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#15 平成B面史

覚えてる?世紀末の「V系ブーム」思春期の「病み」に寄り添う世界観

人気ロックグループ「LUNA SEA」のコンサート中の一幕。彼らを筆頭に、平成の思春期世代の青春を、黒く鮮やかに染め上げた「V系」バンドたち。その魅力について振り返ります。
人気ロックグループ「LUNA SEA」のコンサート中の一幕。彼らを筆頭に、平成の思春期世代の青春を、黒く鮮やかに染め上げた「V系」バンドたち。その魅力について振り返ります。 出典: LUNA SEA.Inc提供

目次

 あなたは覚えていますか? 前世紀末、日本全土を巻き込んだ「ビジュアル系(V系)」バンドブームの波を。今で言う「中二病」的な歌詞の楽曲を奏でる、メーク姿の男性たち。ゴールデンタイムの音楽番組にも登場し、熱狂的な支持を集めました。人気の背景には、一体何があったのか? 振り返ってみると、終末論とのつながりや、思春期世代の多感さに寄り添う世界観など、広がりのある景色が見えてきます。中高生時代にハマった3人が集結し、その魅力を熱く語らいました。(withnews編集部・神戸郁人=昭和63年生まれ)

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座談会に集った「闇の住人」たち

藤谷千明さん(ツイッター:@fjtn_c
1981年生まれ。「V系に生きる指針をもらった」と公言し、フリーライターとしてシーンの最前線を追う。共著に『すべての道はV系に通ず』(シンコ―ミュージック)。あるV系アーティストのパリ公演取材で、現地ファンが日本語で黄色い声援を送っているのを目にし、いたく感動した。推しバンドは「LUNA SEA」「黒夢」

 

日西愛さん(ツイッター:@sunwest1
1983年生まれ。BuzzFeed Japan所属のライターで、主に90年代V系アーティストの「バンギャ」(女性のV系ファン)。過去に有名バンドが手がけた約1000曲の歌詞を分析し、どんな「暗黒ワード」が含まれているか明らかにした(記事はこちら)。推しバンドは「SOPHIA」「Janne Da Arc」

 

神戸郁人(ツイッター:@with_kambe
1988年生まれ。withnews記者。中学時代にGACKTの曲を聴き、闇の資質に目覚める。大学生の頃、「ЯiN(リン)」というV系バンドでボーカルを務めていた(解散)。当時のメンバーネームは「零児(れいじ)」。推しバンドは「DIR EN GREY」「MUCC」

「参考用に」と藤谷さんが用意してくれた、大量のV系バンドCDを並べる参加者たち=野口みな子撮影
「参考用に」と藤谷さんが用意してくれた、大量のV系バンドCDを並べる参加者たち=野口みな子撮影

アーティスト写真を切り抜き交換

1999年3月26日、朝日新聞が発行した号外広告。「浪漫号外」「花の化身」といった単語が踊る。当時、人気絶頂だったV系バンド「ラレーヌ」のワンマンライブを告知している。大手マスコミも、しっかりブームに乗っかっていた。
1999年3月26日、朝日新聞が発行した号外広告。「浪漫号外」「花の化身」といった単語が踊る。当時、人気絶頂だったV系バンド「ラレーヌ」のワンマンライブを告知している。大手マスコミも、しっかりブームに乗っかっていた。 出典: 藤谷千明さん提供
daisan お二人は他ならぬV系に、強い思い入れをお持ちだそうですね。何がきっかけで、扉を開いたのでしょう? 
daisan 忘れもしません。1994年7月、中学生の頃。その週の人気曲を紹介する、テレビ番組を見たんです。「LUNA SEA」と「黒夢」の作品がランクインしていました
daisan おお!どちらもシーンの全盛期を引っ張ったバンドですね
「黒夢」のボーカル・清春さん(右)と、ベースの人時さん。ともに岐阜県出身で、「名古屋系」と呼ばれるV系サブジャンルの基礎を築いた。
「黒夢」のボーカル・清春さん(右)と、ベースの人時さん。ともに岐阜県出身で、「名古屋系」と呼ばれるV系サブジャンルの基礎を築いた。 出典: 朝日新聞
daisan 「格好良い男性が、格好良い曲を奏で、格好良いしぐさをしている!」。とても感動し、翌日には妹とCDショップに走りました
daisan 私は1996年にCMで聞いた「SOPHIA」(ソフィア)の曲からハマりました。とにかくボーカルの松岡充くんが大好きでした
daisan 年まで覚えているあたりに、愛情の深さを感じます……!みなさん、バンドの情報ってどう入手していましたか?
daisan 中学時代は、まだインターネットもやっていなかったし、お小遣いも少なくて雑誌もあまり買えないので、「●組の××はV系好きらしいぞ」という口コミから、仲間を探し当てていました
V系風のメークと衣装で、バッチリ決めた藤谷さん。髪の毛は、わざわざ美容院まで足を運び、セットしてもらったとか=野口みな子撮影
V系風のメークと衣装で、バッチリ決めた藤谷さん。髪の毛は、わざわざ美容院まで足を運び、セットしてもらったとか=野口みな子撮影
daisan そうそう!V系好きって少ないので、見つけるのが大変なんですよ
daisan 「男性がメークする」というだけで、引いちゃう人も多かったですもんね
daisan だからつながれると、すごく仲良くなるんです。V系専門誌から、アーティスト写真を切り抜いて交換したり。あとはネット上で友だちをつくって、ライブに参戦していました
daisan BBS(掲示版)やチャットですね!私は地方在住だったので、ネット上で知り合いができても、なかなかライブに行けなかったんですよ……悔しかった……(しょんぼり)

