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NGT48暴行事件の温床、私的つながり求める「厄介」 放置の運営
アイドルグループNGT48の山口真帆さん(23)が顔をつかまれるなどの暴行被害を受けた事件について、第三者委員会(委員長・岩崎晃弁護士)の調査報告書が公表されました。浮かび上がるのは事件の悪質性、そして事件への関与は認定されなかったものの、プライベートで一部の悪質なファンと「つながり」を持っていたメンバーが疑いを含めて相当数いたことです。運営会社AKSの安全管理の不備も多く指摘され、危うい構造の中で、アイドル活動が続けられていた深刻な実態が垣間見えます。
22日に新潟市内で開かれたNGTの運営会社AKSの松村匠取締役ら3人の会見は、前代未聞の展開となりました。ネットでの生中継を見たと思われる山口さんが会見中、「私は松村取締役に謝罪を要求された」とツイッターで発信し、それをもとに記者が質問。会場の雰囲気が一変しました。
松村氏が謝罪要求について、「事実ではないことと実感しております。要求はしておりません」と否定すると、山口さんは、「なんでうそばかりつくんでしょうか」、「なんで事件が起きてからも会社の方に傷つけられないといけないんでしょうか」などと計5回、相次いでツイッターで発信。松村氏は「おっしゃる通りかもしれません。精いっぱいコミュニケーションを取ってきたつもりですが、不足しているんだなと思います」などと釈明しました。
松村氏は今後に向けてメンバーとのコミュニケーションの必要性を強調しましたが、事件から3カ月余。山口さんと運営の間に覆いがたい深い溝があることが鮮明になりました。
記者会見に出席している3人は、
— 山口真帆 (@maho_yamaguchi) 2019年3月22日
事件が起きてから、保護者説明会、スポンサー、メディア、県と市に、
私や警察に事実関係を確認もせずに、
私の思い込みのように虚偽の説明をしていました。
なんで事件が起きてからも会社の方に傷つけられないといけないんでしょうか。
同時に、事実をきちんと公表しようとせず、メンバーのことを第一に考えて問題解決に向き合っているのか疑問符がつく応答が、松村氏らにより、1月の囲み取材に続いて、またも繰り返されました。
元SKE48のメンバー矢神久美さんはツイッターで、運営の対応について、「腹が立って仕方がない。一人の子の人生をめちゃくちゃにしてまで、守りたいものがあるの?」などと批判しています。自らの現役時代は、家を特定したり、待ち伏せしたりした人にスタッフがしっかり対応してくれたとも記しています。
腹が立って仕方がない。
— くーみん@ずぼら戦隊主婦レンジャーくみブラック (@kuumindesu) 2019年3月23日
一人の子の人生をめちゃくちゃにしてまで、守りたいものがあるの?
