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「障害者ががんばりました」打ち破る問題作 全盲の監督がSF映画!?
「〝障害者が頑張りました〟ではなくて、〝健常者〟が走り回って汗をかいた映画です」。全盲の監督が映画をつくるまでを撮影したドキュメンタリー「ナイトクルージング」を、監督の佐々木誠さん(43)はそう評します。見えない人と見える人は、どんな「共通言語」を探りあてて映画をつくるのか。自分の見えている世界は、果たして本当にほかの人と同じなのか。ドキュメンタリーをみると不思議な感覚が揺さぶられます。3月30日から公開される映画の制作意図を、佐々木さんに聞きました。
これまで障害者のセックスを題材とするなど、マイノリティとマジョリティの「境界線」を問うような作品を発表してきた佐々木さん。
生まれつき全盲のシステムエンジニア・加藤秀幸さん(43)の映画制作を手伝うきっかけとなったのは、7年ほど前、「視覚障害者の映画をつくってほしい」と神奈川県の視覚障害団体から依頼されたことでした。
――「視覚障害者の映画を撮ってほしい」と言われたときはどう思いましたか?
佐々木さん「2007年にマイノリティのセックスを題材にした映像を撮り、『違うことをやりたい』と思っていたので、正直、そこまで興味がわかなくて。でも、団体の理事長の熱意がすごかったんです。
くどかれているうちに悪い気もしなくなって、ある時まわりから『2人で温泉にでも行って分かりあってみたら』って言われました。次の日には2人きりで箱根に行くことが決まってました(笑)」
「そこでいろんな事に驚いたんです。展示してあるピカソの絵を『解説してくれ』と言われたり、夜寝るときに『電気消しますね』と尋ねて『どっちでもいいけど』と返されたりとか。
自分はこれまで〝見える〟ことに無自覚だったなと思いました」
――目の見えない人と、突然旅行に行くのにハードルはありませんでしたか?
「昔からそういうのはないんですよね。障害のあるなしに関わらず、相手が何か困ってたら助けるじゃないですか。
単に『この人面白いな』『好きだな』で仲良くなりますね。
加藤くんとも、その団体からの依頼のときに出会って、映画の話で盛り上がったんです。
生まれつき目が見えない加藤くんも、ジャッキー・チェンのことが好きだって言ってて。僕たちは勝手にジャッキーのコミカルなアクションの動きが〝面白い〟〝かっこいい〟と魅力に感じるけど、加藤くんは〝音が面白い〟って言うんですよ。
〝見方〟が違うなぁ、面白いなぁって思って、すぐ友達になりましたね」
「映画が好き」という共通点から、全盲の人が映画を作ったらおもしろいんじゃないか?という発想につながります。
加藤さんに持ちかけると、加藤さんは「SFアクション映画を作りたい」と言います。
佐々木さんは「『SFはCGとか大変だからやめておけよ』と言ったんですが、それも僕たち『見える側』の考え方ですよね」と振り返ります。
映画のヒントを得ようと加藤さんとサバイバルゲームに参加したり、シナリオ制作者に相談に行ったり。そんな制作の様子を撮影し、佐々木さんは2013年、45分のドキュメンタリー「インナーヴィジョン」を公開しました。制作するSF映画の冒頭のシーンで終わるドキュメンタリーには、「続きが見たい」という要望が多く寄せられました。
「なかには『<視覚障害者でも映画が作れる>と証明する映画が見たいんだ!』というお怒りの声もありました。
じゃあ実際に最後まで作ったらどうなるのか追いかけたのが、今回の『ナイトクルージング』です」
ナイトクルージングは、文字通り「手探り」で加藤さんが映画「ゴーストビジョン」をつくっていく様子を、佐々木さんが制作に協力しながら撮影していきました。
映画に登場するキャラクターの顔の造形は? 髪形は? 服の色は……? 監督が決定するものは多岐にわたります。
生まれつき目の見えない加藤さんは「美しい顔」「服の色」の概念もありません。マネキンの顔を手でさわり、色を表すタグにふれ、専門家にレクチャーを受けます。
キャラクターをどう配置してどこから撮影するのかというイメージは、レゴブロックを使ってスタッフたちに伝えます。CGを見たことがなくどんなものか分からない加藤さんには、その解説から始まります。