専門誌の読者コーナー=個人情報の山

daisan V系専門誌で言うと、読者コーナーの「通信欄」から連絡を取り合う人もいましたね。例えば、これは「FOOL’S MATE」という雑誌なんですが……
思いの外、個人情報の宝庫だった通信欄。中には「封筒にプリクラを入れて」といった、時代を感じる投稿も=野口みな子撮影(画像を加工しています)
思いの外、個人情報の宝庫だった通信欄。中には「封筒にプリクラを入れて」といった、時代を感じる投稿も=野口みな子撮影(画像を加工しています)
daisan えっ!ペンネームどころか、本名や住所まで公開されてますよ!? 個人情報ガバガバじゃないですか……
daisan 10代の投稿が多いですね。ライブの同行者を募る文章に、「狂愛者求ム」って書いてある……。あ、コスプレサークルの連絡先も載ってます
daisan 同じバンドが好きな人同士で、メンバーのコスプレをするんですよね。ライブ会場の近くなどで、時々目にします
daisan そうそう。東京では、原宿の明治神宮前にある「神宮橋」、関西ですと「大阪城公園」(大阪市)が聖地とされていましたね
daisan ハンドルネームならぬ、「バンギャルネーム」(または「ライブネーム」)入りの名刺を持って集まったものです。バンドメンバーのお誕生日会を、自主的に開く人たちもいました
神宮橋に座り込む、V系バンド風のメークをした女性たち。2001年元旦に撮影。
神宮橋に座り込む、V系バンド風のメークをした女性たち。2001年元旦に撮影。 出典: 朝日新聞
daisan ほほえましい(ほっこり)。でも、最近はあまり見かけませんね
daisan mixiといった、SNSの普及が大きかったと思います。趣味が共通する人を見つけられる「コミュニティ」などがあり、ネット上で交流出来るようになりましたから
daisan なるほど!いずれにしても、「好き」という強い気持ちがあってこそ、成立した文化と感じます
90年代以降、書店の棚には数々の専門誌が並んだ。元々、洋楽など多様なジャンルを扱っていた雑誌が、後にV系バンドだけを取り上げるようになったケースも=野口みな子撮影
90年代以降、書店の棚には数々の専門誌が並んだ。元々、洋楽など多様なジャンルを扱っていた雑誌が、後にV系バンドだけを取り上げるようになったケースも=野口みな子撮影