これがベストな選択だと心の底から思ったのであれば
あんたらは鬼だ
これに先立ち21日に第三者委員会の調査報告書がネット上で公表されました。強制力を伴う捜査と異なる任意調査の限界はあるものの、明らかになったことも多くあります。
その一つは男性2人(甲、乙)が逮捕(不起訴)された暴行事件で山口さんが受けた被害の概要です。メンバーから聞き出した情報をもとに山口さんの帰宅を待ち、事件に至ります。
第三者委の認定によると、12月8日夜の公演後、山口さんは他のメンバーとともに劇場からマイクロバスに乗りました。バスが一つ目の降車ポイントで停車した際、降りたメンバーAは男性丙から山口さんがバスに乗っていたか聞かれて、乗っていたことを答えました。丙は握手会などでAと顔見知りでした。
丙はAから聞いた内容などを甲と乙に伝えます。甲は事件以前から、山口さんの部屋の向かいの部屋を賃借していました。
甲と乙は山口さんと会って話をしたいと考え、丙からの報告を聞き、山口さんが同じ階に住む別のメンバーと一緒ではなく一人で帰宅することを確認した上で、玄関付近で声をかけることとし、向かいの部屋で待っていました。
山口氏さんは午後8時40分ごろマンションに到着。自分の部屋に入ってドアを閉めようとしたところ男に顔面をつかまれるなどの暴行を受けました。
報告書には、山口さんが調査に話した内容として、「しばらく声も出せなかった。1分後くらいに『助けて』と共用廊下に向かって叫んだ」「過呼吸になりながら泣き叫んだ」といった事件当時の、生々しい描写が記されています。
その後、山口さんは、男性らとマンションの外の公園に移動、ほかのメンバー、マネジャー3人が合流して、主に甲との間でやり取りします。警察が到着し、翌9日に甲、乙は暴行容疑で逮捕(不起訴)されます。
事件直後、山口さんと甲、乙との会話の録音データが存在していました。甲は山口さんから「つながって、かかわってるメンバー全員言って。もうだれだれ言って。もういっかい」と言われ、複数のメンバーの名前を挙げていました。また、山口さんは第三者委の調査に、甲が事件直後、「こうすればまほほんと話せるよと提案された」と言い、メンバーとしてABCの3人の名前を挙げたと述べています。
ただし、調査に、メンバーB、Cとも関与を否定。Aは、丙から話しかけられて答えたこと以上の関与は否定しました。こうしたことから、B、Cの関与を示す証拠を確認できませんでした。Aが丙に答えたことは不適切だったが、顔見知りだった丙から声をかけられたためとっさに答えてしまったのが実情と考えられる、と調査委は判断。メンバーが関与した事実は認められなかったと結論づけました。
とはいえ、録音データで逮捕(不起訴)の男性からメンバーの具体名が複数挙がった点は、真意は検証できなかったとしつつ、録音に記録されていた事実は認定しています。
大半のファンは握手会や公演などで「推しメン」を応援する一方、私的領域で不適切に「つながる」ことはしません。一般的に、発覚すれば運営から劇場などへの「出入り禁止」を言い渡されるリスクがあります。また「推しに迷惑をかけない」というファン心理も働くと言われます。
ですが、NGTにおいては「厄介」と呼ばれる一部の悪質なファンがメンバーとの「つながり」を求めて接触し、実際、「つながり」が散見されました。
報告書が認定したのは、たとえば、握手会で大量の握手券の「まとめ出し」により得られた会話の機会を利用し、悪質なファンがメンバーに総選挙での大量投票を約束したり、(実名を挙げて)他のメンバーもファンとつながっているから大丈夫などと言葉巧みにメンバーとの「つながり」を求めたりといった行為です。また、SNSのインスタグラムやツイッターでのダイレクトメールを要求する方法により「つながり」を求めてきたケースもあったとしました。
送迎バスを突き止めて後をつけるなどして、メンバーの住居を把握しようとする者もおり、実際に多くのメンバーが居住するマンション名がファンの一部に知られていた、とも指摘しました。逮捕(不起訴)の甲は山口さんの住むマンションに複数のメンバーが居住していることを突き止めた上で、以前から部屋を借りていました。
そして、報告書は、悪質なファンによる働きかけに対して、一部のメンバーは「つながり」を持っていたことが、調査で「うわさ」レベルではなく、具体的な事実として垣間見ることができた、と指摘しました。メンバーは私的な接触を戒めるのが当然視されるメジャーアイドルの世界では異例です。
