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Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班さんからの取材リクエスト

新型コロナウイルスは、聴覚障害者の学びをどう変えた?



#28 #まぜこぜ世界へのカケハシ

コロナ流行で聴覚障害の子どもがくれた「気づき」不便さの中のヒント

誰もが不便さを感じる今、広がるかもしれない「理解」

新型コロナウイルスの影響で、全国的に波及した休校の動き。情報を得る上で、苦労することが多い聴覚障害者の学びをどう変えたのでしょうか?(画像はイメージ)
新型コロナウイルスの影響で、全国的に波及した休校の動き。情報を得る上で、苦労することが多い聴覚障害者の学びをどう変えたのでしょうか?(画像はイメージ) 出典: PIXTA

目次

取材リクエスト内容

新型コロナウイルスの影響で、全国的に休校の動きが広がりました。オンライン授業を経験した児童・生徒は多く、その中には聴覚障害者も少なくありません。

当事者は他の子どもたちと比べ、情報を得る上で、苦労することがあると思います。ウイルスの流行前後で、教育現場の状況がどう変わったか知りたいです。 Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班

記者がお答えします!

新型コロナウイルスの影響を、大きく受けた場所の一つが学校現場です。一斉休校や授業のオンライン化といった変化を、聴覚障害者の子どもはどのように受け止めたのでしょうか? 「私たちの知見を、社会に還元するためのチャンスにして欲しい」。普段から制約の中で生きる、当事者家族たちの工夫と心構えについて取材すると、ウイルス流行後の社会全体に関わる気づきを得ることができました。(withnews編集部・神戸郁人)

教員がそばで待機、不明点は紙に要約

さいたま市緑区の主婦麻生聖子さん(46)は、長女心音(ここね)さん(10)と暮らしています。聴覚障害の当事者で、地元にある公立小の一般級に通う、小学5年生です。

聴力は右耳が85デシベル、左耳が105デシベルで、先天性の高度難聴。大声の会話であれば、かすかに音が聞こえる程度といいます。身体障害者手帳4級を取得しており、授業に出席する際には、様々な配慮を受けてきました。

たとえば担任教諭は、小型マイクを身につけてから教壇に立ちます。音声を無線で心音さんの補聴器に飛ばし、聞きやすくする仕組みです。更に周囲の児童の動作から、教諭の指示内容を推測できるよう、座席は最前列から数えて2番目の位置に固定してもらっています。

情報を得るための工夫にも余念がありません。週4時間程度、手が空いている教員が授業に同席。心音さんの近くで待機し、わからないことがあれば、紙に要約して見せています。また教室内には裏紙が束ねて置いてあり、他の子どもと筆談できるようにしているそうです。

「こうしたサポートの中には、学校にかけ合って実現したものも、先生たちが独自に発案したものもあります。自然と手を差し伸べてくれる雰囲気があり、助けられてきました。娘も安心しているようで、とてもありがたいです」

自宅で小学校の課題に取り組む麻生心音さん。難聴のため、補聴器を身につけながら生活している。
自宅で小学校の課題に取り組む麻生心音さん。難聴のため、補聴器を身につけながら生活している。 出典: 麻生聖子さん提供

話したことの大半を理解できなかった英語

一方、困難を経験したことも少なくありません。全て英語で対話を行う授業「グローバル・スタディ」では、特に壁を感じてきました。

4年生になると語彙(ごい)や発音の難易度が上がり、相手の唇の動きを読んで返答する、口話(こうわ)の技術が使いづらくなったといいます。担任教諭やクラスメイトとの会話についていけず、苦労する場面もしばしばあったそうです。

学期末の評価は落ち込み、「話したことの大半を理解できていなかった」と振り返る麻生さん。そこで学校に要望を重ね、3学期終盤、予習用のプリントを作ってもらえることになりました。

「先生方の中には、児童に未習範囲の内容を伝えて大丈夫なのか、という葛藤があったかもしれません。しかし最終的には必要性を理解してくれました」。次の授業で扱うフレーズなどがまとまっており、効率よく勉強できるようになった結果、評価は改善したといいます。

学びの環境が整ったかに思われましたが、進級直前になって新型コロナウイルスが流行。今年2月には、安倍晋三首相が全国の小中高校・特別支援学校に休校を要請しました。この動きを受けて、心音さんの学校も感染拡大を防ぐ目的で、3月2日に授業を取りやめます。

今年2月、政府による突然の一斉休校要請を受け、授業を取りやめる動きが全国の学校に広がった。(画像はイメージ)
今年2月、政府による突然の一斉休校要請を受け、授業を取りやめる動きが全国の学校に広がった。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

ウイルスが生み出しうる”学びのエアポケット”

4月になると、1年間のカリキュラムの振り返りとして、復習用のプリントが学校から配布されました。不明点があれば、麻生さんと相談しながら解答するなど、親子で腰を据えて取り組むことができたそうです。

更に5月半ばから2週間ほど、YouTubeを活用した動画学習も実施。さいたま市の教育委員会が作成した映像を見ながら、5年生で習う内容を、教科ごとに履修できる仕様です。

このオンライン授業を体験し、麻生さんたちは手応えを感じました。理由の一つが、心音さん一人に対し、先生役の人物が語りかける格好になること。通常の授業以上に大きく口を開け、はっきりとしゃべるため、何を話しているかがとてもわかりやすかったといいます。

また、ほぼ全ての映像に字幕がついている上、聞き漏らした点について、繰り返しさかのぼって確認できる特長も。まさにメリットの宝庫と言えそうですが、心音さんは時間が経つと「学校の方がいい」と口にしました。一体、なぜでしょうか?

