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「選挙ポスター」撮られてみた 背景色の深い意味、わりと普通に加工
知事や市町村長、地方議会の議員を選ぶ「統一地方選挙」は7日が前半戦の投開票日。選挙と言えば期間中に必ず目にするのが候補者の「選挙ポスター」です。あのポスター、有権者に対してどんな効果があるのでしょうか。実際に「被写体」になりながら考えてみました。(朝日新聞津総局記者・甲斐江里子)
「私は新人。伝えたいのは顔と名前。以上」
三重県議選に立候補した新顔の女性候補者はそう言い切ります。
ポスターの大部分は顔写真にしました。「はきはきしたイメージ」を打ち出すために、基調のカラーは赤。名前も角張った書体を選びました。
立候補自体も初めてで、選挙ポスターを作るのも人生初。デザインや印刷は、多くの選挙ポスターを手がけてきた地元の印刷会社に依頼しましたが、原案は自分で考えたそうです。
立候補を決めてから、ポスター掲示場の数の多さに驚いたというこの候補者は「こんなに有権者が目にする。やっぱりポスターは大事ですね」と話します。
では、いったいどんなポスターなら効果があるのでしょうか。試しに自分を候補者に見立てて選挙ポスターを作ってみることにしました。
まずは写真撮影。
撮影は朝日新聞のカメラマンですが、カメラを見つめながら笑顔を作るのが難しい……。何パターンか撮影した写真データをデザイン会社に持って行きました。まじめに口を閉じた写真も用意しましたが、「明るい表情の方が好印象」とのことで、歯が見える写真を選びました。
デザイン会社によると、実際の選挙ポスターでは写真の加工を施すことも多々あるそうです。男性候補者のひげのそり残し跡を消したり、高齢候補者のしわを消したり。黒目に小さな白い点を入れるだけでも眼光が鋭くなって印象が変わるという「技」もあるとか。背景やレイアウトを変えた案をいくつか作ってもらいました。
いくつか印刷したポスターを持って訪ねたのは、愛知県小牧市の名古屋造形大学。副学長でグラフィックデザインコースの伊藤豊嗣教授(60)にどのポスターが良いか、意見をうかがいました。
伊藤教授が初めに指摘したのは「ポスターから伝わる情報量は少ない」ということ。候補者の政策などを知るきっかけ作りになるためには、「伝えたいことを凝縮し、印象づけることが必要です」。
ポスターの背景色も、候補者の印象を左右する要素だそうです。赤やオレンジなどの暖色は情熱やエネルギーを示す。青や紫などの寒色は落ち着きや知的な印象を与える――。
持っていったポスターの背景はオレンジ、緑、白の三つ。「オレンジは元気さ、緑は知的なイメージ、白からはおとなしい印象を感じます」と言われました。
書体を変えるだけでも与える印象は変わるといいます。文字の太さが一定のゴシック体は安定感があり、力強い印象。縦線と横線で文字の太さが違い、筆で書いたような特徴も残る明朝体は、情緒的で優しい雰囲気を出せるそうです。
では、何枚ものポスターが並ぶ掲示場で、どうすれば自分のポスターを目立たせられるのでしょうか。伊藤教授は「あえて余白があるようなシンプルなデザインにした方が目立つのでは」と提案しました。
選挙ポスターは大きな顔、大きな文字で強調する物が多い。同じように「押しの強い」ものでは周囲に埋もれてしまう可能性があると伊藤教授は言います。
選挙ポスターは、有権者にこの候補者なら信頼できる、自分の思いを託したいと思わせなければいけません。伊藤教授のアドバイスを元に、実際に出馬するのであれば、オレンジ色の背景で元気さを、ゴシック体の名前で力強さを表現し、スペースにも余裕のある横向きポスターを使おうと決めました。使うときが来るかどうかはわかりませんが……。
今回試しに作ったポスターは顔写真と名前を載せた基本的な物ですが、ポスターに載せる内容は「自由です」(三重県選挙管理委員会)。候補者の顔写真や名前がなくても問題はなく、イラストでも構わないそうです。ただし、公職選挙法で掲示責任者と印刷者の氏名と住所を記載するよう定められています。
統一地方選でも各地で、候補者のポスターが並びました。
単色でシンプルにまとめられたポスターや、丸みのある文字で優しさを表現するポスター。それぞれの候補者がどんなイメージを売り出したいかが伝わってきます。
みなさんも、ポスターにこめられた狙いも探るつもりで、一度見てみてはいかがでしょうか。
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