報告書は、丙と思われる男性から話しかけられ、何の抵抗もなく会話をしているメンバーがいた。丙と複数回個別に会っていたメンバーがいた。事件後に、数人のメンバーがファンとの「つながり」があったとして自ら申告した、といった点を列挙しています。
さらにメンバーからの事情聴取の結果、確たる証拠はないものの、ファンから聞いた、あるいはメンバー内のうわさとして聞いたとして、36人のメンバーから他のメンバーとファンとの「つながり」に関する供述があった。その際12人のメンバーの名前が具体的に挙がった、とも記しています。
ですが、運営会社AKSは今回、責任を問われるべきは「組織運営に問題があった当社」だとして、メンバーの処分は、つながりを含めて「不問」としました。会見で再三尋ねられても、松村氏はだれが関与したのか明らかにせず、不問という方針も変えませんでした。
結果的に、ネット上では関与したメンバーがだれか、臆測も交え、議論は収まっていません。
「報告書で『つながり』が認定されたメンバーもいる。その実態を調査せずに全員不問というのは、運営が最初からメンバーを処分するつもりがないという姿勢が伺え、許せない」と山口さんのファンの一人は語ります。
只今、記者会見を行っている松村匠取締役は第三者委員会が行われる前に「繋がっているメンバーを全員解雇する」と私に約束しました。
— 山口真帆 (@maho_yamaguchi) 2019年3月22日
その為の第三者委員会だと、
私も今までずっと耐えてきました。コミュニケーションも何も、このことに関して聞くと連絡が返ってきません。
事件の背景には、AKSのメンバーの安全管理がきわめて不十分だったことがあります。
報告書は「メンバーの住居の安全確保についての意識をより一層高く持つべきであり、送迎時の危険の低減、居住先の管理等を行う必要がある」と指摘。悪質なファンの出入り禁止の情報が、複数の劇場や現場で共有されていないことや、マネジャー不足も改善点に挙げたうえで、スタッフの養成や意識教育、メンバーのプロのアイドルとしての意識の徹底、支配人の権限の明確化などを対策として列挙しています。
一方、報告書や会見で明らかにならなかったポイントもあります。
一つは、今村悦朗前支配人の対応についてです。報告書は、「発生した事象の詳細を正確に理解せず、他の事象への対処との均衡を必ずしも正確にはかることなく判断していると、メンバーやスタッフから評価されることが多かったようだ」などと指摘しました。しかし、事件発生から支配人を異動するまでの約1カ月間、具体的にどう対応していたのか、詳しい記述はありません。
NGTのファンの間では逮捕(不起訴)の男性を含め、一部のファンが抽選イベントによく当選したり、ライブの良席で目撃されたりしたことなどから、運営が一部のファンを優遇していたのではないか、という疑惑がくすぶっていました。この点も踏み込んだ記述はありません。松村氏は会見で、「ないと思っております」と否定しました。
48グループの総合プロデューサーである秋元康氏や秋元氏の事務所が今回の問題の対応に関わっていたのかもポイントでした。
報告書は、AKSが業務委託契約を結ぶ、「Y&N Brothers」(いわゆる秋元氏の事務所)の代表者に確認したところ、委託業務はクリエーティブなプロデュース部分で、運営、メンバーや劇場の管理はAKSが業務を遂行すると定められていることが確認された、と述べるにとどめています。
松村氏も会見で、秋元氏がなぜ公式なところで発言しないのかとの問いに、「NGTの運営は弊社が全面的に対応し、秋元さんはクリエーティブな部分を担っている」と、報告書と同じ趣旨を語りました。
ですが、NGTのメンバーを起用した広告の取りやめ、冠番組の終了――。今回の事件やその後の運営の度重なる危機管理対応のまずさは、NGTはもとより、グループ全体の信頼を失墜させる事態に発展しつつあります。
グループ最大のイベント選抜総選挙も今年は開催されません。松村氏は「昨年で10年たち、一定の役割を終えた」とNGTの問題との関連を否定していますが、ビジネス上も大きな影響は避けられません。
運営の失態によるグループのイメージダウンで、まじめに活動に取り組む多くのメンバーの活躍の場やチャンスが減ることになれば、不幸としかいいようがありません。48グループの総合プロデューサーである秋元氏はじめ、より適切な責任者が問題と真剣に向き合い、発信や具体的な対処をするより、信頼回復を目指す道はない。そう強く感じます。
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