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2019年04月06日

注意分からず、激怒される恐怖…聞こえない人が電車で感じる気まずさ


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出典: (c)Takami Kizu

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 うっかり電車で乗り過ごしたり、遅延の放送を聞き逃してしまったりした経験、ないですか? これ、耳が聞こえない人にとっては、より身近な話なんです。列車が止まり、乗客がいらついている時。他人から注意されたのが分からず、相手を激怒させてしまった時。色々な場面で気まずさを感じることがあります。実は私も、聴覚障害がある一人。電車でのトラブルから考える、聴覚障害がある人とない人とが関わり合う上で必要なことって? 当事者の先輩たちに聞いてみました。(withnews編集部・平尾勇貴)

あわや大学受験に遅刻

 重度の聴覚障害がある私。日常生活の中で特に困るのが、電車内の放送が聞こえず、運行状況などに関する情報が得づらい「アナウンス問題」です。

 約5年前に起きた出来事は象徴的でした。実家のある四国から、本州方面に向かう電車に乗っていた時のことです。

 乗っていた電車は、途中で前方と後方の車両が分かれ、それぞれ別方向に移動するものでした。しかし、乗り慣れていない私には事情が分からず、アナウンスでの案内も聞こえません。分岐点となる駅で、何と目的地とは反対の方向に向かう車両に乗ってしまったのです。

多くの聴覚障害者は車内放送による案内に気づかないことが多い

多くの聴覚障害者は車内放送による案内に気づかないことが多い

出典: (c)Takami Kizu

 この日は大学受験当日でした。偶然一緒だった友人が事態に気づいてくれ、大急ぎで乗り換えて事なきを得ました。しかし、自分が危機的状況にあると気づけなかったことに、今思い返しても背筋が凍ります。

いらだっている人に話し掛けられない

 「電車のアナウンスでの案内、特に緊急時の案内は、音声放送でしか伝えられない。聴覚障害者は、その内容を正確に聞き取れない人も多くいます」

 そう語るのは、聴覚障害の当事者でもある久保陽奈弁護士(39)です。

 久保さんが電車の移動で最も困難を感じるのは、電車がトラブルなどで止まった時。電車を降りる人だけでなく、座ったままの人もいる状況だと、適切な行動をとりづらくなるといいます。

難聴者の久保陽奈弁護士

難聴者の久保陽奈弁護士

 「私たちは情報を一度頭の中で整理して、どういう行動をとるか選択します。障害でも、例えば肢体不自由障害の場合は、情報を得てどうすればいいかという判断が出来ます」

 「しかし、聴覚障害の場合は、耳から音声情報を得られないため、そもそもの行動をとるための判断ができません。さらに外見から分かりづらく、当事者側から周囲に積極的に助けを求める必要があります」

 「ただ、電車が遅れたり止まったりしていると、みんないらだっていますよね。なかなか周りの人に声を掛けづらい部分もあるんです」

 久保さんによると、最近は電光掲示板が普及してきましたが、運行情報が表示されない場合が多いそうです。また突発的なトラブルの際に、その後の運行情報をすぐに反映しないものもあります。

 こうしたアナウンス問題は、古くからある問題ですが、未だ解決されていない「新しい問題」でもあります。

聞き取れなかった駅員の声

「聴覚情報処理障害(APD)」の当事者にも、同じような悩みがあるといいます。

 APDは、最近認知されはじめた障害です。聴力に問題がなくても、聞いた言葉の意味を認識できなかったり、音の出どころや距離感がつかめなかったりという特徴があります。

 当事者である30代の男性は、旅行で大阪に行った時のことを教えてくれました。

 「終点に着いたことを知らせる放送に気づかず、引き上げ線まで移動してしまったことがありました。車掌さんが声を掛けてくれなかったことに疑問を抱きつつも、『自分が気づかなかったから仕方がない』と思いました」

 「車内に(緊急時に情報を表示するための)電子モニターを増やしたり、アナウンスを複数回行ったり、といった配慮があると、助かるのにな、と思います」

APD当事者の男性

APD当事者の男性

 別の当事者の40代女性も、地下鉄駅構内で、駅員に道順や運行情報について聞いたとき、苦い思いをしたそうです。

 「駅員さんに尋ねたのですが、電車の走行音や他の利用客の話し声が入り交じってしまい、回答が全く聞き取れませんでした。乗り換えに関する情報が載った案内カードや、筆談用のメモを携帯してもらっていれば助かったのに……」

なぜ環境の整備が必要か?

