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もしかしたらあの人……発達障害グレーゾーン? 他人事じゃない実態
テレビや雑誌、ネットニュースなどで繰り返し特集され、少しずつ理解が進んでいる発達障害。診断に至らなくても生活や仕事に支障があり、発達障害が疑われる人たちは「グレーゾーン」と呼ばれています。白でも黒でもない人たちは、自分とどう向き合っていけばいいのでしょうか? また、周りはどのように接したらいいのでしょうか?
「自分はグレーゾーンなのでは」。群馬県に住む女性(25)はそんなモヤモヤを抱えています。
社会人4年目で三つの会社を転々とし、最近事務系のアルバイトに就きました。マルチタスクや優先順位をつけて物事を進めることが苦手で、仕事は取り組む意味を見いだせないと集中できません。イスに座りながらする仕事は「生産性があるのか分からず、仕事をしている感覚がない」と感じるそうです。
行政機関で働いていた一昨年、パソコンに向かい淡々と集中している同僚を見て違和感を持ちました。
「なぜそんなにも、その仕事への『意味』を考えずに機械的にこなせるのか。周りと違う自分はおかしいんじゃないかと思いました」
ネットで発達障害に詳しい病院を探し、都内の大学病院に2週間検査入院しました。
しかし、診断はおりませんでした。
「戸惑いました。自分はなぜこんなにも生きづらいのか、人と違うのは何が原因なのか。生きづらさは発達障害が原因だと思っていたので、当時は診断されて楽になりたかったです」
検査入院のあと、女性はツイッターで「発達障害グレーゾーン」という言葉を目にしました。
「悩んでいる人がたくさんいることを知りました。でも、私の生きづらさは変わりません。入院先の医師が『違う』と診断しただけで、ほかの病院では診断がおりるかもしれない。『発達障害かも』という思いは捨てきれません」
女性は、生きづらさを和らげるために「発達障害の当事者が書いた本を読むこと」を大切にしているといいます。
「『1対1のコミュニケーションだとうまくいくが、1対大勢の会話となると、自分がどのような役割で動いていいのか分からなくなる』という当事者の言葉を本で見つけたときは、自分が感じていたことは間違ってなかったと思えて心が安らぎました」
女性が「発達障害グレーゾーン」を知ったきっかけは、自身も発達障害の当事者で「発達障害グレーゾーン」などの著書もあるフリーライター・姫野桂さん(31)のツイッターでした。姫野さんはこれまで、発達障害の当事者100人ほどから話を聞いてきたそうです。「グレーゾーン」や発達障害をめぐる現状について聞きました。
「取材を進める中で、『ある病院ではグレーゾーンと言われたけど、別の病院では発達障害の診断がおりた』『診断は下されていないけど傾向がある』という人が想像以上にいました」
「『グレーゾーン』という言葉は、発達障害がひとごとではないと感じさせると思います。自分もそういうところがあるんじゃないかなと。グレーでも濃淡があります。黒に近いグレーか、白に近いグレーか。困っていたら回避する工夫が必要です。当事者会に参加したり、関連書籍を読むなどして、自分にあった解決方法を見つけてほしいと思います」
姫野さんの著書では、当事者たちのライフハックも紹介されています。
発達障害について、「企業側の認知が上がってきた」と話す姫野さん。経営者や人事担当の理解が進み、「ちゃんと配慮すれば能力を発揮することができる」という認識が広がっているといいます。
「仮眠室を設置して昼寝を30分まで許可したり、落ち着きがない人は立ってパソコン仕事ができるような環境にしたり、聴覚過敏で音を拾い過ぎる人へはイヤホンをしていてもいいという配慮があります」
では、周りにグレーゾーンの人がいたときは、どのような配慮が必要なのでしょうか?
「普通になろう、普通になろうと緊張してがんばっている人がいます。見た目からはなかなか分からないかもしれませんが、残業が多かったり、常にテンパっていたり、そわそわしていたりする人もいます。ちょっと声をかけたり、さりげなくフォローしてもらいたいです。雑談が苦手な人には雑談を強要しないことも大切です」
「仕事ができず自信がない人も多いです。特に男性は、仕事ができないと自己否定に走る傾向があります。困っているなと思ったら、その人にできそうなことをお願いして、成功体験を重ねてほしいです」
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