言葉の「非日常感」が醸し出す世界

daisan そういえば、V系バンドの歌詞って「病んでいる」イメージがありますよね? その辺りも深掘りしたいなと
daisan 例えば、90年代にはやっていたJポップって、等身大の内容が多いと感じていたんです。一方でV系の場合、明らかに「非日常感」があります。これは、LUNA SEAの「ROSIER」という曲の一節なんですが……
「見上げた夜空を切り刻んでいたビル 夢のない この世界」
作詞・作曲=LUNA SEA
1989年に活動を開始した「LUNA SEA」。2000年に突然の「終幕」を宣言するも、10年後に再始動。今年6月、日本武道館で結成30年ライブを行う。
1989年に活動を開始した「LUNA SEA」。2000年に突然の「終幕」を宣言するも、10年後に再始動。今年6月、日本武道館で結成30年ライブを行う。 出典: LUNA SEA.Inc提供
daisan 初めて曲を聴いた当時は、ど田舎の中学生だったので、全くリアルを感じることができなかったんです。だって、地元の夜空にビルないですからね! でも、なぜか詩的でロマンティックなんです。V系の歌詞って、たとえ素朴な感情を歌っていても、比喩がすごく美しい
daisan もっと簡単に言うと、「中二病がものすごいことになっちゃったやつ」なのかも。以前、V系バンドの歌詞を分析したことがあるんです。その結果、思ったほど「壊して」も「彷徨(さまよ)って」もいないことがわかりました
daisan それは意外ですね!
daisan 実際には「夢」とか「空」とか、きれいなイメージの言葉が多く使われていました。つまり、インパクトのある「闇ワード」の差し込み方こそが肝なんだと思います
日西さんによる、V系バンドの歌詞の分析結果。意外に「夢」という単語が多用されている。まさかのドリーマー。
日西さんによる、V系バンドの歌詞の分析結果。意外に「夢」という単語が多用されている。まさかのドリーマー。 出典: 日西愛さん提供
daisan 他ジャンルとの差異化を試みた結果、暗黒世界に飛び込んでしまった……という感じですね
daisan なるほど!私も、「自分はJポップの歌詞に出てくるような主人公ではない」という思いから、V系の「非日常感」にひかれた部分があるんです。

 90年代のV系ブーム期当時は、「中二病」という概念はまだ生まれていなかったので、ただ格好いいものとして受け取られていました。背伸びというか、「ここではないどこかへ」という気持ちの表れだったのかもしれませんね

バンドの存在が「居場所」に

daisan 「ここではないどこかへ」とは逆で、僕は歌詞に自分を投影しがちでした。高校生の頃、「MUCC(ムック)」というバンドを好きになったのですが、特に初期は、人間関係の不和といったテーマの曲が多いんです  

 個人的にはLUNA SEAの作品と比べ、より身近だと感じていました。自分の思春期の悩みと共通項があり、「俺のことを歌ってくれている!」と聞きまくっていましたね
「MUCC」は茨城県出身の4人組。左2番目から右へ順に、ドラムのSATOちさん・ボーカルの逹瑯さん・ギターのミヤさん・ベースのYUKKEさん。水戸・石岡両市の観光大使も務める。
「MUCC」は茨城県出身の4人組。左2番目から右へ順に、ドラムのSATOちさん・ボーカルの逹瑯さん・ギターのミヤさん・ベースのYUKKEさん。水戸・石岡両市の観光大使も務める。 出典: 朝日新聞
daisan そんなふうに「受け皿」になっていた部分はありますよね。ファンにとって、バンドの存在が「居場所」になっているというか。

 でも私と神戸さんで向き合い方が違うように、色々楽しめるのもV系の面白さです。音楽だけではありません。メンバーやコスプレ用の衣装を作る中で、服飾業界を目指す人もいます
daisan 僕も、曲を聞きすぎてバンドを組んだ人間なので、理解出来ます。ちなみに、当時はこんないでたちでした
左側は記者の神戸(30)、もう一方がバンドマン時代の神戸(19)。
左側は記者の神戸(30)、もう一方がバンドマン時代の神戸(19)。
daisan daisan 思っていた以上にガチだった……!

終末思想が招いた一大ブーム

daisan ところで、V系が最も世に受け入れられていたのは、90年代後半でした
daisan ブームの絶頂期ですね!音楽番組でも、毎週のようにV系バンドを見ました
daisan アニメ『クレヨンしんちゃん』の映画にまで、「SHAZNA(シャズナ)」のボーカル・IZAM(イザム)さんが出演していた記憶があります。なぜ、V系というジャンルが、あれだけ多くの支持を得たのでしょう?
97年にメジャーデビューしたV系バンド・SHAZNA。IZAMさん(中央)は、翌98年公開の映画『クレヨンしんちゃん 電撃! ブタのヒヅメ大作戦』に本人役で出演、主題歌も担当した。
97年にメジャーデビューしたV系バンド・SHAZNA。IZAMさん(中央)は、翌98年公開の映画『クレヨンしんちゃん 電撃! ブタのヒヅメ大作戦』に本人役で出演、主題歌も担当した。 出典: 朝日新聞
daisan 「世紀末感」の強さが理由ではないでしょうか。当時は、1999年に世界が終わる、という「ノストラダムスの大予言」がはやっていました。社会不安が強まり、「終末」や「闇」といった壮大なテーマを歌う、V系バンドが人気を呼んだのかもしれません
99年、各地の書店には「ノストラダムスの大予言」の解説書が並び、買い求める人々が殺到した
99年、各地の書店には「ノストラダムスの大予言」の解説書が並び、買い求める人々が殺到した 出典: 朝日新聞
daisan 世紀末感!なんとぴったりな言葉。でも結局、世界は終わらず、全国的なブームは下火になっていきました
daisan 世間的には「下火」だったかもしれませんが、インディーズシーンはすごく盛り上がっていたんです。そこからネットを通じて海外でV系人気が高まったり、「ネオビジュアル系ブーム」につながっていったのだと思います

