普天間飛行場の辺野古移設に「反対」の声を上げている沖縄県ですが、一方で政府は、県民投票の結果にかかわらず、工事を続けており、今後も辺野古移設の再考は選択肢に入れない構えです。
3月に実施した全国電話世論調査では、沖縄の県民投票の結果を受けて、安倍政権は辺野古への移設をどうすべきか尋ねました。「見直すべきだ」が55%となり、「見直す必要はない」の30%を上回っています。
そして、年代別に回答を見てみると、全国の18~29歳では、「見直すべきだ」という声が他の年代と比べて大きくなっています。現状に抵抗感を示すこの結果は、沖縄調査で若い人ほど現状を追認する傾向が見られていたことを考えると、逆の傾向に見えます。
※その他・答えないは省略。
これまでの県民投票や選挙の結果と、出口調査や世論調査を組み合わせることで、見えてくるものがあります。
県民投票の出口調査では、自民支持層でも、公明支持層でも、安倍内閣の基地問題に対する姿勢を「評価しない」と答えた人が「評価する」を上回りました。
県民投票で「賛成」に投じた層では、安倍内閣の姿勢を「評価する」56%、「評価しない」40%でした。
このデータからは、沖縄県内の自民、公明両党の支持層や辺野古移設賛成層にも、沖縄の基地問題に対する政府の姿勢に一定数の不満があることが見て取れます。
全国と沖縄における辺野古移設の「温度差」も浮き彫りになりました。全国と沖縄、どちらの調査でも、米軍基地は日本の安全に「必要だ」と考える人が「必要ではない」を上回っています。
こうした中、沖縄県民で基地を「必要」と考える層でも、辺野古への移設は「反対」が多くなりました。米軍基地の必要性と普天間飛行場の辺野古移設は別物である、という意識の現れではないでしょうか。
政府は、辺野古が普天間飛行場の危険性を除去する唯一の解決策だという姿勢で説明を続けていますが、調査から見える沖縄県民との意識のズレは、簡単に埋まりそうもありません。
特徴的だったのは、沖縄と全国での若年層の意識の違いです。沖縄では、基地が集中する現状を追認する意識が、若年層では他の世代と比べて強いことがわかりました。一方で、全国では、若年層で「辺野古移設を見直すべきだ」と答えた人が他の世代よりも多い傾向が浮かびました。
基地の現状を受け入れる傾向が見える沖縄の若者の背景には何があるのか? 前沖縄県知事だった故翁長雄志さんの次男で、那覇市議の翁長雄治さんに聞きました。
繰り返し沖縄が示す「辺野古移設ノー」に対して、「本土と沖縄との意識の違い」を知る。そこから一歩進んで、沖縄は戦前・戦後とどうやって歩んで来たのか、どうして沖縄に基地があるのかをきちんと考える。
本土と沖縄の意識の違いはなぜ生まれたのか。日本全体で考えはじめる時なのではないでしょうか。
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