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「ぼっち議員」に学ぶ、多数決に負けない戦略「一人でも変えられる」

「ぼっちは強い」と話す吉川三津子さん。その訳を詳しく聞きました=愛知県愛西市
「ぼっちは強い」と話す吉川三津子さん。その訳を詳しく聞きました=愛知県愛西市

目次

 グループから外れ、ひとりぼっちでいるのは勇気がいります。仲間が欲しくなるものです。それは議会の世界も同じ。議員は選挙では個人で戦いますが、当選すると議会の中で「会派」というグループを作るのが一般的です。議案の採決は多数決。自分の意見を通すためには仲間を見つけないといけません。でも、群がらない「ぼっち議員」が全国の議会にいるのです。一人でやって意味あるんだろうか、結局やりたいことが何もできないまま終わってしまうのでは……。そんな疑問を愛知県の「ぼっち議員」にぶつけると「ぼっちは強い」という答えが。詳しく聞きました。(朝日新聞名古屋報道センター・山下奈緒子)

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愛西市役所。あいさい、と読みます=愛知県愛西市
愛西市役所。あいさい、と読みます=愛知県愛西市

愛知県のぼっち議員に会いにいく

 やってきたのは愛知県愛西市。名古屋市の西、電車で30分ほどのところに位置しています。人口は約6万人。お話を聞いたのは議員歴約15年の吉川三津子市議(64)です。

愛西市の吉川三津子市議に聞きました=愛知県愛西市
愛西市の吉川三津子市議に聞きました=愛知県愛西市

 

山下

いきなり本題ですが、一人でも議員活動はできるんですか

 

吉川さん

できますねー。本当にできるんですよ

吉川さんは断言しました。

 

吉川さん

なぜできるのかと言うと、実際に困ってらっしゃる市民の直接の声と、現場が私にはあるからです。そしてデータ。これがあれば多数決にだって負けません

 

山下

さすがに多数決には勝てないんじゃないですか

 

吉川さん

確かに、最初は多数決の世界で『あきらめなければならないのか』と涙するようなこともありました。実際に私の元にはSOSが届いているのですから

 

吉川さん

じゃあ多数から漏れ落ちた人はほうっておいていいのか。救うのは行政の仕事じゃないか、という怒りがあったんです。この声を届けようと思いました

 

山下

何をしたんですか

 

吉川さん

議案が通るかどうかは多数決ですが、その議案に対して提案・指摘はできます。その後、確実に運用が変わったなと実感できる場面はいくつもあります

 吉川さんが指摘できる舞台として例を挙げたのが「一般質問」です。

一般質問=議員個人が行政の業務内容や課題などについて、市長などに質問できる場。愛西市議会では年4回の定例会で日程が設定される。

 

吉川さん

一般質問でデータで問題点を示すことで、いくらでも1人で行政は変えられます

独自のデータで示して説得力

 データは自分で集めていることも多いそうです。

 ちょうど今やっているのは「ランドセルの体重測定」。小学校登下校時の荷物の重さが問題になっていることを受け、実際に児童クラブなどで子どもたちのランドセルの重さを記録し、データにして問題提起する予定です。

 「現実を独自のデータで集約し、示すことで説得力があるのです」と吉川さんは話します。

吉川さんがいま行っている調査の一つが「ランドセルの体重測定」
吉川さんがいま行っている調査の一つが「ランドセルの体重測定」 出典: 朝日新聞

きっかけは廃棄物問題

 「まったく議員になる気はなかった」という吉川さんが、初めて議会を訪れたのは1997年。合併前の旧立田村の廃棄物問題に関心を持ったことからでした。

 

吉川さん

そうしたら驚いたんです。新聞に載れば行政が動いてくれると信じていたんですが、そうではないと知りました

「あなたが出れば」

 焼却施設の是非に加えて、子どもの教育環境についても議論が十分ではないと感じました。

「誰か議会で発言してくれないかな」

 次第に議員候補を探すようになりました。すると「あなたが出れば」と周りの知人に推されたこともあり、「言いたいことを言おう」と村議選に立候補し当選したのです。

愛西市役所外観=愛知県愛西市
愛西市役所外観=愛知県愛西市

 

山下

選挙戦は基本一人ですよね

 

吉川さん

選挙のやり方は村の選挙委員会事務局に聞きながら進めました。ポスターはカラーコピーでお金を節約して

 

吉川さん

当選してからも、予算書とか議案書とかちんぷんかんぷん。でも徐々にわかってきます。今ではサッと見ればポイントがわかるから大丈夫!

暗黙のルール破り泣いた日

 ここまでに至るには苦労もありました。議会の暗黙のルールを破って非難を浴びたことは一度や二度ではありません。こっそり泣くこともあったそうです。

 

山下

それでも一人でやっていきますか

 

吉川さん

議会に会派があってはならないと思っています。会派の中で集約することで、自分の意見を言えなくなったら意味がないですよね。だから言いにくいことも言っちゃいますよ!

 冒頭にも触れた「会派」は議会の中で一緒に活動するグループ。

 政党ごとに作ることがある一方、同じ保守系無所属でも複数の会派に分かれることは珍しくありません。会派の所属議員の多さで一般質問の時間配分が変わる議会もあります。

 

山下

これからも議員は続けますか

 

吉川さん

やりがいがあるから、気づいたらこんなに続けていました。地方議員だからこそ、市民と密着した活動をしていける。市民活動議員として、これからも汗をかいて働きます

ぼっちだからできることがある

 ぼっちでもできることがある。むしろ、ぼっちだからできるのだと、吉川さんが生き生きと話す姿に勇気をもらいました。

 多数決で物事が決まるのは議会だけではありません。「多数決に負けない戦略」は日常でも使えそうです。

 例えば会社の会議で自分の意見に同調する人が一人もおらず、ぼっちになった時。一人ではどうにもならないと諦めるのではなく、データや生の声を支えにして提案を盛り込むことはできると学びました。

4月21日は統一地方選

 4月21日は統一地方選挙後半戦の投票日です。政令指定都市以外の市や町村、東京都特別区のトップや議員を選びます。

 「ぼっち」でも「多数決に負けない」戦略で活動している議員は他にもいるはずです。市町村の議会では、より身近な政策が議論されます。選挙で候補者すべての政策を細かに知ることは難しいかもしれませんが、これからも「私の声」と思える政策を戦略的に届けてくれる議員を見つけたいです。

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