 こうした悩み事を、解決する方法はあるのでしょうか? 再び、弁護士の久保さんに聞いてみました。

 「個々のケースやそれぞれの要望に合わせて対応する『合理的配慮』は大事です。しかし、非常時に個別の合理的配慮を求めると、忙しい駅員にさらに負担がかかってしまい十分な対応が期待できないという欠点があります」

 確かに、駅員など個人の力だけで全てのケースに対応することは難しいかもしれません。そこで久保さんが教えてくれたのが、「事前的改善措置」という考え方です。

 「鉄道会社でいうと、緊急時に必要な情報を、電光掲示板などで文字化するようルール化、仕組み化する。そうすれば、支援をする人・支援をされる人の双方の負担が減ります」

 「聞こえない人は情報があれば自ら行動できますから、車掌や駅員も、特に個別に配慮が必要な人への対応に、集中出来るようになります」

 文字情報は後から見返せるため、聞こえる人にも役立つと久保さんは語ります。「前もって環境を改善しておく」という取り組みは、多くの人にとって意味がありそうです。

見えてきた意外な解決策

 さらに取材を進めていくと、意外な解決策も見えてきました。聞こえに困難がある人たちの多くは、トラブルに巻き込まれた時、ツイッターに頼っていたのです。

 たとえば、ろう者の吉田航さん(34)は、「遅延やトラブルの時は、人に聞くよりまずツイッターなどを使って調べている」と語ります。難聴者の久保さんもツイッターで検索することがあると言い、「乗り合わせた人が、最新情報を発信してくれたらありがたい」と打ち明けてくれました。

ツイッターも貴重な情報源になっている

ツイッターも貴重な情報源になっている

出典: (c)Takami Kizu

 聞こえない人にとっても、他の人に自分の障害を説明したり、筆談で状況を教えてもらったりするのは、負担だと感じることがあります。その点、ツイッターは便利です。何気ないつぶやきが、見知らぬ誰かにとって大きな助けになることもあります。

 もちろん、社会のバリアフリー化は最重要です。しかしツイッターでのつぶやきも、障害をなくしていく第一歩になるのかもしれません。

「聞こえていないかも」という可能性

 ところで、こうした聞こえ方に関する障害は、外から見えづらいもの。この「見えづらさ」には、もう一つ、「認知されていない」という意味もあります。難聴者の小川光彦さん(57)も、5年ほど前に、そのことを痛感した一人です。

 地下鉄に乗っていた時のこと。小川さんは、乗車口の脇に立ち、スマートフォンを見ていました。ふと気づくと、向かい側の座席にいた中年男性が、小川さんの手元を指さしてものすごい剣幕で怒っていたのです。

 「スマホですか?」と尋ねるとうなずいたので、「スマホのことが気になる人なのかも」と察して、電源を切りました。すると男性は落ち着いたそうです。しかし、一部始終を周りの乗客に見られ、いたたまれない気持ちになったといいます。

 「私にとってみれば、普通に電車に乗っていただけ。でも、自分が気づかなかったばかりに、その男性は大声を出し続けていた。周囲の乗客に、心配や迷惑をかけてしまい、ショックを受けました」

難聴者の小川光彦さん

難聴者の小川光彦さん

 私には、このような経験をした記憶がありません。しかし何かが起こっていたとしても、聞こえないために、気づかなかっただけではないか……。そう考えてしまいました。

 呼びかけた相手が反応しない時、「あの人はもしかしたら聞こえない人かもしれない」という可能性を頭の片隅においてもらえたら、と思います。

 あの時、電車のなかで、聞こえる人にしてもらいたかった対応とは? 小川さんに聞いてみました。

 呼びかけても反応がなく、もし聞こえない人なのかもと思ったとき、「紙やスマホのメモに書いて、周りの人には分からない、私だけが気づくようなかたちでこっそり教えてもらえるとうれしいです」と語ってくれました。

聴覚に関わる障害のある人と聞こえる人の「二人三脚」

 今回の取材は、私自身にとっても、聞こえる人との関わり方を見つめ直す機会になりました。関わり方について、ヒントを与えてくれたのが小川さんの印象深い一言です。

 「障害は私の中にあるのではなく、お互いの関係性の中にある。私の力だけでは解決できない。そう気づいてからはお互いの関係性を見つめ直すようになりました」

 聞こえる人々と聴覚に関わる障害のある人々が住む社会。社会を誰にとっても住みやすくするためにあるべきお互いの関係性は、「二人三脚」のような関係だな、と思いました。タイミング良く、息を合わせることが大切な競技。どちらか片方にためらいの足踏みや後退があっても、上手く前へは進めません。

 聴覚に関わる障害は、見た目だけで困っていることが分かりづらいものです。社会を変えるには、当事者側が積極的に動かなければいけません。

 そこで私たちが一歩目を踏み出した時、前へ進むための「もう一歩目」のきっかけとなるような、大きな力が必要です。例えば、筆談でのコミュニケーションをスムーズに受け入れてくれる、といったことです。

 あるいは、聞こえる側が、聴覚に関わる障害のある人が困っていることに気づき、声を掛けてくれることも「もう一歩目」を踏み出すことにつながります。

 こうして一歩ずつ前へ進んでいく過程で、歩調も合わせられるようになる。すると、一人一人のもつコミュニケーションの幅が広がり、誰もがストレスなく関わり合うことができる、住みやすい社会になっていくのではと思っています。

「聞こえない」写真家は世界をどう切り取る? 齋藤陽道さんの世界
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