「どうやら授業中、他の子どもたちの発言に耳を傾けるのが好きみたいで。自分とは違う意見に触れることで、色々な発見があると話していました。面と向かってコミュニケーションを取り、わからないことを何度も聞き直す、といった作業から得るものも多いようです」

そして6月1日、待ちわびた登校日を迎えます。授業も再開されましたが、教員・児童ともマスクをつけたまま。ウイルスを広げないよう、ずらして話すことが難しいため、声が聞き取りづらいときもあります。相対的に、筆談の頻度が高まりました。

こうした環境下では、対面でのやり取りだけだと、必要な情報を十分得られなかったり、会話内容への理解が及ばなかったりするかもしれません。いわば”学びのエアポケット”に陥るのを回避するため、学校には動画学習の併用を検討して欲しいと、麻生さんは語ります。

「クラスメイトと顔を合わせてこそ、実現する学びがあります。動画やオンラインでの授業は、その質を一層高めてくれるものです。障害があっても、自らに合った情報取得の方法を考える上で、大きな手がかりとなるのではないでしょうか」

動画学習中の一場面。タブレット端末から流れる音声を、スマートフォン上で文字化し、視覚的に内容を理解できるよう工夫している。
動画学習中の一場面。タブレット端末から流れる音声を、スマートフォン上で文字化し、視覚的に内容を理解できるよう工夫している。
出典: 麻生聖子さん提供

給食に「手話」導入、広がる当事者の知見

当事者の学習環境に注目が集まることで、障害の有無にかかわらず、子どもたち同士がつながれるようになるのではないかーー。そう期待する人もいます。中途失聴者で、誰にとっても使いやすい施設や商品「ユニバーサルデザイン」の普及に関わる提言などを通じ、聞こえる世界と聞こえない世界を橋渡ししている、松森果林さん(45)です。

松森さんは、無音の空間で聴覚障害がある人々に導かれながら、他の参加者との対話や交流を楽しむ体験型イベント「ダイアログ・イン・サイレンス」の主催団体「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」(東京都中央区)と連携。自らも会場でアテンド(案内役)を務め、言語の壁を超え、表情やボディランゲージの豊かさを伝えてきました。

念頭に置くのが、公教育に生じた変化です。たとえば、大分県別府市の二つの市立小学校は今年6月、給食の時間に手話を取り入れると決定。ウイルスへの飛沫(ひまつ)感染対策の一環で、食事中の私語を禁じており、会話の手段として活用していく方針といいます。

【関連リンク】別府2小学校 手話導入へ:読売新聞オンライン

「聴覚障害者は”音のない世界”を生きています。聞こえる人が多数を占め、様々な制約を受けやすい社会の中で、他者と意思疎通を図り、つながるための方法を模索してきました」

「ウイルス禍においては、暮らしに不便さを覚える人も少なくありません。私たちの、音声に頼らないコミュニケーションなどに関する知見を、社会に還元するチャンスと言えるのではないでしょうか」

幼いうちから、自分とは特性が異なる他者と触れ合う。そのための回路を、学校の中に増やしていく。今後そうした取り組みが進めば、様々な"違い"にこだわらず付き合うためのきっかけがつくれると、松森さんは考えています。

中途失聴者の松森果林さん(本人提供)
中途失聴者の松森果林さん(本人提供)

悩みを共有すれば、道が開けることもある

同時に「理想を実現するためには、抱えている問題について、当事者自らが周囲の人々に伝えていくことも欠かせない」と、松森さんは付け加えます。

ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは今年4月、視覚・聴覚障害者計165人にウェブアンケートを実施。ウイルス流行後の生活実態を尋ねると、80人の聴覚障害者のうち、9割超が「仕事・学習環境の変化があった」と回答しました。

松森さんによると、学習面に関する困り事として「オンライン授業では、手話や文字による通訳がなく内容を理解しづらい」「聞き逃した情報を友達に確認できない」などの声が挙がったそうです。

アンケートでは、聴覚障害者の9割以上が「ウイルス流行後、仕事・学習環境に変化があった」と回答。更に、65%が「仕事・学習環境に不便や不安がある」とした。
アンケートでは、聴覚障害者の9割以上が「ウイルス流行後、仕事・学習環境に変化があった」と回答。更に、65%が「仕事・学習環境に不便や不安がある」とした。 出典: ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供

「勉強する上で、自分がどんな点でつまずいているか、そもそも自覚できていない当事者の児童・生徒がいます。ウイルス禍を経て、初めて困難に気付いたケースもあるようです。助けを求めるのに慣れていないと、一人で悩みを深めてしまうことも考えられます」

「まずは小さなことでもよいので、親御さんや友人に相談する勇気を持って欲しい。第三者と情報を共有できれば、道が開けるときもあると思います。そして学校側にも、子どもたちが気持ちを打ち明けやすい環境を、ぜひ整備して頂きたいです」

新型コロナウイルスという、誰しもに等しく降りかかる災厄と、いかに向き合うか。立場を超えて考える作業を通じ、手軽にSOSを出し合える雰囲気が生まれる可能性があります。

これまで声を上げづらかった障害者が直面する、生活上の課題に目を向けることは、巡り巡って、誰もが生きやすい社会づくりにつながるのかもしれません。

聴覚障害がある人々が暮らしやすい社会では、誰もが快適に過ごすことができる。松森さんは、そう語った。(画像はイメージ)
聴覚障害がある人々が暮らしやすい社会では、誰もが快適に過ごすことができる。松森さんは、そう語った。(画像はイメージ) 出典: PIXTA

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