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日本の選挙を支えていたのは「イチゴパック」だった 開票所の裏ワザ
地方自治体のトップや議員を選ぶ「統一地方選挙」が全国各地で真っ最中です。選挙で有権者の投票を数え、当選者を決める大事な作業が「開票」です。一般の人にはなじみのない開票作業ですが、見つけてしまったんです。実は身近な「ある物」が大活躍していることを……。(朝日新聞津総局記者・甲斐江里子)
3月中旬。三重県松阪市役所の選挙管理委員会に隣り合った大きな部屋には大量の段ボールが置かれていました。普段は研修などを行う部屋ですが、この時期は選挙関連の物品でいっぱい。中身は折りたためる投票箱など投票所で使うものや、票を開いて数える「開票所」で使う道具の数々です。
統一地方選挙には道府県の知事と議員、政令指定都市の市長と議員を選ぶ「前半戦」と、そのほかの市区町村のトップと議員を選ぶ「後半戦」があります。三重県の前半戦は、知事選と県議選があります。
松阪市選管の内山次生事務局長(57)は「選挙に向けて具体的な準備を始めたのは昨年末ごろからです」。松阪市の有権者は約13万6千人。松阪市では県議選は無投票になりましたが、開票所には約120人の市職員を動員します。前回の知事・県議選では、計約12万7千票を2時間ほどで数え終わりました。
膨大な票を早く正確に仕分けて数える戦力の一つが「投票用紙計数機」です。その名の通り、投票用紙を数える機械です。試しに使わせてもらいました。
数十枚のダミーの投票用紙の端をそろえ、機械上部にセット。スタートボタンを押すと、カタカタカタ――と軽やかな音とともに、1枚ずつ機械に吸い込まれていき、カウントの表示があっという間に増えていきます。
50枚の投票用紙を数えるのにかかった時間はわずか2秒ほど。機械の下部に積み重なった票の束を取り除くと、すぐさま再び機械が動きだし、50枚の束が次々にできあがります。
「これは速い、楽しい!」。思わず独り言をもらすと、「ずっとやっていると、そんなに楽しくないですよ」と内山さんに笑われました。知事選の当日は100枚ずつ数えられるよう設定し、一度数えた束ももう一度別の機械で数え直すそうです。
精密な機械でもないのに、効率のよい開票を支えるアイテムがあります。それは「イチゴパック」。スーパーの果物売り場でイチゴが詰められている、あの透明の容器です。イチゴパックと選挙、結びつきません……。
「なぜか縦12.8センチ、横8センチの投票用紙がぴったり収まるんです」。内山さんが理由を明かしてくれました。
候補者別などにしなければいけない票の仕分けに便利なうえ、作業台から次の作業台に落とさず運ぶのにも良いそうです。使われ始めたのがいつかはわからないそうですが、開票所では「定番」の道具なのだとか。
かつては開票にあたる職員が自分の目で投票用紙に書かれた名前を見分けていましたが、今では「自動読み取り分類機」が活躍しています。上下や裏表をそろえなくても、1分間に600票以上の票を読み取り、候補者別に自動で分類する機械で、松阪市は今回、3台使います。
しかし、投じられた票は候補者名がフルネームで書かれているものばかりではありません。例えば別人の名前が書かれたもの、複数の名前が書かれたもの。字がはっきりしていなくて読みにくいもの……。これらは「疑問票」と呼ばれますが、自動読み取り分類機では対応できません。ここは「人」の出番です。
疑問票は担当の係と、陣営が開票所に出す「開票立会人」が相談して、有効票か無効票か決めます。疑問票係は選管の担当者ではなく、市の他の部署の職員が担います。
ただ、「大事なところなので、長年担当している人にお願いしています」(内山さん)とのこと。できるだけ有権者の意思を尊重するようにしているそうです。
便利な道具や、開票をスムーズにするシステムがあるとは言え、最後の頼みは人の目です。迅速な開票作業のためにも「投票は、投票所に掲示されている候補者の名前のみ、枠の中にはっきり書いて下さい」ということでした。
開票所は有権者向けに公開されています。票を投じ終え、あとは開票結果を待つだけの投票日の夜。自分の投じた票がどう数えられているのか、開票所に見に行ってはいかがでしょうか。
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