 面白いのが、2000年代以降、身近なテーマを歌うV系バンドが増えてくるんですよ
daisan あ、分かるかもしれない。先ほど登場したMUCCは、03年にメジャーデビューしています。歌詞を読むと、「1R(ワンルーム)」「手鏡」など、確かに生活感のある単語が多いんですよね
daisan 特に2000年代前半は、「和風」「レトロ」といったモチーフが注目されました。歌手の椎名林檎さんが書く、旧仮名遣いの歌詞に象徴されるような世界観が人気でしたよね。

 政治家や、人気アーティストによる靖国参拝問題など、若い人がナショナリズムを意識せざるをえないニュースも、多かったように記憶しています
歌手の椎名林檎さん。
歌手の椎名林檎さん。 出典: 朝日新聞
daisan   V系シーンでも、それまで主流だった西洋的なモチーフではなくて、あえて昭和歌謡曲のような世界を表現したバンドが台頭するなど、表現が多様化したんです。そう考えれば、「V系=社会を映す鏡」と言えるように思います

V系とは「思春期の受け皿」

daisan V系って、思っていた以上に幅広い見方が出来るんですね。とても興味深いです……!改めて、このジャンルの魅力とは何でしょうか
daisan 若いバンギャちゃんと話すと、「中高生の時、友だちとカラオケで歌える曲がなかった」と言います。世代を超え、「秘めた趣味」として受け継がれているのが良いなと(笑)
daisan だからこそ、ファン同士の結束は固いですよね。「バンドを応援したい」という気持ちの強い人が多いように感じます
daisan 友人の一人は、メンバーの出身自治体に、ふるさと納税で寄付しています。「私が地元に貢献出来るのは、それくらいだから」と
daisan 「推しを育てた土地に感謝!」という気概を感じますね。最後に、ご自身にとってのV系の意義を教えて下さい
daisan 一見ダークだったり、病んでいるように見えるものでも、それは「思春期の受け皿」であり、自分を鼓舞してくれるものですね。その後の生き方の指針を与えてくれた、と言っても過言ではありません
daisan 青春だと思います。私がハマり始めた当時に頑張っていたバンドが、今も活躍してくれたり、復活してくれたりしているのが、とてもうれしいです!
「V系は青春そのもの」と語る日西愛さん。この日はあえて、バンギャ風ではなく、「普通っぽい」服装で訪れたという=野口みな子撮影
「V系は青春そのもの」と語る日西愛さん。この日はあえて、バンギャ風ではなく、「普通っぽい」服装で訪れたという=野口みな子撮影
daisan 人生の道しるべになってくれた、という思いが伝わってきました。ありがとうございました!

座談会を終えて

 私には学生時代、人間関係に悩んだ時期があります。その頃に知ったのが、V系バンドの音楽です。暗い歌詞もあるけれど、傷ついた心に寄り添ってくれる――。そんな感覚が得られ、ずいぶんと救われていました。

 今回、ジャンルについて振り返ってみて、「こんなに広がりがあったのか……」と驚きました。個人的な趣味と捉えていたものが、実は社会や時代と深くつながっていた。そのことに、新鮮味を感じています。

 同時に、これほど「好き」という気持ちを、誰かと共有出来る分野もない、と再確認しました。ネガティブな経験がなければ、行き当たれなかった心情でしょう。ある意味、現実から音楽に「逃げた」がため、逆説的に現実が豊かになったとも言えます。

 これから、どんな形でV系と付き合っていけるのか、とても楽しみです。元号が変わっても、青春を共に歩んできた日々を胸に、大切にしていきたい。そう思っています。

 

withnewsでは、平成が終わりを迎えるにあたって、平成を象徴しているのに普段は忘れられがちなアイテムや出来事を「平成B面史」と名付けました。みなさんの中で「そういえば……」とひらめいたものをハッシュタグ「#平成B面」をつけてツイートしてくれませんか? 編集部が保存に向けた取材にかかります。

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