クラウドファンディングで制作費を募り、山寺宏一さんら第一線の声優陣も「見えない監督の映画に参加してみたい」と集まってくれました。
――ナイトクルージングは、加藤さんの映画づくりを淡々と追いかけます。「見えない映画監督の挑戦」といった印象はあまりありませんね
「加藤くんのために、いろんな人が汗をかいて頑張っている映画なので、試写を見た人からは『障害者が主役なのに涙がないところがいい』と言われました(笑)。
挑戦する〝感動〟を着地点にすると、スッキリして終わってしまう。そうじゃなくてモヤモヤを持ってほしかったんです。
映画の伝えたいことも、他者との違いも、『そんなに簡単に分かるものじゃないぞ』と思っているので」
――エッセイスト・漫画家の能町みね子さんはこのドキュメンタリーに、「視覚障害者を『視覚を偏重して生きている私たちとは別の感覚を持つ人』と想像すると世界が広がる」とコメントされていますね
「とにかく時間がないのに、加藤くんの音へのこだわりはすごかったです。〝音の概念〟が違うんだなと思いました。
絵コンテの代わりに『サウンドコンテ』を作りましたが、セリフを足すことになって。自分は編集してつなげばいいと思っていたんです。
でも加藤くんは『セリフが増えたら空気感やしゃべり方が変わるはず。最初から最後まで録り直さないと意味がないだろ』と怒り出したんです。
『時間がないんだから』と説得しましたが、納得しない。結局録り直しました。音が命綱なんですよね」
「結局、録り直しても僕にはその違いは分かりませんでした。
逆に加藤くんは『太陽の影や伏し目がちな表情で心情を表現しましょう』と言われても分からない。そんな限界もみえてくる映画だったと思います」
小さな頃から映画好きだったという佐々木さんは、中学生の頃には「自分は映像の仕事しかできないだろうな」と漠然と感じていたそうです。今回、「ナイトクルージング」を制作して、より「視覚ってなんなのか」を考えるようになったといいます。
――ナイトクルージングを拝見して、単に「映画をつくるって本当に大変なんだな」とも感じました
「映画づくりって何? クリエーティブって何? 障害って何? 見える・見えないって何……? いろんな角度から語れる映画だと思うんです。
映画づくりに関しては、映画『カメラを止めるな!』が好きな人はきっと面白いと思ってくれると思います」
「今回、SF映画の制作も、ドキュメンタリーづくりも、クラウドファンディングも文化庁のイベントも同時並行で、本当に忙しくて僕、片耳が聞こえなくなっちゃったんですよ。
でも、ロケの帰りに、新幹線の中で加藤くんが『キャラクターの髪形を変える』って言い始めて。あのときは『ふざけんな』となりましたね。目の見えない大人と片耳が聞こえない大人で大げんかしてました」
――それだけ大変だったのに、映画監督はまた映画を作りたいって思うものなんでしょうか
「映画監督ってみんなマゾなんじゃないかと思うんです(笑)。出来上がったら、それまでの苦労とか忘れちゃう。ずっと〝文化祭〟が続いている感じなんです。
ただ、見る人には映画の裏側とか過程は関係ないですからね。結局、できた映画が面白かったか・つまらなかったかで判断されるしかありません」
――加藤さんのSF映画「ゴーストビジョン」には、目に見えない、でも全盲の主人公は感じ取ることができる「ゴースト」という存在が登場します。これは何を表しているんでしょうか
「自分にとっては、ドキュメンタリー『ナイトクルージング』自体が『ゴースト』だと思っています。
見える人、見えない人、お互いにいろんなイメージを共有して、コミュニケーションをとっていく。その人たちの間にあるものなんじゃないかと思います。
『分からない』とか『境界線がある』ことは、決してネガティブな意味ではないと思っています。『分からない』から、一緒につくる、一緒に考える。
ドキュメンタリーを通して、みなさんもいろんなことを考えてみてもらえたらうれしいです」
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ドキュメンタリー映画「ナイトクルージング」は、アップリンク渋谷で3月30日から上映され、その後、全国で順次公開されます。詳しくは映画のホームページ(https://nightcruising.net/)へ。
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