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「もっと悩んでいるんだぞ」バイセクシュアル漫画家に向けられた怒り

読者から怒りの反響が届いた過去を語った漫画家のトミムラコタさん=高野真吾撮影
読者から怒りの反響が届いた過去を語った漫画家のトミムラコタさん=高野真吾撮影

目次

 週刊ヤングマガジンに『ギャルと恐竜』を連載中の人気漫画家トミムラコタさん(28)は、バイセクシュアルです。自らの経験を元にしたエッセイコミックを出版したこともあります。そんなトミムラさんに、ある日、同じ性的マイノリティーの当事者から「もっと悩んでいる人もいる」という反響が届いたそうです。(朝日新聞記者・高野真吾)
 

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厳しいコメント並ぶ

 「(お前とは違って)もっと悩んでいる人もいるんだぞ」
 
 「変わった自分アピールですね」

 「このクソレズ(トミムラさんは『バイセクシュアル』なので事実誤認)」

 トミムラさんは2017年~18年、集英社のサイトでエッセイコミック『ぼくたちLGBT』を連載していました。作品は無料で閲覧できた上、匿名で同社に送れるコメント欄もありました。

 連載を続けていた間、集英社の担当者に見せてもらったコメントには、厳しい言葉が並んでいたそうです。

トミムラさんのエッセイコミック『ぼくたちLGBT』
トミムラさんのエッセイコミック『ぼくたちLGBT』

「傷ついたし、ショック」

 トミムラさんは、当時の気持ちを次のように語ります。

 「中学生の時に一時期、バイセクシュアルで悩んだ時期はあります」

 「しかし、(東京・新宿2丁目に)同じ性的マイノリティーが集まる『ゼスト』の集まりを見つけられ、楽になった」

 「ずっと気楽にバイとして生きてきたので、漫画のコメントは傷ついたし、ショックでした」

 集英社の担当者はトミムラさんを気遣い、最初に「いい意見のみ」を読むか、「いい意見も、悪い意見も」読むか、選べるようにしたそうです。

 トミムラさん自身が後者を選択したのですが、「悪い意見」のきつさが予想以上で、「つらい体験」になってしまいました。

トミムラさんは男装をしたこともある=トミムラさん提供
トミムラさんは男装をしたこともある=トミムラさん提供

くすっと笑えるページばかり

 そもそも『ぼくたち~』はどんな作品なのでしょう? 1巻の帯には次にような言葉が並んでいます。

 「99.9%経験談!!実体験エッセイコミック」

 「知って欲しい、LGBTsの色んな恋愛事情!」

 言葉の通りに、バイセクシュアルであるトミムラさんの恋愛経験や、他の性的マイノリティーから打ち明けられた話などを描いています。

 親しみを持ちやすい絵柄と、読みやすく落とし込んだストーリーで、くすっと笑えるページがばかり。LGBTの当事者でなく、知識も限られている読者には、「そうなんだ」という発見もあります。

『ぼくたちLGBT』を紹介するサイト
『ぼくたちLGBT』を紹介するサイト

「あえて明るい部分描く」

 ところが、LGBTの当事者の一部からは、強い反感を持たれました。

 思わぬ反響についてトミムラさんは、以下のように総括します。

 「私のように気楽に生きている性的マイノリティーだけではないのは知っている上で、あえて明るい部分しか描きませんでした」

 「テレビや新聞のような既存メディアで性的マイノリティーを取り上げる時は、どうしても構成的に暗い話になりますよね。例えば、LGBT=全員悩んでいる、みたいに」

 「批判コメントを読んで逆に、私の1作品ぐらい『ふふ~ん』と生きているLGBT当事者を取り上げる意味があると思いました。そして、そのスタンスを継続し、実際に連載に取り組みました」

トミムラさんのツイッター。約7万6千人のフォロワーがいる
トミムラさんのツイッター。約7万6千人のフォロワーがいる

「私の漫画も『あり』」

 スタンスを一貫させたことに意義があったと、トミムラさんは語ります。その思いは10代の読者から届いたコメントでさらに固まります。

 「同性と付き合ったことあるけど、(トミムラさんと同じように大して)悩んだことなかったわー」

 「性的マイノリティーの暗い部分を描くだけでない、私の漫画も『あり』と思えました」

トミムラさんのHP。『ギャルと恐竜』を連載中であることが記されている
トミムラさんのHP。『ギャルと恐竜』を連載中であることが記されている

気になるLGBTへの無意識な差別

 そんなトミムラさんが、今むしろ気にしているのは、性的指向や性自認に疑問を抱えていないヘテロセクシュアル(異性愛者)による、LGBTへの無意識の差別です。

 2017年にフジテレビが「保毛尾田保毛男(ほもおだ ほもお)」なるキャラクターを番組に登場させた時のことです。

 「ホモ」は男性同性愛者に対する蔑称です。かつてのキャラの再登場という形でしたが、フジテレビは多くの抗議を受け、謝罪する事態になりました。LGBTについて多少でも知っている立場からは、フジテレビの謝罪は当然のことでした。

 ところが、トミムラさんの実父は「騒ぎすぎなんじゃないか」とのスタンスでした。

 かつてテレビで使っていた「ホモ」が、いまは使うべきでない言葉になっていたことを知らなかったからです。

「保毛尾田保毛男」に多数の抗議が来たことを受け、フジテレビ公式サイトに掲載された「お詫び」
「保毛尾田保毛男」に多数の抗議が来たことを受け、フジテレビ公式サイトに掲載された「お詫び」 出典: 朝日新聞社

「LGBTフィルター」とは

 また『ぼくたちLGBT』を連載中に、とある友人に「差別するつもりはないけど」の後に、次のように言われたこともあります。

 「同性カップルは見た目が良くないと、認められないよね」

 「コタ、(漫画に登場するような同性愛者たちだけなく)もっと普通の人とあった方がいいんじゃない」

 そんな反応をトミムラさんは「LGBTフィルター」と呼びます。

 「話題の対象がLGBTであると認識すると、『LGBTフィルター』をかけるがために相手への配慮を欠く。正しい知識を得ると同時に、無意識にそうした振る舞いをしていないか、各人が胸に聞いて欲しいです」

『ヤングマガジン』公式サイトにある『ギャルと恐竜』のページ
『ヤングマガジン』公式サイトにある『ギャルと恐竜』のページ

「LGBTにも各人の個ある」

 そして何より、「いわゆるLGBTな人たち」と、ひとくくりにするのは止めて欲しい、と強調します。

 「私が属するバイセクシュアルでも、色々なバイセクシュアルがいます。ヘテロセクシュアルの皆さんが、多様であるのと何ら変わりません」

 「LGBTにも各人の個があり、それぞれ違います。それを知っているだけでも、随分振るまいが違ってきますよ」
 

トミムラさんのロングインタビューが収録されている『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』
トミムラさんのロングインタビューが収録されている『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』

モカさん書籍にロングインタビュー

トミムラコタ 1990年5月生まれ。父親や家族にまつわる漫画をネットで発信し、バイセクシュアルであることをツイッターで公表している。著作に『実録!父さん伝説』(イースト・プレス)や『ぼくたちLGBT』(集英社)など。友人のモカさんの半生を取り上げた4月発売の『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(光文社新書)にもロングインタビューが収録されている。

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